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鐘撞き堂
ION with the MACHINE GUN. イオルク。ギャグ
「…………………。」
一同は、円を囲って呆然とまん中にあるもの、…というか、ルークを凝視していた。
ことの始まりは、ルークが帰ってきた日。プレイヤーの皆さんにとってはエンディングから数日のこと。ルークが家に帰ってから色々と終わり、ローレライ教団総本山ダアトへ寄った日の話。
ルークはすやすやと眠っている。だが、その姿は縮んでいた。パッと見、4〜5才児くらいに。
「………………。」
円から外に出て、ジェイドがふう、と溜め息をつく。
「いけませんねぇ…いくら私が渡した物とはいえ、疑いもなく口にしてしまうなんて…だから、こういう事になってしまうんですよ………ふふふ。」
てめーが作った薬だろーが!!と一同心の中でツッこみます。
しかし……………。
「可愛いな。」
「かわいいねー。」
「可愛い………。」
「可愛いですわ。」
「可愛いですねぇ。」
一同、メロメロです。フローリアンもにこにこして後ろで見ています。
「しかし………」
ガイが口を開きます。
「このままと言うわけにもいかんだろ。…元に戻す方法はないものかねぇ。」
ジェイドが、私は別にこのままでもいいんですがねぇ、と、言ってから、
「元に戻す方法もちゃんと用意してありますよ。…知りたいですか?…ふふふ。」
教えろよ、とガイ。
このままではだめですものね、とナタリア。
このままでもいいのにー、とアニス。
ルークがかわいそうよ、とティア。
まい すぅいーとおぉー、とフローリアン。
「それは………愛の力ですっ!どどん!」
「………。」
「……………。」
「……………。」
あのさー、ジェイド…と、ガイが沈黙を破ります。
「愛の力って、具体的にはどうするんだ……?」
「よくぞ聞いてくれました!それわ………愛する者とのチューですっ!」
どんどんどん。ぱふぱふばふ!
「………………………。」
一同唖然。
「と!いうわけなので、事の発端…つまり、ルークがこんな事になってしまったのは私の責任です。なので、私が責任をとってルークにキスしましょう。」と、にっこり微笑むジェイド。
一同の額に血管が浮き上がります。プツンという音も同時に。
「それなら俺がやる!なんたって俺はルークの育ての親も同然だし!」と、ガイ。
「それならあたしがやる!だってしょーらいケッコンするんだもん!」と、アニス。
「それなら私が!みんなよりはきっとマシよ!」と、ティア。
「わたくしがいたしますわ!なんといっても婚約者ですもの!」と、ナタリア。
「アッシュのことは?」と、ガイ。
「あんな先の見えたハゲしりませんわ!」と、ナタリア。
非道いです。
「ボクがする!だって、まい すぅいーとだもん!」と、フローリアン。
一同ぎゃあぎゃあと言い争いです。ダアトの教会は屋根の高いホールなので、声がぎゃんぎゃん響きます。
詠史トリトハイムは心配そうに奥のステンドグラスの所で見ています。
そのとき、
ずばばばばばばばばばばばばーーーー!
入り口から見て左側の壁が、轟音と共に小さな丸い穴でドア型に切り取られ、誰かの蹴りでずずん、と砂塵を巻き上げて倒れました。
ザッザッザッ、と足音がしてもうもうと立ち上る土煙の中から現れたのは……。
「イオン様!」
「導師イオン!」
アニスとティアが眼を見開きます。
三年前急逝したはずのイオンでした。パイロットサングラスと左手のプロジェクト90を除けば、三年前と何一つ変わらない姿で立っていました。
「みんな…僕の(強調)ルークになにをしようとしてるんですか?」
第一声がそれでした。微笑みを浮かべていますが、声からは殺気が滲み出ています。
「イ…イオン様どうして……」
アニスがおどおどと尋ねます。
「ふっ…良く聞いてくれましたね。」
そう言ってイオンはサングラスを取り去りました。
「僕の(強調)ルークがピンチの時!草葉の陰からやって来る!生き返って色々ぷらす!…その名も愛と癒やしの申し子!プラスイオン!」
イオンがびし!とポーズをとります。
「………………。」
一同絶句。
ガイが、「いや、プラスイオンは癒やしというより寧ろストレスだろ。」と、突っ込みます。
「コホン、そんなこたーどうでもいいんです!愛する者のキスが必要だと言うのなら僕がルークにキスします!それ以外なんて認めません!」
すると、
「だめだ!」
「だめよ!」
「だめです!」
ガイ、ティア、ジェイドが同時に反論します。アニスに至っては、イオンとクロスカウンターです。互いの拳が互いの頬にめり込みます。
「何をするこの腹黒女!」
「五月蝿いこの男女!」
全員、一歩も譲らず、言い合いで、殴り合いで、つねりあいです。
ダアトのホールの中心が小さな戦場と化しているとき、入り口近くに立っていたナタリアが突然、
「いい事を思いつきましたわ!」
皆がぴたりとナタリアに視線を移します。
「皆がルークを本気で奪い合いぶつかり合う為に、スーパーサドンデスのバトルロワイアルを開催するのです!」
ナタリアの眼は星を散りばめたようにキラキラと輝き、うっとりとしています。…楽しんでいます。
「………………。」
一同沈黙した後、
「いいだろう…」
「いいわ」
「いいんじゃない?」
「いいでしょう。」
「楽しそう!」
イオンも、
「……いいですよ。」
賛成したのでした。
「でも、絶対に負けはしませんよ。なんたって、僕にはルークへの愛の力があるんですから!」
こうして、戦いが幕を開けたのでした。
「なんですかこの格好は…」
「ボクが着せたんだよ!かわいいでしょー?」
ルークはイオンの服をそのままミニチュア化したような法衣に身を包んですやすやと寝息をたてていました。
「かわいすぎます!」
イオンは悶えます。
「ボクの服とおそろいなんだよ!」と、フローリアンが言うと、
「僕の服とお揃いなんです!」
イオンが訂正しました。
「ところで導師イオン、どうして生き返られたのですか?」
ティアが疑問を口にします。
「幽霊とかじゃないよね?実体あるし…」
「僕のルークがピンチのとき…」
それはもういいから、とガイが遮ります。
「そうですね…強いて言えば…」
ジェイドの眼が眇められます。
「強いて言えば?」

