七堂伽藍
おかあさん
「いいですかー?ルツィちゃん…そーっとです…」
「あいー」
そろそろと夜のダアトを抜け出そうとしているアリエッタとルクレツィア。
…ルクレツィアはただ連れて行かれようとしているだけだが。
「どうして静かにしなければならないんですか?」
「イオン様に見つかるからです…」
「へぇ…そう…」
アリエッタがぎくりと固まる。恐る恐る振り返ると、そこにはにこやかに微笑むイオンがいた。アリエッタの背中を冷たいものが伝う。…イオンが笑っているときは、怖いときだ。
「い…イオン様…起きてた…ですか…?」
「…眠るときに腕の中にいたルクレツィアがいなくなったら僕だって起きるよ。」
「う〜…です…」
イオンがアリエッタに詰め寄る。
「…どこに行こうとしていたのかな…?」
アリエッタは十秒でイオンとのにらめっこに根負けして口を割った。
「森…です。」
「…森?」
「アリエッタは…アリエッタのママにルツィを逢わせたかった…です…」
アリエッタのいもうとだから、と俯くアリエッタ。
イオンはふぅ、と溜め息をつく。
「…いきなよ。」
「え…?」
アリエッタが顔を上げる。
「…お母さんに逢わせてあげれば?…今は夜だし、人目もないでしょ。」
アリエッタが顔を輝かせる。
「その代わり、ルツィはちゃんと君が守るんだよ?」
「…はい…!です!イオン様ありがとうです!」
ダアトの外に走っていく小さな二つの影を、イオンは見送った。
「…独り占めにしたいって言うのが…本音なんだけどね…」
ダークピンクの鬣を持つ、虎と狼を合わせたような大きな獣。ライガの女王。
それをきょとんと見上げるルクレツィア。
「ママ、アリエッタのいもうとです。ルクレツィアです。」
見下ろす獣。見上げるルクレツィア。
にこ、とルクレツィアが笑う。
ライガクイーンは眼を細めてぺろぺろとルクレツィアの顔を舐めるルクレツィアは擽ったそうにきゃたきゃたと笑った。
「ルクレツィアのママだよ!」
『おかあ…さん?』
ルクレツィアの言葉にライガクイーンはくるる、と喉を鳴らす。
『おかあさん…おかあさん!』
ルクレツィアの喉がくるる、と鳴る。ルクレツィアはライガクイーンに抱きついた。
『ルクレツィアがママと喋ってる…です!…もしかしてルクレツィアはこっちの言葉の方が得意ですか?』
『おかあさん!おねえちゃん!』
ルクレツィアとアリエッタとライガクイーンとライガの仔たちは、草木の匂いの中で一緒に眠った。
「おかぁ…さん…」
−そのころ、ダアトでは、
「あいつら…帰って来ないし…」
continue...
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