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鐘撞き堂
「軍人の国」 イオ♀ルク。パロ
「キノの旅」のパロディ。
※PMの軍人三人に厳しいです。









「軍人の国」
−commonsense people−


「ねぇキノ。」
「なんだいエルメス?…僕はキノじゃなくてイオンです。」


キノと呼ばれた少年はイオンだと訂正した。
イオンは淡い緑の模様の入った、白を基調とした法衣をきていて、頭には質素な金属製の冠。両側には房がついていた。髪の色は深緑で、後ろは短く揃えてあるのに顔の両脇には緩く波打った長い髪が垂れている、変わった髪型をしていた。精悍な顔立ちのなかなかの美少年だ。年の頃は十台半ばに見える。法衣の中には愛銃IMIデザートイーグル(拳銃)やP90、(サブマシンガン)ライトマシンガンショーティーやシュタイヤー・モデル・インファントリー・ウェポンシステム2000(アンチ・マテリアル・ロングレンジ・スナイパー・ライフル)などがしまわれている。…物騒な少年である。

「じゃあイオン、僕も言わせてもらうけど僕はエルメスじゃなくてシンクさ。」


ごちゃごちゃした機械から、若い男の子の声がした。
イオンはタルタロス(注・陸上走行艦。空を飛ばないものだけを指す。)に乗って旅をしていた。シンクは陸艦の名前だ。

「さっき言いかけた質問をしていいかいイオン?」
「なんですか?」

イオンは操縦席から見える閑散とした白い砂丘の地平線を見渡しながら聞いた。


「この砂漠はどこまで続くのさ?」
「もうちょっとですよ。」

イオンは楽しそうに言った。

「…それ三時間前にも聞いたんだけど?次の国には一体いつ着くのさ?」
「もうちょっとですよ。」
「…タルタロス権侵害だ!訴えてやる!」

シンクは泣きそうな声で言った。

「やれるものなら。」







それから二十四時間後、イオンは生け捕りにしたアミメニシキヘビをかじりながら陸艦を操縦する。


「ねぇ…いつ着くのさ…?僕もうお腹ぺこぺこなんだけど?燃料やばいんだけど?」
「ほーでふか…」

イオンはアミメニシキヘビの皮をくわえてべりべりと剥がすと操縦席の床に吐き捨てた。

「なにするのさ!ゴミくらいちゃんと片付けてよね!?」

汚いなぁ、とシンクが文句を言う。

「はいはい…」

イオンはばりばりと骨ごと蛇を咀嚼しながら、左から右へ聞き流す。

「これって労働基準法違反じゃないの?あんたばっかり飯くって僕は走ってばっか!もうこれタルタロス権侵害だよ!」

「はいはい…お?」


イオンが双眼鏡を取り出す。

「なにさ?」
「やりましたねシンク。十二時の方向に森です。」

イオンがプッと小骨を床に吐き捨てながら言った。

「だから汚いって…!…次の国は森の近くだっけ?」
「はい。…途中で話した旅人の情報が正しければね。」









「これ以上進めないよイオン。」

シンクは立ち並ぶ木々を前にして困ったように言った。

「“進めない”じゃない。進むんですよシンク。」

イオンが強引に艦を進める。木はばきばきと音を立てて折れた。

「なに堂々と自然破壊してんのさ?!」

「君が破壊したんじゃないですかシンク。」

イオンは笑って肩を竦める。

「操縦してんのお前だろ?!それ銃で人を殺して銃に罪を擦り付けるのと同じだよ!」
「はいはい…あ、城壁が見えてきましたよ。」

イオンは双眼鏡をしまう。城壁は小さいが肉眼で確認できる近さだ。

「やった!これで燃料の補給ができる!」

シンクは嬉しそうに言った。

その時、悲鳴が聞こえた。

「何?!」

シンクが驚いて声を上げた。
イオンは素早く双眼鏡を取り出す。