「愛の力です!」
イオンがきっぱりと言いました。

一同、「なんじゃそりゃーー!」です。
「じゃ!僕はルークを二階に寝かせてきますから!」
イオンは、入り口から見て右の廊下の一つを曲がって、ワープ陣の中に入り、ワープで二階にある、自分の寝室へと入っていきました。自分の部屋に入り、ルークを寝かせるとその寝顔を見て、溜め息をつきます。なんて可愛いんでしょう。
「ルーク……。」
愛しげに名前を呼び、髪を梳き、頬を撫でます。
「すぐに戻ってきますよ。愛しの眠り姫……。」
ルークにそっと唇を寄せ、口付けを−−

ガッ。

…しようとしたところ、後ろから両肩をガイとジェイドに掴まれました。
イオンは舌打ちをして振り返ります。
「何か用ですか?……尾行なんて無粋ですね。」
「抜け駆けしようとしたひとに言われたくありませんねぇ。」と、ジェイド。
「…心配だったんでね。勝負はまだ始まってないぜ」と、ガイ。
「……い…おん」
ルークが呟きます。寝言でしょう。
イオンはルークに微笑みます。
「大丈夫、瞬殺で帰ってきますよ。」
そういって雄々しく部屋を後にするのでした。


静かな雨音がします。外は雨のようです。
ナタリアの声が静寂を破ります。
「ぱんぱかぱーん!レディース エン、野郎共!ご注目あそばせ!これより、ルーク争奪戦、バトルロワイアル第一回ダアト杯を開催いたしますわ!」
アニスとフローリアンが「おーっ!」と、勝ち鬨をあげます。イオンは吹き抜けになっているホールの二階の、廊下の手摺にもたれかかって教会内を見下ろしています。
「早速ですが始めますわ!戦闘準備は宜しくて?」
皆、臨戦態勢を取ります。ナタリアも弓を構えるのを忘れません。
イオンは、法衣のゆったりした袖から、全長270ミリメートル重量1164グラム、発砲した際のリコイルが強く、並みの筋力では片手で扱えない大型のハンドガン、デザートイーグル.50AE(シルバーモデル)を両手に滑らせ、セーフティーを解除し、グリップを強く握ります。装弾数は27と1発。親指で撃鉄を上げ、両手の人差し指をぴんと伸ばし、いつでも撃てる状態です。
ルーク、絶対に勝つからねとイオンは自分に言い聞かせるように心の中でルークに語りかけます。デザートイーグルの銀色の銃身が研ぎ澄まされたナイフの様に光りました。
「なあ、ティア」
ガイがティアに声をかけます。
「なにかしら?」
「イオンが持ってるアレ、リグレットが使っていたのと同じ譜業兵器か?」
ガイとティアの表情が険しくなります。
「違うと思うわ…教官が使っていた物は音素の銃弾だったもの…」
イオンのデザートイーグルはバリバリの実弾です。
こうして、皆が配置につきました。ガイとジェイドは入り口から見て左の柱の辺り、奥がガイで手前がジェイド。
ティアとナタリアは、入り口近くの右手と左。アニスは奥のステンドグラスの手前で、フローリアンが入り口から見て右の柱の手前です。
「それでは、ようい…」
皆の眼が鋭い刃の様に光ります。
「−−はじめ!」
始めの合図と共にイオンは跳躍し、一階に居るティアの背後に着地します。
「しまっ……!」
「遅い!」
ティアが振り返るより速く、後頭部に零距離射撃で銃弾をおみまいします。
「死ね冷血女!」
ずががががん!
ティアが倒れて辺りに脳漿やらピンク色の体組織やらが散らばります。明らかにヤバげですが、死んではいません。死ねとか言いましたけれども。ええ、もちろん。
「まず、一人。」
イオンがにっこりと微笑みます。こわいです。
イオンの瞬殺劇に全員の顔が強張ります。ダアトのホールに緊張が走る中、フローリアンが全力疾走でイオンに立ち向かっていきます。
「次はボクが戦う!」
「楽しみですね…ですが、勇気と無謀は別物ですよ!」
