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鐘撞き堂
I am satisfied for my life. サフィ♀ルク。パロ※
小さな人魚が恋をした

船の上の青年に

人魚は夜の海の中、船の明かりに照らされる煌びやかな服を纏った青年を見つめていた。
−船が去るまで。ずっと。


「はぁぁ…」
海辺の家に住む三十五歳独身の男性は溜め息を付いた。怪しげな黒いフードを被り、ぐつぐつとなにが入っているかわからない鍋をかき混ぜている。どうみても不振人物だ。
「私って…魔法使いだっていうのに…なんで好きな相手の心を掴むくらいできないんでしょう…」
魔法でどうこうするのは反則だとしても、自分をかっこよくするくらいできないものだろうか?
魔法使いは鏡に自分の顔を映す。白髪に赤い眼。自分で言うのもなんだが気が弱そうだし、お世辞にもかっこいいとはいえない。
「はぁー…ルークぅ…」
魔法使いは愛しい者の名を呼んで、再び深ーく溜め息をついた。
「サフィーッ!」
「ぎゃあああああ!」
ざばん、という水音と共に現れたのは、朱金の髪と翡翠の瞳を持つ少女。
「おはよ」
少女はひらひらと金魚のような尾を振った。
魔法使いの家は半分が海と繋がっている。そのため、人魚である少女はたびたび遊びに来るのだ。…ええ、そのために改築しましたがなにか?
「サフィ、聞いてほしいことがあるんだ!」
そう、魔法使いの思い人は−−ルークは人魚だ。
砂浜に打ち上げられていた彼女を介抱したら、なんだか仲良くなってしまった。それから彼女に恋をしてしまい、台風で家が巻き上げられてここに落ちたとか嘘をついてまで海辺に住んでいる。…だが、オトモダチから先にはなかなか進めない。
彼女が人魚で自分がエルフだからなのか、と弱気になってしまう。
因みに彼女は十七歳だ。…誰ですか?今、他にも問題あるだろとか犯罪だとか思った人!
「なんですか?話って」
魔法使いは平静を装って机の上にあった温いお茶を啜る。
「好きなやつができた。」
「ぶふうっ!」
魔法使いは口に含んでいた茶を全て噴き出した。
「…だいじょぶか…?」
ルークは心配そうに魔法使いを窺う。
「だっ…大丈夫ですっ!…それより…どんな方なんですか?」
「にんげん」
「…へ?」
魔法使いは一瞬耳を疑う。
ルークは少し俯いて話し出した。
「人間なんだ…そいつ…なんでもこの近くに住んでる王子だとか…」
だから、とルークは切実に魔法使いを見つめる。
「サフィは…魔法使いだろ?…おれを人間にできないかなって…」
ああ…
そろそろ潮時だろうか、と魔法使いは思う。
「どうにか…ならないかな…だめ…かな…?」
切実に訴えてくるルーク。魔法使いは心を決める。
叶わぬ恋はすっぱり諦め、好きな人の幸せを応援するのが男というもの。
「ありますよ。…人間になれる薬…」
「ほんとか?!」
ルークは顔を輝かせる。
「ええ…これです。」
魔法使いは棚から小瓶を一つ手にとってルークに渡す。
「好きな人を思い浮かべて飲むんです。その人と同じ種族になれます。」
ほんとうは自分が飲もうと思って作ったんですけどね…
「ありがとう!」
「でも、一つだけ条件があります。」
なに?とルークは首を傾げる。
「…歌を…」
「…うた?」
「ルークの歌を…聞かせてください。」
ルークはきょとんとする。
「…そんなんでいいのか?」
いつも歌ってるじゃねーか、とルーク。
「いいんです…ルークの歌…聞かせてください。」
魔法使いはにっこりと微笑んだ。
「……わかった。」
ルークは静かに歌い始める。儚くて、美しい、ルークの声。
−−ルークの歌。きっと、これが最後になるだろうと思いながら歌に聴き入る。

「…どうだった?」
「とっても…綺麗でした。」
魔法使いは最後に勇気を振り絞って、ルークの赤い髪に口づけた。
「幸せに…なってくださいね…」
「…ありがとう。」
ルークは少し寂しそうに微笑むと金色の尾を翻し海に消えていった。
魔法使いは誰もいなくなった家の中で、ぽつりと呟く。
「…さようなら、私の人魚姫…」