「戦っているね…あれは…魔物と…人でしょうか?」

男、女、老人まで、老若男女様々な年齢の人たちが剣や槍、時には農耕用の鍬や鎌まで振り上げて戦っていた。

「ねぇイオン…?あれって民間人じゃないの…?」

イオンは魔物と戦っている人たちの服装を見る。それはバラバラで、軍人だとは思えなかった。

「…!」

紫電が魔物の群れを薙ぎ払う。
イオンは最前線に立って戦うものの姿を見た。
翻る朱金の髪。恐らく譜術(音素を用いた術。魔法の様なもの。)を唱えたのはその人だ。
鎧や身体を守る防具は一切身に着けておらず、纏うのはワンピース。荒削りな木刀を振りかざし戦っている。

「…どうする?」

シンクが問う。

「どうするって言ったって、寄らなきゃ許さないんでしょう?」
「わかってるじゃない」

イオンは操縦席の壁を思い切り叩いた。


「痛い!」
「取り敢えず、時間を置いてからにしましょう。」










「恨んでやる…恨むよイオン…!」
「しょうがないじゃないですか…君が国の中に入れる訳がないでしょう?」

イオンはやれやれと肩を竦める。

「なんで…なんでタルタロスで旅なの?!乗組員あんたしかいないじゃん!」

なんでこんな巨大な戦艦で?!とシンク。

「いまさらですねシンク。」

イオンはシンクを国の外に置き去りにして入国手続きをした。

「この国に入国したいのですが。」

イオンが声をかけると、門の外に小屋を構えてそこに住んでいるらしい、ダークブロンドの髪を三つ編みにして輪に束ねた妙齢の女性がハッと顔を上げた。髪の毛はぼさぼさで、女の人はやつれて見えた。

「……入国希望…?」
「はい。」
「…この国に…?」

「はい。」

女の人は信じられないという顔でイオンを見た。

「どうかなさいましたか…?」

イオンが問うと女の人は悲しそうに目を伏せた。

「…旅人さんはこの国のことを知らないで来られたのでしょう…」
「民を思いやる素晴らしい王が治める国だと聞いています。」
「それは…私がまだ少将として王にお仕えしていた頃の情報ですね…」

そう言って悲痛な笑顔をイオンに向けた。

「少将…?何故少将という立場の方がこんな仕事を…?」

女の人の頬を静かに涙が伝う。女性は慌ててそれを拭った。


「旅人さん、悪いことは言いません。必要なものを揃えられたら早々にここを去られたほうがいい…」
「名前をお聞きしても…?」
「セシルです。ジョゼット・セシル。」

「ご忠告有り難う御座いますセシル少将。」

一礼して、イオンは国の中へ入っていく。










イオンは街の中をざっと見渡す。何故か、鎧や軍服を着た軍人の数が多い。それなのに、軍人として仕事をしている素振りはない。酒を煽っていたり、博打に興じていたりといった風だ。
民間人と思わしきもの達は痩せていて眼に光はなく、皆傷ついていた。先ほどの戦いの傷だろうか。


「ふむ…これはなにかありそうだ。」

取り敢えず、携帯食料と燃料を買う。あんな大きな陸艦なのに小脇に抱えられる程度の燃料で済むのだから、シンクは燃費がいいな、と思う。

「あとは銃弾の補充かな…ん…?」

綺麗な旋律がイオンの耳に届く。

「−リュオ レィ クロア リュオ ズェ レィ ヴァ ズェ レィ−」

歌声の主を辿ると、忘れようがない朱金の髪。
先ほど最前線で戦っていた者だった。
遠くからでは判らなかったが、それは美しく長い髪を持つ少女で、傷ついた人々を癒やしているようだった。
歌声には治癒術のような効果があるらしく、街人の傷は光と共に消えていく。イオンが暖かさを感じて自分の手を見ると、シンクを殴った時についた小さな傷が淡く発光していて、光が消えると傷も消えた。