フローリアンの拳とデザートイーグルのグリップが戦闘開始の合図の様に打ち鳴らされます。
「はっ!やっ!たっ!はっ!たあぁ!」
フローリアンの掛け声と共にリズムのよい掌打ラッシュと掌底が放たれますが、イオンは掌打をグリップと銃身で全て受け止め、掌底も紙一重でかわします。
周りの者に、本当にこいつら体弱いのか?と思わせる程の戦いっぷりです。
「なかなかやりますね。でも…」
「はあッ!」
ガッ。
右手に持っていた銃を素早く袖に収めると、空いた右手でフローリアンの回し蹴りを掴み、そのまま遠心力でぶん回し、ジャイアントスイング。
「所詮は劣化レプリカ…!この程度です!」
…問題発言です。
イオンが手を離すとフローリアンは遠心力ですっ飛んでいきます。
「てめーこのやろー!ぶっころーす!」とどっかで聞いた悲鳴をあげて、フローリアンはステンドグラスを突き破って雨空のもとに消えていくその間際、イオンはパイナップル型手榴弾を上着から取り出し、安全ピンを噛み抜くとフローリアン目掛けて力一杯なげました。手榴弾はフローリアンの顔近くで見事爆発しました。追い討ちです。非道いです。
「これで二人目!」と、イオンは嬉しそうに笑います。
そのとき…!
「喜ぶのはまだ早いよっ!空破特攻弾!」
「はっ!」
イオンは巨大化したトクナガに乗って突っ込んできたアニスをギリギリでかわします。
「でたな腹黒女!もといアニス!」
「一瞬でノックアウトしてくれるわ男女!もといイオン様!」
かつての主従がいま戦いの火花を散らし、激突します。
ずがん!ずがん!すがん!ずがん!
イオンはアニスの乗っているトクナガの頭部と腹部に二発ずつ銃弾をおみまいします。この撃ち方は「コロラド撃ち 」という、致死率の高い撃ち方です。危険なので、人間相手には安易にやらないことをお勧めします。…イオンはトクナガよりアニスにぶち込みたかったようですが。
トクナガは合計四発の弾丸を撃ち込まれた位ではびくともしない様子です。少し綿がはみ出た程度です。
アニスがふふん、と得意気に笑います。イオンは、く、と歯噛みします。
「あなたを倒すにはデザートイーグルでは荷が重いようですね……」
と言って法衣から取り出したのは…
プロジェクト90トリプルレールでした。最初に持っていたのとは違い、サウンドサプレッサー(消音装置)が付いています。全長670ミリメートル、重量3000グラム。装弾数は50発です。
イオンはP90のセーフティーを外し構えると、アニスもといトクナガに向かって躊躇することなく引き金を引ききります。フルオート射撃です。
ぶーーーーーーーっ!!!
連続した発砲音がホール内に響き渡ります。
「きゃーーー!トクナガーーーーッ!!」
トクナガ蜂の巣状態。あちらこちらから綿がはみ出します。
「何すんのよーーーーッ!月夜ばかりと思うなよ!キーーーーッ!」
アニス、髪を掻き乱し怒り狂います。
イオンは、アニスに当たらなかったらしいことに、「チッ」と舌打ちします。
「でも、今日のアニスちゃんは一味違うッッ!変身!アビスピーンクッ!」
アビスピンク変身時のトクナガは、メカに変身します。
「これで耐久力も上がったはず!どっからでもこい!」
アニスは得意気にふふんと鼻を鳴らします。
ぶーーーーーーーっ!
「きゃーーーッ!!!トクナガーーーーッ!!」
同じことでした。
イオンはトクナガの周りを走り回り、アニスごとダイナマイトでぐるぐる巻きに固定します。
そして導火線に火をつけると、
「グッバイ!」
おもいっきり蹴り飛ばしました。
アニスは屋根を突き抜けて雨空のもとへ放り出されます。
「テメー!コノヤローーー!ブッ殺ーーーす!」という、悲鳴を残して。
遠くで、ぼぼぼぼばーーーーーーーんんとダイナマイトの弾ける音がします。
「フッ……さよなら・・・二度と遭うこともないだろう……」
