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「さむ……っ」

外へ出ると、朝独特の寒さがやってくる。


「智春、歩きで大丈夫?」

「俺は大丈夫だけど、どっかのだれかさんは本当に寒がりだね」


「大きなお世話!」


「はは。そう言わずに、ね?」


智春に肩を抱かれる。

こうして二人で並んで歩いていると、まるで恋人同士みたいだ。


「……アンタって、天然タラシ?」


「? なにそれ」


なんでもない、とだけ答える。


肩を抱かれるなんて、そんなの客にしょっちゅうされることなのに。

今、すごいドキドキしてるのは、寒いせいだと思いたい。



「じゃあね」

「うん。お気をつけて」


大門を出れば、そこは普通の世界。

俺たち身体を売ってる奴等には、行くことが許されない“外”。


俺たちは所詮、“中”の人間なんだと思いしらされる。



「春菊、風邪ひかないようにね」


「……アンタこそ。ちゃんと車にも気をつけなよ」


「はは、心配性だなぁ」


……本気で心配。

あぁ、これならタクシー呼んどけばよかった。



智春が隣からいなくなって寒くなったのか、無意識のうちに自分の肩を抱いていると、最後にぎゅっと抱きしめられる。


「ごめん、寒いのに見送りさせて」

「ちが……、仕事だし、俺がもっと厚着してくればよかっただけで」


慌てて言うと、智春はふっと笑った。


「じゃあ、お詫びに」

「へ?」


――ちゅ


「……っ!」

今、今、でこ、ちゅって……!


「部屋に戻ったらすぐあったまるんだよ? じゃあね、春菊」


そう言って智春は歩いて行った。


その後ろ姿をぼーっと眺めてたら、もうすぐ見えなくなる、ってところで手を振ってくる。


それに慌てて振り返すと、笑ったのがわかった。





『お詫びに――…』


おでこにキスされた感触。


初めて、智春にキスされた……。


なんでだろう。

すっごく、心があったかくなった。


頬も熱くなる。


なんなんだよ、あの人。




「……天然タラシ決定」



●続●


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