「すごい…」

イオンは感嘆の声を漏らす。

「美しいだろ?」

突然の声に振り向くと、短く刈った金の髪に空色の瞳を持つ背の高い青年が立っていた。年は二十歳くらいだろうか。

「…この国の王妃様さ…」
「王妃…?」

イオンは視線を少女へ戻す。もとは白かったであろう長袖のワンピースは土と血と垢でよごれ、顔も泥まみれだ。だが、朱金の髪と翆玉の瞳しか飾るものを持たないその姿は、自分の知っている、着飾った厚化粧な貴族の女よりずっと美しい。
それでなくても絶世の美女だと思った。


「…何故王妃が最前線で戦って…?それもあんな格好で…防具もなしに…」
「あら、王妃が軍人を守って戦うのは当たり前じゃない、旅人さん」

イオンの問いに答えたのは灰茶の長い髪を持つ、前髪で片目を隠した女だった。焦げ茶に金の縁取りと白い五線譜の模様の入った軍服を着ている。…軍人だ。

「ほら、ちゃんと働きなさい!世間知らずで役立たずなお嬢様?」

女はつかつかと赤毛の少女のもとに歩いていくと、少女を蹴り飛ばした。

「−−ッ!」

イオンは少女に駆け寄ろうとするが、金髪の青年に止められた。何故、と問うような視線を送る。青年はじっと少女を見ていた。
少女は、微笑んでいた。青年に向けてなのか、自分に向けてなのか、それとも、民に向けてなのか。大丈夫、というように、来るな、と言うように、笑っていたのだ。
気がついたらイオンの頬を涙が伝っていた。

「なに笑ってんのよ!気持ち悪いっ!」


今度は幼い少女が地面に倒れた赤毛の少女の腹を思い切り蹴った。癖のある黒髪をツインテールにしていて、服装を見ると、白で縁取られたピンクの服に、紫の模様が入った白い上着を着ている。幼くても、あの少女も軍人なのだろう。上着の模様は確か、宗教国家ダアトの象徴。


「…強い方なんですね…」

イオンは手を固く握り締める。

「ティア・グランツにとっては、これが当たり前なのさ…王族は軍人を守って戦って当たり前…一年前、王が崩御なされてから、一兵卒より少し上ぐらいの階級のあいつが、キムラスカ・ランバルディアをこんな国にしちまったんだ…ダアトからきた軍人もそれが心地よくてここに居座り、王妃に暴力を加える。しかも一週間前キムラスカを助けに国王の名代として来た筈の男も…あの有り様さ…」

青年が指差す方を見ると、三十代半ばの、肩にかかるくらいの茶髪に赤い目の男。眼鏡越しに、王妃がティアとダアトの少女に蹴られる様を楽しそうに見ていた。青地に白の模様の入った釦の多いマルクトの軍服を着ている。マルクトはキムラスカの近くの国だった筈だ。
イオンは顔をしかめた。

「ところで、あなたは?」

イオンは金髪の青年を見る。金髪の青年はばつが悪そうに頭を掻いた。

「俺は…王妃様の…ルークのしがない使用人さ。…あいつは俺のことを親友だって言ってくれた…でも…俺はなにもできない…友達だなんていえないさ。」

使用人も失格かもな、と青年は自嘲するように言った。

「…あなたの腰にある剣…宝刀ガルディオスとお見受けしましたが…」

青年は目を見開く。


「驚いたな…旅人さんがなんでこれを知って…」
「あなたは…マルクトのガルディオス伯なんですね?」

青年は苦笑する。

「…ちょっと…違う…かな…俺はガルディオス家の嫡男、ガイラルディア・ガラン・ガルディオス。…俺の一族は、ファブレ公爵…ルークの父親に殺された。…だから、復讐の為に…ルークを殺す為に俺は公爵家の使用人になった。…でも…殺せなかった…絆されちまったんだよ。…あいつの笑顔に。」