イオンの表情は、どこまでも晴れやかです。
厄介な相手を倒したと思ったのもつかの間。
ひゅひゅひゅん!
三本の矢がイオン目掛け飛んで来ます。
「くっ!」
ズガガガン!
イオンは飛んできた矢をデザートイーグルで苦もなく撃ち落とします。粉砕された矢が床に落ちバラバラと音を立てます。
「わたくしの事をお忘れではなくて?」
ナタリアが不敵な笑みを浮かべ弓を引き絞ります。
「ご心配なく!貴女の顔を記憶に留める遑も無いでしょうから!」
そう言うと、デザートイーグルをP90に素早く持ち替え狙ったのは……
ずだだだだだだだだーーーーーーんっ!
ナタリアの頭上。入り口近くの屋根。
「きゃああああっっ!!」
P90の弾丸で丸く切り取られた石造りの天井は重力に従ってナタリアの上に落下します。
ずずん。パラパラパラ。
言うまでもなく、ナタリア下敷きです。死にはしませんが。
「やりました!これで………」
イオンはにっこりと微笑み、
「これで…あなた達二人だけです。」
ジェイドとガイに鋭利な刃物のような視線を向けます。二人の背筋にぞくりと悪寒が走ります。若干十七歳、いや、五歳にしてこの威圧感。末恐ろしい。
「なあ…旦那……このまま一人ずつ戦ってもきついんじゃないのか?」と、ガイが切り出します。
「気が合いますねぇ。ちょうど私も同じ事を考えていた所だったんですよ。」
ジェイドは眼鏡を外し、くるくると弄んでいます。
「それでは、まず………挟み撃ちですか。」
「だな。」
そういって二人はにやりと笑みを浮かべます。
「二人で組んで僕を倒す算段ですか……ですが、一人ずつ倒す手間が省けるだけ…二人いっぺんに葬ってあげますよ!」
イオンはデザートイーグルを構えます。
二人は走って、ジェイドが右、ガイが左に別れ、イオンに向かって突進します。イオンはデザートイーグルをクロスハンドに構え、右手の銃を左に、左手の銃を右に向け、発砲します。
ずががががががん!
カキンカキンキンキキン!
イオンが放った銃弾を、ジェイドは槍で、ガイは刀で残らず弾きます。
「ディバインセイバー!」
「ちぃっ!」
イオンは思わず舌打ちして跳躍し、ジェイドの放った雷撃をかわします。
「いまです!天雷槍!」
「真空破斬!」
イオンは前方に銃弾を放ち、リコイルで後ろに逃げますが、避けきれなかった雷が法衣の裾を焦がし、真空から生まれた衝撃波は剃刀の様に右足に切り傷を作り、血液がぱたぱたと音を立てて石造りの床に落ちます。
「よしっ!」
初めてイオンに傷を負わせたことにガイは喜びに拳を作ります。
「………こんな浅い切り傷一つ負わせた程度で……嬉しいですか?」
イオンは傷を負いながらも毅然として挑発的な言葉を投げかけます。
「えらく挑発的ですねぇ。今の貴方は追い詰められている筈なのに……余程の秘策があるのか…それとも…死を覚悟したのか…」
そう言ってジェイドは不敵に笑います。
「…ハッ!」
イオンは鼻で笑います。
「死を覚悟したりなど、しませんよ!だって僕は、ルークのもとへ帰らなければならないんですから!もう、愛する人を遺して死んだりしません!」
イオンの深緑の瞳には雄々しき覚悟の炎が宿っています。
「死ぬのは貴方達です!スケベ大魔王と変態メガネ!」
そう言って法衣の中から取り出したるは、M60E3ライトマシンガンショーティー。全長1030ミリメートル、重量5100グラム。装弾数はベルト給弾で1200発。
この人の法衣の中には一体幾つの兵器が眠っているのでしょう。そしてイオンは重力五キロ超のライトマシンガンショーティーをまるで拳銃を扱う様に軽々と小脇に抱えますバイポット(二脚)は必要ありません。
イオンは銃を構え、狙いをジェイドとガイに定めます。そして、躊躇なく引き金を引きます。

