original
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やっぱ好きな人には美味しいものを食べてほしいし。ってなに考えてんだ俺っ!
「あ、そー。花月も料理作ったりすんの?」
急に兄弟の話をされる。時々、鷹哉は花月の話題を振ってくるのだ。
「さぁー? 最近一緒にいないし。でも花月は料理ってより菓子だなー。昔からお菓子作るの好きだったから」
「ふーん」
ショートケーキのてっぺんの真っ赤な苺をぱくりと口に放り込む。
「ほれ」
フォークの上に一口大のケーキを葉月の口元に運ぶ。
「あーん」
遠慮なくぱくつく。
デザートなど食べてる時、だいたい鷹哉は葉月にお裾分けをする。
単に甘いものが苦手なのか、それとも葉月を子供扱いしているのか。
葉月は甘いもの好きだし、花月とよく分けて食べてたから、人から貰うのになんの抵抗もなく食べてしまう。
やっぱ好きなヤツから貰ったんだから『きゃー間接ちゅー!』とかなんなきゃいけない気もするけど……。
「やっぱうまいな〜花月のケーキは」
んな乙女チックな反応出来るか。
それよりも花月に貰ったケーキを堪能する。
「これ花月のお手製なんか?」
葉月の一言に鷹哉びっくり。
なんで『花月』に反応するかなぁ。
なんか、やだ。
「……言わなかったっけ? これ花月が作ったの」
「へぇ〜通りで周りのビニールなかったわけだ。てっきり葉月が取って摘み食いでもしたんかと」
んなことしませんよ。
「俺は先に貰って食べたも〜ん」
「あ、ずりっ。ならやんなきゃよかった」
食べおわってケーキがなくなった皿を見ながら言う。
「あーあ。もっと味わって食えばよかった」
何でそんなに残念そうなのさ。
それは花月が作ったから…?
「美味しかった?」
伺うように聞いてみる。
「ああ。すっげぇうまかった」
名残惜しそうに言う。ちょっとカチン。
何で、そんなに嬉しそうに笑うの?
俺の料理出したってあんなにうまいって言わないし。
やっぱ花月だから……。
「そりゃ美味しいだろうねっ!なんせ花月が作ったんだし!」
唯一の肉親が誉められるのは嬉しい。だけど好きなヤツにそこまで言われると嫌だ。むかつく。
「な〜にむくれてんの」
鷹哉は「ごっそうさん」と手を合わせると、自分で食器をカートに片付けはじめた。
むくれてるつもりなんかないけど。
むくれてるとしたら、それは鷹哉のせいだ。
「別にっ! 花月のケーキがお気に召したようでっ!」
自分もさっさと片付けるべく立ち上がる。
こんな気持ちになる理由なんてわかってる。
「何、お前ヤキモチ?」
そう、やきもち……嫉妬だ。
にやにやしながら言ってきたら、きっと言い返せてた。「そんなわけない」って。
でも、ちっとも笑ってなくて。
その目は真っすぐ俺を見てて。
いつになく真剣な眼差しで。
「……っ!」
綺麗で、それでも鋭さは増して。
何か怒ってるみたいで。
そんなに、花月のこととやかく言われるのが嫌なの……?
そんなに、花月が好きなの……?
先に鷹通様が花月を専属にしたから、仕方なく俺を専属にしたの……?
「……バカタカヤ」
俺の気持ちも何にも知らなくて。
振り回して。
こんなに掻き乱して。
「バカタカヤなんか……っ!」
泣くところなんて見られたくない。だけどもう我慢できそうもない。
もう鷹哉の前にいたくなくて、部屋を飛び出す。
「おいっ! 葉月!?」
花月がいいなら、俺が嫌いなら、呼び止めなきゃいい。
俺はもう止まる気なんかない。
鷹哉のところへ行くつもりなんかない。
行かれない。
花月が好きな、鷹哉のもとには。
鷹哉なんか…嫌いだ。
だいっきらいだ…!
葉月は自分の部屋まで夢中で走った――…。
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