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「おはようございます、鷹通様」
厚いカーテンを開けて朝の日差しを窓から取り入れる。
日々、毎日の繰り返し。
花月がこうして主人を起こすのも、もう2年が過ぎる。
「う、ん……」
ベッドの中でもぞもぞと、呼ばれた主は寝返りを打つ。
近寄ってもう一度呼ぶ。
「鷹通様、朝です………えっ!?」
すると急に掛け布団から腕がのびてきて、花月をベッドに引き入れる。
「ひゃっ!?」
ぼすんっと高級羽毛の上でバウンドした。さすがに良い品なので人の上に飛び込んでもふかふか。
目の前ではにこっと鷹通が笑っている。
「おはよう、花月」
ぎゅっと花月を抱き締める。
そうだ。この人はすごく寝覚めのいい人だ。起きなかったことなんてなかったし、1回呼べば必ず瞳を開けた。
なんか……だまされちゃった感じがする……。
優秀な後継ぎ息子様は最近ちょっかいを覚えたらしい……。
鼻先にチュッと軽くキスされた。
何度されても慣れないキス。
頬に、額に、散らされる。
綺麗に整った顔を見ていると、腰に手が這わされてきた。
「あ、あの……鷹通様……?」
「なんだい?」
その間も手はするすると下りてくる。
その手はなんですか…?????
恥ずかしくて顔を真っ赤にしながら相手を見やると、相も変わらず優しく微笑んでいた。
「花月は可愛いね」
お尻に触っているのとは逆の手で花月の漆黒の髪を撫でる。
「そ、んなこと……」
ないです、と目を逸らす。
こんなこと何回も言われてるのに。言われる度に嬉しくて。
そらした目線でベッドサイドを見、自分の態勢を考える。
も、もしかして跨いでる……?
「あっ! ごめんなさっ……申し訳ございませんっ!」
急いでベッドをおりて頭を深く下げる。
主人を、あろうことか跨ぐなんて……!
引っ張りこんだ張本人は今にも泣きだしそうな花月を見てくすくす笑っている。
鷹通はベッドに腰掛けて花月の顔を覗き込んだ。
「ほら、顔を上げて。可愛い顔が勿体ないよ?」
「……ですが……」
「主人の上に乗っちゃいけないなんて決りある?」
「……ない、です……」
跨ぐなんて失礼なこと誰もしないから。
「だろう?」
静かに、あやす様に、指先で目尻に溜まった雫を拭いとる。
「はい、泣かない」
瞼にキスし、しばし顔を見つめたあと、唇にキスされた。
優しい、甘いキス。
この時が止まってしまえばいいのに――…。
どんなに望んでも、例えどんなことだろうと、終わりは必ず、くる。
暫し唇を重ねたあと、鷹通の方から離していった。
つい、ねだるような目線になってしまってるのではないかと、顔をそらす。
「さて、そろそろ着替えなきゃね」
「あ、はい」
ワイシャツから靴下からハンカチから、すべてをまとめた籠を差し出して、クローゼットから今日着るスーツを出す。
主人がある程度の歳になれば着替えは手伝わない。が、ネクタイを締め、全体を整えるのは専属メイドである花月の仕事の一つ。
明るめなのスーツにあわせて渋めの青を選び、鷹通の前で結ぶ。
はじめの頃はぎこちなく、いびつになってしまっていたのも、今では素早く、かつ綺麗に出来るようになった。
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