ズばばばばばばばばばばばばあぁーーーーーーっっ!!

連射。乱射、乱射。弾薬ベルトが物凄い勢いで吸い込まれ、空薬莢が狂った様に宙に舞い踊ります。
「こりゃあ、ヤバそうだな。」と、ガイ。血まみれです。
「これで、終わりにしましょう!」と、ジェイド。右に同じです。…避ける気はないのでしょうか?いえ、精一杯弾き返していますが、それでも弾丸は当たります。
「さあ、いきますよ!」
「俺の本気見てみるか!」
「天光の、満ところに我は在り、滅びの門開くところに汝あり、出でよ神の雷!インディグネイション!」
「鳳凰天翔躯!」
ジェイドとガイの秘奥義が炸裂します。
ばばばばばばばばばあぁーーーつっ!

「はあああああぁぁぁぁぁーーーつっ!!」
イオンはマシンガンを乱射し、精一杯攻撃を避けながら疾駆します。

まだ死ねない…!死ぬわけにはいかない……!!
ルーク……ルーク……ルーク……!!!
心の中でルークの名前を何度も呼びます。




イオン…逝くな……イオン……

ルークは眼を見開いて飛び起きる。
「はぁ…はぁ……」
ルークは辺りを見渡す。
「ここは……」
ベッドと、鏡と本棚しかない質素な部屋。懐かしい匂いのする部屋。イオンがまだ生きていた頃、何度も連れてきてもらった場所。ここで互いにたくさんの話をし、たくさんの時間を共有しあった。
本棚には、[ゴルゴ13]やら、[図解!漫画でわかるよいこのハンドウェポン]、[楽しい銃撃戦〜実践編〜]、[軍隊用語辞典]…など、コンバットな書籍が軒を連ねているが、イオンの趣味かと思うと自然と笑みが零れた。
そういえば、自分は何故イオンのベッドに寝ていたのか、否、何故寝かされていたのか。
そうおもいながらベッドを降りようとした時、違和感を覚えた。床に、足が着かない。手を顔の前に翳すと、いつもより小さい気がする。てか、明らかに小さいだろ。
走って鏡の前に立つと、もやもやが瓦解した。…姿が、縮んでいる。パッと見、四〜五歳くらい。
額に手を当て、記憶を辿ってみる。今思うと、ジェイドから渡された健康ドリンクを疑いもなしに口にしたのはマズかったかもしれない。…いや、味は美味しかったけど…アレを飲んでから記憶が無いのだから、まあ、そういう事なのだろう。
「呑気だな。おれ………」
イオンと同じデザインの服を着ているのも気になるけど、イオンとお揃いだから、まあ、いいか。
そういえば、イオンに逢った気もするけど、夢だったのだろうか?……イオンは、死んだ筈だ…三年前に。
でも、生きていた時と同じように、名前を呼んでくれた気がする。
生きていた時と同じように、優しく髪を梳いて、頬を撫でてくれた気がする。
生きていた時と同じように、口付けを……しようとしてくれた気がする。
すぐに戻って来るよと言ってくれた気がする。
本当に、リアルな夢だった。……本当に、夢だったのだろうか?
そう思っていると、一階が妙に騒がしいのに気がついた。一階に降りようと、ドアノブに手を伸ばすが、背が低くて届かない。
でも、胸騒ぎがする。気になってしょうがない。
……誰かがこの扉を開けてくれるのを待つのか?……何を悠長なことを!
ルークは意を決して本棚によじ登り、ドアノブに飛びついた。
ガチャリ、と、ドアの開く音がした。




