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Dre
スタスカ*哉月


今日、国語の授業で夏目漱石の『こころ』という話をやった。
退屈で、寝る体勢に入ろうと机に突っ伏したら、目敏く見つけた錫也のヤツが、こっちをブラック☆スマイルで見てくるもんだから、仕方なく先生の話に耳を傾けた。
話は夏目漱石の人物像から始まって、今は英語教師だったことについて語っている。
「漱石は英語の教師をしていたことでも知られています。その中でも有名なのが、『I love you』という英文を漱石が独特な訳をしたことなのですが、…みんなはこの英文の訳はわかりますか?」
先生の問いにクラスのあちらこちらから当たり前だろ、との声がとんできた。
俺も当たり前だろ、と小さく呟いて頭の中に答えを思い浮かべた。
私はあなたを愛しています、だよな…。
これ以外の訳ってなくね?クラスのざわめきが落ち着いた頃を見計らって、先生が手をパン、パンと二回打った。
今まで思い思いのことをしていた奴らも先生の方を向いた。
それを確認した先生は解説を始めた。
「みなさんの考えた訳は普通に考えたら正解です。ですが、漱石はその訳では駄目だと言ったのです。漱石は、『日本人はそんなにはっきりとそういうことを言うもんじゃない。こういうのは、月が綺麗ですね、というくらいが奥ゆかしくていいのだ』と言ったのです。漱石の訳は訳的には間違っているかもしれません。けれど、とても素敵な訳だと思いませんか?…あら、もう時間ですね。今日の授業は此処までにします」
先生がみんなに疑問を投げかけたところでチャイムが鳴った。
先生が教室を出ていくと、みんな早々と荷物をまとめて各々の放課後を過ごしにいった。
俺も帰ろうと幼なじみに声をかけようとして、今日は錫也が用事があるとかで、一緒に帰れないことを思い出した。
錫也がいないんじゃあ、俺がアイツを守ってやらなきゃいけねぇな…。
此処は元男子校でアイツは唯一の女子だから帰りは必ず俺と錫也のどちらかが送ることにしている。
アイツの部活がある日も例外じゃない。
終わるまで昼寝したり、嫌だけど補習受けたりして過ごして待っててやってる。幸い、今日はアイツの部活がない日だ。
早く帰ろうとアイツの席に行ったら…寝てた。
すげぇ幸せそうな顔で、腕を枕代わりにしてすぅすぅとアイツは寝てた。
「…おい、帰んぞ。起きろ〜」
声をかけてみても起きる気配はなく。
「…仕方ねぇな。あと少しして起きなかったら置いてくからな!」
アイツも疲れてるんだな…部活に生徒会…あと保健係もやってたな…。
「…頑張り過ぎなんだよ、バカ」
寝ているアイツの頭にそっと手を伸ばして優しく撫でてやる。
「いいこいいこ…なんてな」少し笑いながらあまりにも優しい瞳でアイツのことを見ている自分に気付いて、顔が熱くなるのを感じた。「〜〜〜っ、なにやってんだ、俺」
撫でていた手をアイツの頭から離して自分の顔を覆ってうずくまった。
一度頭を冷やそうと窓に向かおうと立ち上がったら、ブレザーの袖がくん、と引っ張られた。
起こしちまったか?と後ろを振り向くとまだアイツは幸せそうな顔で寝ていて。でも、俺の袖を掴んでる手を離す気はなさそうだった。
「…どこにも行かないっつーの」
はぁ、とため息を一つ吐いてアイツの席の側に座る。まだ当分起きそうにねぇな…と思っていると、アイツがなにか言うように口を動かした。
「ん?なんだ……か、な、た…?…っ!反則だろ、これは」
顔を近付けてなんて言ってるのか聞き取ったら、なんとそれは俺の名前で。
しかもそのあとに続けられた言葉は反則なんてもんじゃなかった。

大好きなんてあんな幸せそうな顔で言うなよな…!

真っ赤になっている顔は、窓から差し込んでいる夕日のせいってことにしておく。


月が綺麗ですね
 
 
(起きたら覚えてろよな)
(俺は、あ、愛してるって言ってやるっ!)
 
 
 
 
-END-




きっと哉太は愛の言葉は言えなくて悶々して終わると思います(笑)
で、月子さんは寝てたから、多分自分の言ったこと忘れてるw

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あきゅろす。
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