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ふと見れば、この部屋にも自分の物が増えた。
小さい棚一つに、いろいろと日用雑貨。服は同じメイド服が何枚かあるだけ。住み込みの働きで休みもないから私服なんか着る機会ないし、買う暇もない。
まずメイド服に問題があるよなぁ〜。
今着ているスカートの裾をつまんで考える。
男なのにスカートを履かねばならぬ屈辱。理由がこれまた……。
男の下働きがだんだん増えてきて、若いメイドさん方が続々と寿退社(?)しちゃって。
男物の服が不足になり、まぁまぁ可愛かった花月&葉月がメイド服の餌食に。
薄情な男共からは『か、可愛い……』と怪しい目線が、オバサン方からは『若いし可愛いんだからいいじゃないの〜』と言うふざけた声が。
花月は鷹通が女の子に間違えるほど可愛くて、そりゃーもうそこら辺の女より目はでかいし華奢だし、こう思わずぎゅっとして頬摺りしたくなるような……って違くてっ!
まぁ、可愛い花月はともかく、なんで俺までやられなければならないのか。
双子で顔は似ているとも、性格は全然違って、顔つきもおのずと違ってくる。
自分ではけっして似合うとは思わないが……鷹哉に無理矢理着せられて。
『かわいいじゃん。あ、こいつ俺の専属決まりね』
この言葉でメイド服生活が始まってしまったのだ……。
バカタカヤめ。
深夜近くに帰ってきた鷹哉に、葉月特製手料理を作ってやる。
遅くなる、と連絡を受けた日は料理長に話をして、勝手に厨房を使わせてもらうようになった。
そういえば初めて料理を出した時、鷹哉は心底驚いた顔をしたなぁ〜。と一人笑いながら薄暗い廊下の中、夜食を乗せたカートをゴロゴロと運ぶ。
普通、下働きは料理なんか作らないから、葉月が作ってくるなんて思わなかったんだろう。
部屋に入って皿を並べていると、いいタイミングでシャワーを浴び終わった鷹哉も入ってきた。
「お、いい匂いすんな〜」
頭をタオルでガシガシ拭きながら近付いて匂いを堪能する。
夜9時以降の食事はあまり良くないと聞いたが……こいつは気にすることもなく食べて食べて。
それなのに太りもしないで良い躰してるのがむかつく。
「30過ぎると食べれなくなるらしいぜ〜? 今のうち今のうち。あと何年そんなに食べられるんだろうな〜」
「いただきます」と手を付け始めた鷹哉の向かいに座り、にやにやしながら言ってやる。
「バカヤローまだ10年はあるわ。ってそんなにねぇか」
「10年あるのは俺ね。鷹哉は……あと1年?」
「勝手にジジイにすんな。何で兄貴より年上なんだよ」
「だって鷹哉おやじくさいもん」
「渋くてカッコいいって言え」
「いや、カッコいいはいらないし」
二人で笑う。
言い合いながらも、和やかに喋るこの時間が好きだ。
目の前で美味しそうに食べてくれる鷹哉が好きだ。
立っているだけで、その場の雰囲気を変えてしまう存在感。
適当に食べてるはずなのに、目を引く指先。
まじまじと見ると、睫毛だって長いし、切れ長の眸だって筋の通った高い鼻だって、顔全部が綺麗で。
やっぱカッコいいな……。
「何?」
葉月の視線を感じた鷹哉が顔を上げる。
「……へっ!?」
見とれてたのに気付いて、自分にびっくりした。
「あ! それっ! そのロールキャベツ! かなりいい出来なんだけど!」
もう食べおわった皿をがちゃがちゃ片付けながらの言い訳。
「あー、そういや美味かった。自分で巻いたのか?」
素直に誉めてくれたためしはないけど、ちゃんと美味しいって言ってくれる。作りがいがあるってもんだ。
「うん。自分で巻いてみたんだ。意外に簡単だった」
「あっそ? じゃ、また今度作ってくれや」
だからその「くれや」がおやじくさいんだよ。
好きなヤツに、美味しいとか、また作ってとか言ってもらえると嬉しい。
「なぁ。最近思うんだけどさ」
「ん?」
デザートで出したショートケーキに食い付きながら尋ねてきた。
「なんかお前の料理が段々とグレードアップしてる気がすんだけど」
ギクッ。
実は自腹切って材料買ってるんです、なんて言えない。
「気のせいじゃないかっ!?」
なんで気付くんだよ。
調子こいて手入れすぎたかな。ロールキャベツってグレード高いか?
残り物なんて量も種類も限られてくるし、一応『御曹司サマ』だし、ありきたりなもの食べさせる訳にはいかないし。
まぁそんなの只の言い訳なんだけど……。
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