「はぁっ……はぁっ……」
屋根に開いた穴(アニスを蹴り飛ばしたときのもの)から、雨が降り注ぎます。イオンはそこに立っていました。片手のマシンガンに雨粒が落ちる度、蒸発して湯気が立ち上ります。
……何千発撃ったのでしょうか?
床には、足の踏み場も無い位に空薬莢が散乱しています。ステンドグラスは割れ、石柱や床や壁は流れ弾や譜術や斬撃に穿たれ、ぼろぼろです。倒れている柱もあります。詠史トリトハイムがダアトのこの惨状を見たら、卒倒してしまうでしょう。
イオンも、ぼろぼろでした。法衣はあちこち焦げ、破れ、血が染みを作っています。全身傷だらけです。でも、立っています。…生きています。
「勝った………」
ジェイドとガイは、ぼろ雑巾です。血溜まりの中に倒れています。…例によって、生きてますけど。
イオンは緊張の糸が切れたのでしょう。マシンガンをガシャン、と音を立てて落とし、床に膝をつきます。
やっと勝った…ルークを迎えに行かなければ。…そう、思っていた時でした。

「お疲れのようだな?」
「……誰…ですか?」
イオンは力なく聞き返します。
「俺の名は…主人公の隣に住んでいて、友達のような関係であったにも関わらず、一緒に旅に連れて行ってもらえなかった腹いせに、最後の最後でラスボスに味方し、逃げていってしまうような、最悪の隣人ポーキー・ミンチ様だ!」
長い説明でした。
「それで…その最悪の隣人とやらが、何の用です?」
イオンは鬱陶しそうに再び問います。

「フッ…良く聞いてくれた…!こうするのさ!」
最悪の隣人ポーキーは、ジェイドとガイ、ナタリアとティアにライフボトルをばらまきます。
「なっ……!」
ジェイド、ガイ、ナタリア、ティアがずるずるとゾンビのように起き上がってきます。
「外の二人も今頃復活しているぜ。聞こえるだろう?お前を討たんとする奴等の怒りの叫びが!!」
何も聞こえませんでした。イオンは素直に、
「…聞こえませんよ。」
「聞こえろよォ!」
ポーキーは縋り付くような声をあげます。しかし、さすがは自他共に認める最悪の隣人です。最後の最後に本当に最悪な事をしてくれやがりました。
復活した四人がずるずるとイオンににじりよります。
「く……!!」
「みなさーん!いいですかー、私が合図したら一斉攻撃で仕留めますよー!」
ジェイドが頭から血をだらだらと垂れ流しながらにっこりと笑って言います。
ジェイドは槍を構え、ガイは刀の鯉口を切り、ナタリアは弓を引き絞り、ティアは投げナイフを振りかぶります。勿論、みんな血塗れです。それでなくてもなかなか怖い状況です。
最悪の隣人ポーキーは逃げていったようです。さすが、最悪の隣人。逃げ足だけは速い。

「今です!」

ジェイドの合図で皆の攻撃が一斉にイオン目掛け放たれます。さすがのイオンも体が言うことを聞きません。
ここまでか…と、そう、思いました。
ルーク……ごめん…
そのとき……!

