original
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●サンタの苦労もダテじゃない●
「「いらっしゃいませー!」」
いつも以上に飾られた店内。
赤や緑、サンタやトナカイなど、クリスマスを感じさせる装飾。
クリスマスが近づいて浮足立つのは、なんでだろうな。
いつもは中でケーキを作るか、人が少ないときはちょっとショーケースに付いてみたりと、そんなのんびりしてたけど。
(こんなんじゃ土日混むとか泣き言言ってらんねーな)
休日とクリスマス・イブが被った今日は、凄まじい混み合い。
予約したケーキを取りにきた人や、ケーキを見にきた人がごっちゃまぜ。
そのせいで俺はさっきから厨房と接客の行き来。
「サトウ様ですね、こちらになります! 苺が別になってますので、お乗せになってお召し上がりください!」
ありがとうございましたー!と言いつつ、なんで忙しいと声がでかくなるんだろう、と変なことが気になってしまう。
「……あの、すみません」
「あ、はい。いらっしゃいませ」
ショーケースの向こうから声をかけられて、普段は絶対出ない営業スマイルで返事をした。
「えっと、先日クリスマスケーキを頼んだんですけど、その……急に実家に戻らなくちゃいけなくなっちゃって。すみませんが、キャンセルってできますか?」
なんとなく、専業主婦って感じの人。
申し訳なさそうに、眉毛が八の字になってる。
「ちょっと聞いてきますので、少々お待ちください」
お名前は、と聞くと富田です、てまたすまなそうに言った。
(富田……)
アイツと同じ名前。
「え、と……」
じーっと見たまんま動かない俺を不審がってか、声をかけてくる。
ふと、店長のほうに向かっていた足を止める。
「あ、すみません。あの、ケーキ……キャンセルでいいですけど」
「?」
「またいらっしゃってください。その時に俺、作りますから」
クリスマスじゃなくなっちゃいますけど、と付け足したら、子供が喜びます、って笑ってくれた。
(こんな優しそうなお母さんでよかったな)
知りもしない子供に、語りかけちまうなんて。
(俺もクリスマスにあてられたかなーっと)
「本当にすみません。年明けになってしまうかもしれませんが」
「いいですよ。基本的に毎日入ってるんで」
ついついフレンドリーに話してしまう。
この女の人、すっごい丁寧な人。
お母さんみたいな。
実際お母さんなんだけど。
「俺、高山って言います。バイトなんで夕方しかいませんけど」
「本当にすみません。ありがとうございます」
「いえ、今度はお子さんもぜひ一緒に」
その女の人は頭を下げて、急いで店から出ていった。
それから少しして。
だいぶ客足も少なくなってきたころ、まだ取りに来ていない予約ケーキは1つ。
富田さんのだった。
(あれ……?)
開けてみたら、おそらく自分が作ったであろうケーキ。
(あ、そうだ)
「店長ー、これキャンセルなんですけどもらってっていーっすかー? あ、金はちゃんと払うんで」
財布にそんなに入ってたかな、と考えつつ、店長からOKをもらう。
(なんだかんだでアイツにプレゼント用意してないし)
案外甘党な富田のことを考える。
男の一人暮しにホールケーキ1つはデカすぎだけど、まぁなんとかなるだろ。
バイトが終わり次第駆け付けると言ってあるから、富田は今も素直に待っていてくれるんだろう。
(アイツ、プレゼントとか用意してそうだなー。しかも仕様もないヤツ)
ぷ、と噴き出して、同僚からは「どうしたんですか?」と心配をされてしまう。
なんでも、とにやけを抑えようとするけど、バイトが終わるまでの時間が楽しみでしょうがない。
クリスマスなんて、ただ忙しいだけで自分がどう過ごすなんて考えてなかった。
でも、富田っていう恋人ができて。
富田のおかげで、俺は変われた気がする。
(ま、ちゃんとしたプレゼントはまた来年ってことで)
来年とか、未来を楽しみに考えるなんて付き合い、初めてだから、なんかこそばゆいな。
バイトもあがって、富田に今から行くよメールをする。
すぐに返信がきて、気をつけて、と単調だけど富田の性格がよく出てる文章だった。
(うーん、やっぱいいヤツ)
今年のクリスマスは、
あ、いや。
富田がいるかぎり、富田と一緒にいるなら、いいクリスマスになると思った俺は、惚気てんのかな。
また頬をほころばせながらも、ケーキを片手に富田のアパートへ向かった――…。
●end●
バイトが勝手にケーキつくっていいのかな(´艸`)笑
アホな話ですが続きます
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