Target 56:世界で一番大切な場所



「…んで、てめぇがここに…いるんだぁ」


荒く浅い息を繰り返しながら、いるはずのない姿に、スクアーロは存在を確かめるようにさくらの頬に触れた。


「スクアーロさんを置いて逃げるなんてできませんよ」

「馬鹿じゃねぇのか…奴らに見つかったらどうするつもりだったんだぁ?」

「その時は、その時ですよ。例えこのまま真六弔花に勝ったって、スクアーロさんがいないと意味がないですから」

「…チッ」


軽く舌打ちをして身体を起こす。
致命傷の手前まで傷を負っていると言えど、動けないわけでもなさそうだ。


「ダメですよ、その体で!」

「だが、このままここにいるわけにもいかねぇだろうが」


さくらは言葉に詰まる。
無理をさせたくはないが、早くみんなのところに戻らなければ。


「…晴の炎」

「え?」

「晴の活性の炎で傷を多少なりとも癒せないかしら」


そう言い出したのはビアンキだ。
しかし、ここにいる者の中に晴属性はいない。
ビアンキの目は真っ直ぐさくらを見据えていた。


「全ての波動が流れているさくらなら、晴の炎だけをリングに灯すことはできないかしら」

「そんな…そんなこと、やったことないです」

「試してみない?クオーレリングは、覚悟の代わりに"心"を炎に変えるリング…。
あなたの彼を想う気持ちが炎に変わるはずよ」


さくらは、ビアンキの言葉に頷く。
できるかできないかでは、ない。
やろうとしなければなにもできない。


―――スクアーロさんを…大切な人を守る力が欲しい。
わたしの中にある晴の波動が、リングに伝わるように…。


その時、黄色い炎がリングの周りを照らした。
晴の炎だ。
さくらは炎をスクアーロの傷の上にかざす。
完璧ではないが、痛みに歪んでいたスクアーロの表情が和らいだ。


「…これなら、なんとかなりそうだなぁ」

「さくらさん、すげーな!」

「…できた」


けれど、炎の出力が弱いせいか、完治させるにはかなりの時間が必要そうだ。
スクアーロは山本の肩を借りて立ち上がる。
なんとか歩けそうだ。
ここに長い時間留まっているのは危険だ。
一行はアジトを出発し、綱吉たちの元へと急ぐことにした。


「…殺気はねぇな」

「やっぱり、綱吉くんたちを追っているんでしょうか」

「けど、さくらさんも真六弔花に狙われてるんだ。用心してこーぜ」

「…待て」


不意に、山本の肩を借りていたスクアーロが足を止める。
突然現れた僅かな気配をスクアーロは感じ取っていた。
それも、だんだん近づいてくる。
僅かに殺気を含んだ気配は、一般人のものではないことは確かだ。
木の陰に身を隠し、気配の主を探る。
向こうも、こちらの気配に気づいたらしい。
低く、唸るような声を発した。


「誰だ」

「…あ」


聞き覚えのある声に、さくらは、小さく声を洩らした。
陰から姿を現したのはスクアーロと同じモノクロの隊服。
あれほどに会いたいと願っていた人たちだった。


「ザンザスさん…ベルさん、ルッスーリアさん!レヴィさん!!」

「…さくらちゃん?本当にさくらちゃんなの?」

「皆さん、なんでここに……どうしましたか、ベルさん?」


さくらは、じっと立ち尽くしたままのベルフェゴールに声をかける。
近づいて顔を覗きこむと、ようやく唇を震わせて言葉を発した。


「マジで…、さくら?」

「なんですか、みんなして幽霊でも見たみたいに。
私、すっごく心配してて…ほんとに、ほんとに会いたかったんですから…!」

「んなの、こっちの台詞だっつーの」

「わっ」


ベルフェゴールは、さくらの腕を引いて強く抱き締めた。
どれだけ会いたかったか。どれだけ心配したか。
そう思っていたのは、さくらだけではない。


「…おかえり」



世界で一番大切な場所



[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!