「魔神拳!」

子供特有の高い声が響き、頭上から放たれた衝撃波が、ジェイドの槍を、ガイの斬撃を、ナタリアの矢を、ティアの投げナイフを撃ち落とします。
イオンが呆然としていると、
「みんな、イオンに何やってんだよ!」
ルークがそう言い放ち、イオンの前に着地します。そして、イオンを庇う様に皆の前に立ちふさがります。
「これは…その…」
「何というか…」
ジェイドとガイが言い淀みます。
「バトルロワイアルというか…」
「戦いというか…」
ナタリアとティアがなんとか説明しようとします。
「戦い?!イオンは体が弱いんだぞ!」
ルークが噛み付くように言います。
それは嘘なのに!と心の中で皆が叫びます。
「私は……貴方の為に…」
ティアがおずおずと言います。
「しるかよ!っつーかおれティア嫌い!」この一言でティア、ノックアウト。
「ルーク……」
やっとイオンが口を開きます。
「イオン…!イオン!イオン!夢じゃないよな?イオン!」
ルークは何度もイオンの名を呼び、イオンに抱きつきます。
「ルーク…僕、闘ったんです。貴方を守るために……最後は逆に守られちゃいましたけど……」
「うん!わかるよ!…イオンはおれを守ってくれた!闘ってくれた!……こんなにぼろぼろになって……ごめん…じゃない…ありがとう!」
ルークは滲んだ涙を拭い、イオンにお礼を言います。
「ルーク……」
イオンはルークを愛しげに抱きしめ返します。
「傷…痛そうだ…大丈夫か?」
ルークは心配そうにイオンに問います。
「大丈夫ですよ。」
イオンは安心させるように優しく微笑みます。
「ルークから僕にキスしてくれたら、痛みなんて吹っ飛んじゃいます!」
「えっ……!」
ルークは真っ赤になりますが、
「わかった……!…する!」
ルークはそっとイオンに口付けします。イオンは愛しい人とのキスの余韻に浸ったあと、羨ましいのと、嫉妬の入り混じった表情でみていた一同に向かって、ニッ、と不敵に笑い………
ルークに口付けします。
「あぁあーーーーーーーっっ!!!」
後から教会のホールに入ってきたアニスとフローリアンも含めて、全員が叫びます。
それは、互いの呼吸を奪い合うような激しいディープキス。まるで、ルークが自分のものだと主張するように皆に見せつけます。
「んんっ………!」
というか、ルークが一方的に呼吸を奪われている感じのキス。一分、いや、見ている一同にとっては五分にも感じるほど長い時間の後、唇が剥離する音がしてルークが解放されます。
「……ぷはっ!」
ルークが苦しそうに息継ぎします。イオンはにこにこして、嬉しそうにルークを見つめます。…一同の額に血管が浮き上がります。
「…これで元に戻るんですよね?」
「……そうですね…明日にでも…ここまでする必要はありませんでしたが……」
ジェイドのこめかみがピクピクと痙攣します。
「今度は、勝つぜ。」
と、ガイ。
「あなたも懲りませんね」と、イオン。
「今度ですか。いいですねぇ。…こんなのはどうですか?ルークにセーラー服着せて……[ION with MACHINE GUN]第二回、セーラー服(を着たルーク)と機関銃!」と、ジェイド。
「おれは、着ないからな!また変な薬つくるなよ!」
イオンの後ろに隠れながらルークが言います。
イオンはルークのセーラー服姿を思い浮かべ、ちょっとにやけますが、思い出したように時計を見るともう十一時五十分。
「盛り上がってきた所ですが、タイムリミットですルーク!」
「え?え?…?」
イオンはルークの手を引いて二階に走ります。しっかりとワープ陣の封印も忘れずに。
「はぁ…はぁ…」
イオンの寝室に入った途端、身体の痛みと眩暈にぐらぐらして、ルークは床にくずおれます。
次の瞬間………
ばりばりばり、と、音を立てて、ルークの着ていた小さな法衣が破れます。…十二時を過ぎて日付が変わり、薬の効果がきれたのです。…これで急いでいたのか、とルークは思いました。
「ふぅ…危なかった…皆に僕のルークのせくすぃーな肌を見られる所でした。」
イオンは胸をなで下ろします。
「でも、誰も男の下着姿なんて見たくないと思うぜ?」とルークが苦笑すると、
「いえいえ、侮ってはいけません。貴方は自分の魅力に気付いていないだけです!特に変態メガネとスケベ大魔王は危険なんですから!」と、イオンは力説します。

そのころ、一階のワープ陣の間では、ジェイドとガイが揃って嚔をしていました。
「うう…風邪かぁ?」ガイが鼻を擦ります。
「いえ、この調子では上の階で私達の話でもしているのかもしれませんねぇ…」ジェイドもハンカチで洟をかみます。
「しっかりワープ陣の封印までしていきやがってあの変態導師!」と、ガイが悪態をつきます。そして皆で揃って、
「私の………」(ジェイド・ティア)
「俺の………」(ガイ)
「ボクの………」(フローリアン)
「あたしの………」(アニス)
「わたくしの………」(ナタリア)
「ルークがあああぁぁーーーーっっ!!!(まい すぅいーとおぉー!!)」
悔しそうに叫ぶのでした。

