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七堂伽藍
五時間目。


きーんこーんかーんこーん。

昼休みの鉦が鳴る。


「…いただきます。」

−今日も貰ってしまった、お弁当。
ベッドにいる赤毛の子供を窺う。ルークは本を読んでいて、枕元にはドロップスの缶。ころころと口の中で転がしているのはドロップスだろう。

「…何の本を読んでいるんですか?」

食べながら行儀が悪いと思いつつもルークに尋ねる。

「ソウセキ・ナツメの「こころ」…」
「…ルークのお昼ご飯は…?」
「今食べてるだろ?」

ルークはそう言って口元を指差す。保険医は眉を寄せた。

「他人には栄養摂れとか言っといて自分は飴玉ですか?」
「いいんだよ」

おれは家でいいもん食ってるから、とルーク。

「そういえばルークはお金持ちだったんですね…いつもどんなものを食べてるんですか?」
「スパゲティとか…スパゲティとか……鍋とか?」
「スパゲティと鍋だけですか?!」

鍋は野菜結構多いよ?とルーク。

「ふう…ごちそうさま…おいしかったです」
「それはよかった。」

保険医はルークをじっと見つめる。憂い気な印象を与える、半分伏せられた瞼。長い朱色の睫がルークの頬に淡い影を落とす。

「何…?」
「あ…いえ…ドロップス一つもらえないかなぁと思って…」


見とれていたことがなんだかやましくて、保険医は咄嗟にドロップスを言い訳にした。

「………」

ルークはとことこと保険医に歩み寄る。そして突然、

「−−!!」

−唇を重ねられた。


驚いていると、口の中に丸いものが入ってきた。

「あ…あの…べつにルークが舐めているのが欲しかったわけでは…」

ルークはドロップスの缶を振る。…音がしなかった。

「…それが最後の一個。」
「あ…ありが…とう…」

保険医は折角なので貰ったドロップスを舐める。緊張のせいか、味がわからない。…というか、明らかに味がしない。
…しかも、みょうにすべすべしている。

不思議に思って掌に吐き出してみるとそれは−

「………」

すこし厚みのある円の形をしていて、一筋の青いワンポイントが入っているそれは−

…ガラス。

「せ…節子!これおはじきやないか!」


保険医は思わずそう叫んでしまった。

「…おはじき?」
「とにかく、食べ物ではありません!栄養どころかカロリーすらありません!」


ルークは首を傾げて、そんなはずは無い、と言う。

「それ、モース先生から五千ガルドで買ったやつだ。なんでも、舐めても舐めても無くならない魔法のドロップスだとか…」
「高い!しかも詐欺じゃないですか!」


あの教頭め、と保険医。

「…でも、ずっと舐めてたけどホントに無くならなかったよ?」
「…ガラスですからね…」

…頭がいいのに、なんでこんな詐欺に騙されるのだろう…?


「じゃあ、オスロー先生に貰った普通の飴食べるよ。」
「…そうしなさい」


きーんこーんかーんこーん。

昼休みの終わりを告げる鉦が鳴る。

「あ、次オークランド先生の家庭科だ。…じゃあ、行ってくるよ。」
「…行ってらっしゃい」

ルークはぱたぱたと部屋を出て行った。

保険医は日に硝子細工を翳す。


「…高いおはじきですね…」












continue...

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あきゅろす。
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