その夜、ルークは岩場に上がると首にかけていた小瓶を外す。
「…苦いかな…薬だもんな…」
きゅぽん、とコルクの栓を抜く。
「たしか、好きな人を思い浮かべるって言ってたよな…」
ルークは瓶を握り締めると薬を一気に飲み干した。
「ぷはぁ…まずい!もう一杯!」
そのギャグに突っ込んでくれる人は誰もいなかった。
「……むなしい…」
はぁ、と溜め息をつく。そのとき、
「−−ッぐ?!」
身体に激痛が走った。尾が焼けるように痛い。
なんだこれ…?なんだよ…!
次の瞬間、尾は真っ二つに裂け、現れたのは白い、二本の足だった。
「…すげー…」
ルークは歩く練習をしてみる。
「こうかな…いてっ!」
ルークはすっ転んでしまった。
「いてて…砂場でよかった…」
でも、歩けないでどうやってあのひとに逢うのだ。
「はあ…どうしよう…」
ルークはその場にしゃがみ込む。
ザッ、ザッ、ザッ。
砂の上を歩く足音に振り返ると、そこにはあの青年がいた。
「うそだろ・・・?」
灰茶の長い髪、青い眼。まごうことなきあの青年だ。ルークは信じられない思いで青年を見つめる。
「あなた…どうしたの…?」
こんなところにひとりで、と青年がルークに声をかける。
ルークは岩の支えを借りてふらふらと立ち上がった。
「あ…の…あのっ…!」
そこでルークは人間になって青年に逢ったあとどうするか全く考えていなかった事に気付く。
ど…どうしよう…引き止めなきゃ…なんとかして想いを…
おろおろするルークを青年は頭から爪先まで見つめる。
今のルークは、一糸纏わぬ姿だった。…裸なのだ。
赤い髪に付けられた真珠の髪飾り以外、ルークが身に纏うものはない。ごくり、と青年の喉が鳴る。
「あの…うわぁ?!」
気がつけば、ルークは砂浜に押し倒されていた。
「…かわいい…」
青年が陶然と呟く。
「あの…あれ…?」
ルークは密かな熱を帯びる青の瞳を、なぜか怖いと思った。
ルークの白い胸を青年の手が乱暴に揉みしだく。
「ああっ…?いや…!」
なんで。
なんで…好きな人に触られている筈なのに−…なんだこれは。
「きもち悪い…っ」
青年の舌が、指が、ルークの白い肌を這い回る。
「いや…やだ!やだぁっ!」
ぱん、と乾いた音がした。
「…ったいわね…」
青年はルークに叩かれて赤くなった頬をさする。
そして、ルークが抵抗するとわかるとルークの腕を纏めあげる。
「…裸で現れておいてそれはないわよ…?」
厭らしく笑うと、ズボンの前を寛げた。
天を仰ぐ、グロテスクな雄の象徴。
「いや…いや…」
ルークは首を力なく左右に振る。真珠のような涙が零れた。
「…お口で奉仕してもらおうかしら?…それとももう挿入ちゃう…?」
青年が楽しそうに笑う。狂気を孕んだ笑み。
「やだ…いやだあああああーーーー!!」




「はぁ…」
あれからどれだけ経っただろう。魔法使いは夜の砂浜を歩いていた。
「あれから丸一日くらいでしょうか…ルークは今幸せなんでしょうね…」
そこで、魔法使いは目を疑った。夜の砂浜に鮮烈に咲く赤。…まるで、そこだけ赤い絵の具を零したみたいに。
「ルー…ク…?」
魔法使いはかけていた丸眼鏡を拭く。かけなおしても、やはりあれは−−
「ルークッ!」
魔法使いはルークに駆け寄る。
「ルークどうしたんですか?!ルーク!」
魔法使いはルークに必死に呼びかける。ルークの身体はぼろぼろだった。縄の跡には血が滲み、身体のいたるところに青痣ができている。
ルークの瞳がゆっくりと開く。ルークは魔法使いを見とめると、ぼろぼろと涙を零した。涙は頬に透明な線を引くと砂にしみ込んで消えた。
サフィ、と唇だけが動く。喉がヒューヒューと壊れた笛のような音を出した。
「声が…でないんですか…?」
魔法使いが問うとルークは自嘲するように微笑んで、また涙を零した。
−−何が…あった…?
魔法使いは懐から水晶玉を取り出す。
「海に帰ったあとのルークの姿を映してください。」
魔法使いは早口で水晶玉に命令する。
水晶玉はそれに答えるようにぼう、と光ってルークの姿を映す。
夜の海、ルークが薬を飲むところから映像は始まった。
−そのあとの映像は見るに耐えなかった。
王子らしき男が泣き叫ぶルークを押し倒して、両手の自由を奪い、滅茶苦茶に犯して、
それで砂浜に取り残されたのか、と思ったが、映像はまだ続いた。