そして、それを知る由もないルークはイオンとの再会を純粋に喜んでいました。
「イオン…よかった…帰ってきてくれて…」
「ルークも、帰ってこれてよかったですね。僕も…嬉しいです…」
二人は暫し見つめ合います。すると、いきなりイオンが、
「…そうだ!僕もぼろぼろだったんだ!着替えないと!」いきなり法衣を脱ぎます。…何故、脱ぐ。そこで。
「これでルークとおんなじですー(ハァハァ。)」
言っていることは可愛らしいですが、考えていることが凶悪です。そしてルークを追いかけ回します。
「何で脱ぐー?!そこでー!!」
ルークは身の危険を感じ、部屋の中を逃げ回ります。そして、追いかけっこの末、ベッドに押し倒されます。
「ふふふ。」
イオンはルークの上に乗っかって、邪悪な笑みを浮かべます。
ルークがなにをされるのかとびくびくしていると、イオンは昔を懐かしむ様に語り出しました。
「ルークは三年前に比べて、ちょっぴり背が伸びたみたいですね。」イオンはルークの頭をくしゃくしゃと撫でます。
「ああ、おれももうハタチだしな!…本当は十歳になったばっかだけど…」くしゃくしゃにされた髪をさらにばりばりと引っ掻き回しながら、ルークは照れくさそうに笑います。
「それを言うならイオンだってすごく背が伸びたんじゃないか。身長差、縮んだみたいだ。」
「僕ももう、十七歳ですからね。あ、三年前のルークと同い年なんですね。…本当は、五歳になったばかりですけどね。」
二人はくすくすと笑い合います。
「なあ……イオン?」
「はい?」急に真剣になったルークの言葉に笑うのを止め、耳を傾けます。
「あんなことは……三年前みたいな事は、もう、嫌だからな?…もう、おれを置いて逝かないでくれよ。もう…独りにしないって約束してくれよ。イオン。」ルークは不安に揺れる瞳でイオンを見つめます。
「ルーク……」
イオンは申し訳なさそうにルークの瞳を覗き込みます。
「……大丈夫です!僕はもう二度と、ルークを置いて逝ったりしません!…ずっと…ずっと、一緒にいます!…だから、ルークも誰かの犠牲になって僕を置いて逝ったりしないでくださいね。」
イオンはルークに微笑みかけます。
「これからは…ずっと…ずっと、一緒だ…イオン。」
ルークはイオンに抱きつきます。イオンもそれに答え、ルークを強く抱き締めます。
いとおしい。ルークがとてもとても愛しく思う。この表情も、首にきつく回されたこの腕も、鍛えているのに華奢にさえ見えるこの身体も。ルークの優しい心も。…全部、僕のものだ。僕だけのものにしたい。
「…貴方は僕のものだ…」
「?…おれはイオンのものだよ?」
「……誰にも渡さない。」
「……うん」
「…貴方は僕だけのものだ…」
ルークの髪を優しく梳き、頬を撫でる。……優しく、口付けする。
そしてそれは、お互いを求め合う、激しいものに変わってゆく。ルークの口内を舌でかき回し、ルークの舌を自分の舌と絡ませあう。嚥下を許されなかった唾液がルークの口から溢れて落ちる。
「ルーク…ルーク…愛してる。愛しているよ、ルーク。」イオンが自分の腕の中の愛しい人に囁く。
「イオン…おれも…イオンが好きだよ。愛してる。」
「ああ…僕は幸せだ…ルーク……」
二人は互いの身体に、啄むようにキスを交わす。ルークも、イオンも、何度も互いの唇を求めた。
ルーク…僕は君を…守っていく…君を…君の幸せを…ずっと。


どれほどの時間が経っただろう。ダアトは夜明けを迎えようとしていた。ルークはまだベッドですやすやと可愛らしい寝息を立てている。イオンは思い出した様にベッドから起き、隣の部屋にある机の抽斗から一枚の紙を取り出した。それは、イオンがルークの為に生前用意していた物。…まあ、自分の為でもあったけれど。よかった。まだ、あった。
早くルークに見せようと、まだ微睡みの中にいるルークを揺さぶり起こす。
「んぁ?…イオン…」気の抜けた声を出して、ルークが目を覚ます。
「これ、見て下さい!」イオンはルークに一枚の紙を差し出す。ルークは眠そうに目を擦りながらイオンに渡された紙を見る。
それは、[婚姻届]そう、書いてあった。[夫になる人]の欄には、イオンの名前。[妻になる人]のところは、空欄。
「ここに、名前を書いてください!」
イオンは満面の笑みで見つめる。
「おれ、イオンのお嫁さんになるのか?」ルークは照れ笑い。
「いいけど、これって役所に通るのか?」
「いいんです!気持ちの問題です!それに…」
「それに?」
ルークが首を傾げます。
「いざとなったら、導師の権力という最終兵器もありますし!」
…いいのか、それ。


イオンの部屋の抽斗には、婚姻届。
[夫になる人]の欄にはイオンの名前。
[妻になる人]の欄にはルーク・フォン・ファブレ。

end.




あとがき

自分が初めて書いた小説でした。読み返すと文法やその他がえらいことに…
出来る限り直しながら打ち込みました。
この頃はアビスは弟のプレイを見ているだけで、ルークは生きて帰ってきたのだと思っていました。

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あきゅろす。
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