「…んで、てめぇがここに…いるんだぁ」
荒く浅い息を繰り返しながら、いるはずのない姿に、スクアーロは存在を確かめるようにさくらの頬に触れた。
「スクアーロさんを置いて逃げるなんてできませんよ」
「馬鹿じゃねぇのか…奴らに見つかったらどうするつもりだったんだぁ?」
「その時は、その時ですよ。例えこのまま真六弔花に勝ったって、スクアーロさんがいないと意味がないですから」
「…チッ」
軽く舌打ちをして身体を起こす。
致命傷の手前まで傷を負っていると言えど、動けないわけでもなさそうだ。
「ダメですよ、その体で!」
「だが、このままここにいるわけにもいかねぇだろうが」
さくらは言葉に詰まる。
無理をさせたくはないが、早くみんなのところに戻らなければ。
「…晴の炎」
「え?」
「晴の活性の炎で傷を多少なりとも癒せないかしら」
そう言い出したのはビアンキだ。
しかし、ここにいる者の中に晴属性はいない。
ビアンキの目は真っ直ぐさくらを見据えていた。
「全ての波動が流れているさくらなら、晴の炎だけをリングに灯すことはできないかしら」
「そんな…そんなこと、やったことないです」
「試してみない?クオーレリングは、覚悟の代わりに"心"を炎に変えるリング…。
あなたの彼を想う気持ちが炎に変わるはずよ」
さくらは、ビアンキの言葉に頷く。
できるかできないかでは、ない。
やろうとしなければなにもできない。
―――スクアーロさんを…大切な人を守る力が欲しい。
わたしの中にある晴の波動が、リングに伝わるように…。
その時、黄色い炎がリングの周りを照らした。
晴の炎だ。
さくらは炎をスクアーロの傷の上にかざす。
完璧ではないが、痛みに歪んでいたスクアーロの表情が和らいだ。
「…これなら、なんとかなりそうだなぁ」
「さくらさん、すげーな!」
「…できた」
けれど、炎の出力が弱いせいか、完治させるにはかなりの時間が必要そうだ。
スクアーロは山本の肩を借りて立ち上がる。
なんとか歩けそうだ。
ここに長い時間留まっているのは危険だ。
一行はアジトを出発し、綱吉たちの元へと急ぐことにした。
「…殺気はねぇな」
「やっぱり、綱吉くんたちを追っているんでしょうか」
「けど、さくらさんも真六弔花に狙われてるんだ。用心してこーぜ」
「…待て」
不意に、山本の肩を借りていたスクアーロが足を止める。
突然現れた僅かな気配をスクアーロは感じ取っていた。
それも、だんだん近づいてくる。
僅かに殺気を含んだ気配は、一般人のものではないことは確かだ。
木の陰に身を隠し、気配の主を探る。
向こうも、こちらの気配に気づいたらしい。
低く、唸るような声を発した。
「誰だ」
「…あ」
聞き覚えのある声に、さくらは、小さく声を洩らした。
陰から姿を現したのはスクアーロと同じモノクロの隊服。
あれほどに会いたいと願っていた人たちだった。
「ザンザスさん…ベルさん、ルッスーリアさん!レヴィさん!!」
「…さくらちゃん?本当にさくらちゃんなの?」
「皆さん、なんでここに……どうしましたか、ベルさん?」
さくらは、じっと立ち尽くしたままのベルフェゴールに声をかける。
近づいて顔を覗きこむと、ようやく唇を震わせて言葉を発した。
「マジで…、さくら?」
「なんですか、みんなして幽霊でも見たみたいに。
私、すっごく心配してて…ほんとに、ほんとに会いたかったんですから…!」
「んなの、こっちの台詞だっつーの」
「わっ」
ベルフェゴールは、さくらの腕を引いて強く抱き締めた。
どれだけ会いたかったか。どれだけ心配したか。
そう思っていたのは、さくらだけではない。
「…おかえり」
世界で一番大切な場所
←→
[戻る]