そして、冷淡なチェルベッロの声はチョイスを進行していく。
「では参加戦士は基地ユニットにお入りください。フィールド内のランダムな位置へ転送します」
「参加戦士以外の皆様には、各ファミリーそれぞれにフィールド内に観覧席を用意しましたので、そちらへ」
ブルーベルとザクロは出番がないことに些か不満げだった。
それを見て、白蘭がさくらから離れ、二人を観覧席に促す。
「あ、あの!私、ボンゴレの観覧席に入っても構いませんか」
白蘭が離れた隙に、さくらは前へ走り出ると声を上げてチェルベッロに尋ねた。
チェルベッロは突然のさくらの申し出に互いに顔を見合わせる。
さくらはきっぱりと言い切った。
「私は、ミルフィオーレの味方としてミルフィオーレの観覧席にはいられません」
「…如何致しますか、白蘭様」
判断しかねたチェルベッロが白蘭の指示を仰ぐ。
白蘭はしばらく考えるそぶりを見せたが、やがて口元に笑みを浮かべた。
「…特別に許可するよ」
てっきり却下されるだろうと思っていたさくらは、白蘭のOKに驚いた。
「ボンゴレと一緒にいられるのは、たぶん最後になるからね」
そう言って白蘭は白いワンピースの衿元をなぞり、薄ら笑いを浮かべた。
ぞくり。その妖艶な仕種にさくらの背筋に冷たい汗が流れる。
白蘭は、すでに勝ったつもりでいるらしい。
それほどに真六弔花の力を過信しているのか、はたまた己自身に自信があるのか。
どちらにせよ、さくらが現れたことによってすでに均衡が崩れているこの世界で、チョイスの勝敗を保証するものはない。
白蘭の笑みは、さくらの不安をかきたてるだけだった。
白蘭がミルフィオーレの観覧席に向かうためにさくらに背を向けると、スクアーロが走り寄ってきた。
「さくら…大丈夫かぁ」
「大丈夫、です」
スクアーロと共にボンゴレの観覧席に入ると不意に、一人の男がさくらに近づいてきた。
「葉月さくら、だな?」
「え…」
「お前にちょっと聞きたいことがあってな」
男はディーノ、と名乗った。さくらも良く知る人物だ。
ディーノが近づいてきたとき、スクアーロはあからさまに嫌そうな顔をしたがディーノはそれを見なかったことにした。
「クオーレリングの事を聞いて、俺も少し調べた。けれど、やっぱり都市伝説になるほどのリングなだけあって、情報はまるで少ないな」
「……」
「お前はリングの力についてどれくらい知っているんだ?」
予期していなかった内容の質問にさくらは目を瞠る。
「7з<トゥリニセッテ>と同等の力を持つ、としか…」
「確かにそのリングは世界をも掌握できるほどの強大な力を持っている…
けどな、それだけじゃないんだ」
するとディーノは、古い文献を取り出してさくらに差し出した。
さくらはこわごわと文献を受け取る。
そこには見慣れない言語で細かな字が印されていた。
スクアーロが横から覗きこみ、文字を目で追うと小さくため息をついた。
「イタリア語だな…"クオーレリングが7з<トゥリニセッテ>と共鳴したとき、その白い炎は陽炎を生み出す"…か」
「その陽炎には、共鳴した7з<トゥリニセッテ>と、その適合者を抹消する力があるそうだ」
ディーノの口から紡がれた言葉に、思わずさくらは口を覆った。
「抹消…殺すってことですか…!?」
「殺すのとは違うな」
唐突に、背後から別の声が聞こえた。
スーツ姿にハットを被ったその小さい影は、さくらもよく知っている。
赤ん坊の姿をしたヒットマン―――アルコバレーノ・リボーン。
「7з<トゥリニセッテ>ごと肉体を消し去るんだ…
白蘭にとっては邪魔者を消す確実な手段だと言えるな」
7з<トゥリニセッテ>とクオーレリングが揃わないと意味がない。白蘭はそう言っていた。
しかし、もし仮に白蘭がクオーレリングを欲する理由が、7з<トゥリニセッテ>の適合者であるアルコバレーノとボンゴレ10代目守護者たちを抹消することだったとするならば。
7з<トゥリニセッテ>が消えてしまえば、それはやはり意味がなくなってしまう。
まるで掴めない白蘭の意図。
さくらは胸に下げたリングを固く握りしめた。
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