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鐘撞き堂
理由 イオルク。
「はぁ・・・はぁ・・」
森を歩いていたイオンは突然苦しそうに息をしてうずくまった。
「イオン、大丈夫か?」
側にいたルークが心配してひざをつく。
「みんなー!休憩ー!」
アニスが前を行く仲間たちに向かって 叫ぶ。いたして一行はその場で休憩をとることになった。

「すみません・・・僕のせいで・・・」
イオンがもうしわけなさそうに謝った。
「イオン様ぁ〜・・・謝らないでください・・・」
イオン様は悪くないんですから、とアニス。
「…それで…申し訳ありませんが、水を少しもらえませんか?」
「お水ですねぇ〜!」
アニスが水筒を取り出す。
「川の水が飲みたいです。」
「…へ?」
アニスが首を傾げる。
「…ああ、川の水は雑菌が多いですから、ちゃんと煮沸消毒してくださいね…?不純物を取り除くのも忘れないでください。」
さっきまで苦しそうだったイオンはてきぱきと早口でアニスに指示する。アニスは固まっていた。
「・・・」
「…アニス?どうしたんですか?」
「あ・・・あの・・・」
イオンはにっこりと微笑んだ。
「僕はのどが渇いているんです!ハリアップ!」
「は…はいぃっ!」
アニスはイオンに急かされるまま小川のほうに走っていった。
「…・・・」
ルークは隣で切り株に腰掛けているイオンを見た。−悪戯が成功したみたいな顔で笑っている。
「イオ−…っわ?!」
イオンは声をかけようとしたルークの手を引っ張って突然走り出した。
−−森を暫く走ると、イオンはルークの手を握ったまま、ルークに向かって微笑む。
「上手く蒔けましたね!」
「…イオン…もしかしなくてもさっきのは…」
「仮病です。」
イオンは当たり前のように言った。ルークと森を歩きたくて、とイオン。
「心配…したんだぞ…」
「…ごめんなさい。」
イオンは俯くルークの頭を撫でた。「あ、みてくださいルーク!美味しそうな赤い実が…」
イオンは話を逸らすことも計算にいれて、足元にあった草に成っていた赤い実をちぎる。
「たべるな!」
「え…」
ルークに強い声音で制された。まさかおこられるとは思っていなかったイオンは赤い実をポトリと落としてしまう。
「…それは鈴蘭の実だ。強心作用のあるコンバラトキシンを含み、ひどいときは心停止。強心作用はジギタリス製剤の数倍。」
「毒でしたか…」
危なかった、とイオン。
「よく知らないものを口にするな」
「すみません。じゃあこれは…」
イオンは背の低い木に成っている赤い実をちぎった。
「ドクウツギ。実に有毒成分のコリアミルチンを含む。誤って食べると大脳中枢麻痺を起こし、嘔吐、全身硬直、痙攣状態から死に至る。」
イオンは無言で赤い実を捨てた。
「じゃあこのヤマブドウなら…」
イオンはたわわに実る紫の実に手を伸ばす。
「…それはヨウシュヤマゴボウ、有毒。」
イオンはルークを振り返る。
「…この森は僕を殺そうとしているんですか?」
「…イオンが毒ばっかみつけるんじゃんか…ほら、これならだいじょうぶだろ。」
ルークは小さな木に成っている赤い実を二つちぎる。
「ヤマモモだ。」
「ありがとうルーク。」
二人は木の実を口に入れる。
「…おいしい…」
「…満足したか?」
「はい!」
イオンは嬉しそうに微笑んだ。


「あ…」
森の中を歩くイオンがしゃがみ込む。
「ルーク…」
ルークを振り返ったイオンの手の中には、小鳥の亡骸があった。
「…冷たいです…」
「…墓、つくってやろう。」
「…はい…」

イオンとルークは小石を墓石にして、名前もしらない小さな花を添えた。イオンが悲しそうに花を見つめる。
「この鳥は…何故、死んだのでしょう?」
「生まれたからだろ?」
ルークが当たり前のように言う。イオンはきょとんとした。
「ルークは時に真理をつきますね……そうですよね…生まれたら…どんな生き物も例外なく死を迎える…」
イオンは悲しそうに微笑んだ。
「…小鳥が…うらやましいです…」
「…どうして…?」
「…僕は…死んだら何も遺らない…」
死体さえ、とイオン。
「…残るさ。…生きている人の記憶として。」
「じゃあ、ルークが僕の生きた証になってくれるんですね?」
ルークは悲しそうに眉を寄せる。
「…なんで…イオンが先に死ぬことになってんだよ。年功序列で俺の方が先だろ?」
イオンはそれはないですよ、と寂しそうに笑った。



ルークは、ダアトで風に髪をなぶらせていた。…頬に、涙の跡。
「−のこったよ。」
ルークは物言わぬ譜石に話しかける。
「…沢山…沢山残った…」
譜石…アニスにあげられねえな。

−ルーク…

最後におまえが名前を呼んでくれたから。
「…おれも、近いうちにそっちいくから。」
そのときは、笑って迎えてくれ。




end.






あとがき
それぞれの植物が実をつける季節は、ドクウツギが七月。ヨウシュヤマゴボウが十月。鈴蘭とヤマモモは秋だそうです。

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