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四
「さむ……っ」
外へ出ると、朝独特の寒さがやってくる。
「智春、歩きで大丈夫?」
「俺は大丈夫だけど、どっかのだれかさんは本当に寒がりだね」
「大きなお世話!」
「はは。そう言わずに、ね?」
智春に肩を抱かれる。
こうして二人で並んで歩いていると、まるで恋人同士みたいだ。
「……アンタって、天然タラシ?」
「? なにそれ」
なんでもない、とだけ答える。
肩を抱かれるなんて、そんなの客にしょっちゅうされることなのに。
今、すごいドキドキしてるのは、寒いせいだと思いたい。
「じゃあね」
「うん。お気をつけて」
大門を出れば、そこは普通の世界。
俺たち身体を売ってる奴等には、行くことが許されない“外”。
俺たちは所詮、“中”の人間なんだと思いしらされる。
「春菊、風邪ひかないようにね」
「……アンタこそ。ちゃんと車にも気をつけなよ」
「はは、心配性だなぁ」
……本気で心配。
あぁ、これならタクシー呼んどけばよかった。
智春が隣からいなくなって寒くなったのか、無意識のうちに自分の肩を抱いていると、最後にぎゅっと抱きしめられる。
「ごめん、寒いのに見送りさせて」
「ちが……、仕事だし、俺がもっと厚着してくればよかっただけで」
慌てて言うと、智春はふっと笑った。
「じゃあ、お詫びに」
「へ?」
――ちゅ
「……っ!」
今、今、でこ、ちゅって……!
「部屋に戻ったらすぐあったまるんだよ? じゃあね、春菊」
そう言って智春は歩いて行った。
その後ろ姿をぼーっと眺めてたら、もうすぐ見えなくなる、ってところで手を振ってくる。
それに慌てて振り返すと、笑ったのがわかった。
『お詫びに――…』
おでこにキスされた感触。
初めて、智春にキスされた……。
なんでだろう。
すっごく、心があったかくなった。
頬も熱くなる。
なんなんだよ、あの人。
「……天然タラシ決定」
●続●
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