青年が赤い絨毯の上に声も上げないルークを放る。
「おかえりなさいませ、王子」
「おかえりなさいませ、ティア様」
「ソレ、好きにしていいわよ。…仕事続きで溜まってるでしょ?」
そう兵士に言い残して青年は去っていく。
「ヒュウ…♪まじかよ!」
「すっげー上物じゃねーか!」
「……ッっ…!」
兵たちは怯えて固まるルークを地下牢へと引き摺っていった。
「この髪飾り、大粒の真珠だぜ?!」
「高く売れそうだな」
兵士がルークの髪飾りをもぎ取る。ルークは弾かれたように顔を上げた。
「いや…やめてくれ!それだけは…ッ!」
−自分がルークに贈った髪飾り。
「うるせぇ!黙ってろ!」
ぱん、とルークの頬を兵士が殴る。だがルークは必死に抵抗し、手を伸ばした。
「お願いだ…!大切な物なんだよ!それだけは…ッ!」
「そうかそうか、大切なのか、それはさぞかしいい値が付くんだろうなぁ」
兵士はルークを縄で拘束する。
「やめて!やめてやめて!それはサフィの…ッ!」
そのあと、次の日の昼までルークは百人近い兵士たちにかわるがわる輪姦された。
声がでないのは、悲鳴を上げ続けていたからだと知った。
「………ッ…」
魔法使いは絶句した。何もいえなかった。−ただただ、涙が零れた。
ルークを見やると、口をぱくぱく動かしている。魔法使いはその唇の動きからルークの言葉を読み取った。
『サフィ…ごめんな…髪飾り…盗られちゃったよ…せっかく…サフィがくれたのにな…』
ごめん、とルークが謝る。魔法使いは涙が溢れるのを感じた。
「髪飾りなんて…!ごめんなさい…!私が…私が変な薬渡したりしたから…!」
ルークは弱々しく微笑む。
『サフィはおれの願いを叶えてくれたんだよ。陸にあがれた。…なんにも謝る事なんて無いんだ…』
魔法使いはルークを抱き締める。
『サフィ…お願いがあるんだ…』
「なんで聞きますっ…!」
『おれがねむっているあいだ…横にいてくれる…?』
「…はい」




翌朝、ルークが目を覚ますと魔法使いはいなかった。
『サフィ…サフィ、どこ?』
ルークは辺りを見渡し、それでも姿が見えないので、這って捜した。
つん、と血の匂いが鼻を突く。
ぽたり、ぽたりと砂浜に落ちては吸い込まれる赤。
『さ…ふぃ…?』
ルークは愕然とする。
「るー…く…私だって、がんばればこのくらい、できるんです。」
魔法使いは血に染まったナイフを落とす。後を追うように、ぼとり、ぼとりと青い眼球が砂浜に転がった。
「王子は…殺してきました…これで…あなたは…人魚に戻れます…」
ごぼり、と魔法使いの口から血が溢れ出る。
『さふぃ…おなか…どうしたんだよお…っ!』
ルークは翡翠の瞳からぼろぼろと涙を零し、顔を覆った。
長い槍が−−魔法使いの腹を貫通していた。
「はは…ちょっと…反撃受けちゃいました…」
『さふぃ…ごめん…ちがうんだ…ちがうんだよ…』
「…なにが…ですか?」
『おれが…薬を飲んだとき思い浮かべたのは…さふぃなんだ…』
「…え…?」
ルークが長い髪をかきあげる中から現れたのは、エルフ特有の、尖った耳。
『おれは…人間にはならなかったんだ…エルフなんだよぉ…』
「……嬉しい…」
『…え?』
魔法使いは顔をくしゃくしゃにして微笑んだ。
「…ルークが…私のことを考えてくれたなんて…私は幸せだ…私は…ずっとルークが好きだったんですから…」
ルークはきょとんとした。

『…好き…?』
「はい。」
『ほんとに…?』ルークは涙を零しながら微笑んだ。
『じゃあ…抱き締めてくれる?』
両手を広げるルークに魔法使いは苦笑する。
「すっっごくしたいですが…これでは…」魔法使いは自分の腹を貫通する槍の切っ先をなぞる。ルークはにこ、と微笑んで、魔法使いを抱き締めた。
「ルー…ッ!!」
すぶり、とルークの柔らかな白い肌を槍が貫く。
「ルークのッ…ばか……」
魔法使いはルークを抱き締める。
『えへへ…キスもしてくれるか…?』
「もう…なんだってしてあげますよ…」
魔法使いはルークの桜色の唇を奪う。砂浜に倒れて、深く、深く口付けた。
『さふぃ…だいすき…だよ…』
「愛しています…ルーク…」






「イオン様ぁ〜!見てくださいっ!」
黒髪をツインテールにした少女が砂浜を指差す。
そこには、抱き合う男女の亡骸があった。
「これは…」
深緑の髪の僧侶が歩み寄る。
「心中でしょうか?」
「わかりません…でも…」
僧侶が亡骸を見つめる。
「とても…幸せそうですよ。」
「一緒に埋めてあげましょうね!」「はい…」
深緑の髪の僧侶は静かに亡骸に手を合わせた。


end.




あとがき。
人魚姫パロディでした。
I am satisfied for my life.=私の一生は満たされていた。

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