あのボンゴレを壊滅状態にまで陥れたミルフィオーレ。
そのボスを目の前にし、背中に嫌な汗が伝うのが分かった。
「びゃく、らん…」
「こうして会うのは初めてだね。ようこそ、さくらチャン」
「…………」
にこ、と穏やかな笑みを携え、手を差し出す白蘭。
しかしさくらは、その手を握り返そうとはしなかった。
白蘭はそれを気にしたふうもなくクス、と笑みを漏らす。
「…ま、いいか。ジューダ君、ご苦労様。下がっていいよ。あとは僕にまかせて」
「はっ、失礼します」
ロッシが姿を消すと、白蘭はロビーに据え付けられたソファーを指差し、さくらに座るよう促した。
渋々ながらさくらが腰を下ろすと、その隣に白蘭も座った。
白蘭との距離を空けるように腰をずらす。
すると、白蘭はいきなりさくらの手を取った。
「…!?」
「へー、これがクオーレリングか。確かにその名の通りハート型に見えなくもないね」
満足げな笑みを浮かべ、ちゅ、とリングに唇を落とす白蘭。
さくらは驚いてバッと手を竦める。
「…っ、触らないで!」
「おっと、強気だね。でも、いいのかな」
「?」
「ミルフィオーレの戦闘力はボンゴレよりはるかに上だってこと、忘れてない?
僕がその気になればヴァリアーを始めとするボンゴレ勢なんてすぐに潰せちゃうんだよ」
「…っ」
白蘭はけらけらと声を上げて笑う。
「ま、キミはボンゴレリングを手に入れるための、いわば餌みたいなものだからね。
手荒な真似をするつもりはないよ。
それに…クオーレリングに炎を灯せるのはこの世界のキミだけみたいだし」
「………?」
「チョイスが終わるまで、キミはお姫様みたいに扱うつもりだよ」
「……お姫様…」
―――"王子がさくらを姫に選んだんだって"
「…ベルさん…」
白蘭の言葉に、ベルを思い出してさくらは俯く。
ベルは…無事だろうか。フランも、ルッスーリアも、ザンザスも、スクアーロも、レヴィも。
今回の六弔花戦でみんな相当の痛手を負っているはず。
また、みんなと笑い合える日は来るのだろうか…。
「あれれ、ヴァリアーのこと思い出させちゃったか。
ね、さくらチャン、こっちにおいでよ」
白蘭はさくらの手を取ってソファーから立たせた。
さくらは連れられるがままにエレベーターに乗せられる。
長い間昇り続け、エレベーターが止まると。
「ここが僕の部屋。そして、キミの部屋」
「……!」
エレベーターを降りれば、壁一面がガラス張りになった広い部屋。
手前にある唯一の壁にはドアが一つあるだけで、部屋の中にあるものと言えばソファーとガラス製のテーブルぐらいだ。
ガラス張りの窓からは、高層ビル郡の夜景が見下ろせる。
「すごい…」
思わず、感想が口から洩れた。
「キレイでしょ。僕もここからの景色はお気に入りなんだよね」
唯一のドアを開け白蘭はさくらを中に案内する。
中はベッドルームだった。
大きなベッドが一つと、サイドテーブルが一つ。
クローゼットやシャワー室も隣接されていて、まるでホテルの一室のようだ。
「さくらチャンも寝られるようにベッドを大きいのに変えてみたんだよね」
「え…どういうこと…?」
「キミは一応人質でもあるからね。逃げ出したりしないように見張りも兼ねて、キミにはボクと四六時中一緒に生活してもらうよ。
人質と言っても牢屋に閉じ込めたり縛ったりはしないから」
にこりと笑う白蘭にさくらは何も言い返すことが出来なかった。
―――チョイスまであと10日
←→
[戻る]