ガイラルディアは苦しそうに顔を歪めた。

「なあ、旅人さん、俺がおかしいのかな?軍人が王妃を戦わせ、ましてや暴力を振るい、見下す…それがこの国では常識なんだ。…狂っているのは、俺の方なのか?」
「そうですね、あなたは狂っています。」

ガイラルディアは驚いてイオンを見る。そんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。

「常識というものは、絶えず変化します。国を代表するものに影響され、時代に影響される。世間というものは、常識こそが絶対だと思っている……」

イオンはガイラルディアに微笑みかける。

「世間というものは、狂っている。でも狂っている状態こそが世間にとって正常であり、正しい。ならば、自ら狂者になればいい。狂っている世界で狂っていれば、あなたはまともだといえる…そんなものではないでしょうか?」

ガイラルディアはティア達が去っていって、また歌を歌い始めたルークを見つめた。

「…それいいな。…ありがとな旅人さん。」

ルークがこちらに走ってくる。民の治療は終わったらしい。

「さっきはありがとう旅人さん。…いつまでここに滞在されるんですか?」
「三日間です。…でも、今日は一旦国を出ます。」

ルークはしゅんとするが直ぐに笑顔をイオンに向ける。

「旅人さん、この国はいい国でしょう?」

イオンは微笑む。

「はい。あなたがいれば、この国は美しい。」

ルークはイオンの言葉に首を傾げたが、ガイラルディアは嬉しそうに笑った。








「セシル少将、一旦国を出ますが、一晩で戻ってきます。…そのときは入国審査なしで入れて貰えますか?」

セシルは首を傾げたが、「入国審査などあって無いようなものですから」と、快く了承してくれた。










「やったぁ〜燃料だぁ!満腹〜!」

イオンは安上がりだな、と思いながらシンクに燃料を供給する。

「シンク、明日ダアトへ向かいます。」

「へぇ…あんたがダアトへ戻るなんて、シックハウス症候群にでもなった?」
「……ホームシック…?」
「それだ!」

イオンはふっ、と笑った。

「違いますよ、シンクに付けられた傷を治してもらったお礼をするんです。」

ほら、とイオンは自分の手をひらひらと振る。

「それはお前が僕を殴ったときの傷だろ!痛かったのは僕だ!」

ふふふ、とイオンは黒い笑みを浮かべながら、銃の手入れを始める。

「怖っ!なんか企んでんだろあんた!」










「ルークはどこでしょうか…?っと…」


イオンはルークを捜しながら街を歩き回る。

「あっ!ルー…?」


イオンはルークの朱色の髪を見つけ、駆け寄ろうとするが、なにやら様子がおかしいように見えた。


「やめろ屑ども!母上に手を出すと許さないぞ!」

血のような赤い髪を持つ五〜六歳の少年がルークを庇っていた。

「アッシュ!…いいんだ!おれが殴られてそれですむなら!」

ルークはアッシュを背に庇う。

「へぇ…?殴られるのはもうなれたってワケ?」

ダアトの少女がくすり、と何かを思いついたように笑う。そしてティアに耳打ちした。

「大佐…」

ティアが厭らしい笑みを浮かべ、マルクトの眼鏡を振り返る。眼鏡の軍人の赤い眼が楽しそうに細められた。ティア達の言わんとしていることが分かった様だ。


「いいですね、それ…皆さん!」

眼鏡の軍人がパンパンと手を叩く。

「王妃様が慰めてくださるそうですよ!」
「え…」

ルークは眼鏡の軍人の言っている意味が分からずキョトンとする。そして、続いた言葉に絶句した。


「王妃様…?あなたは公衆の面前で軍人に輪姦(まわ)されるの刑です♪」

ルークの顔から血の気が引く。
兵士達が鎧を脱ぎ捨てて下卑た笑みを浮かべる。

「…やだ…いやだ…」

ルークは弱々しく頭を横に振る。

「では、先ず私が味見を…後がつかえているので大人しくしてくださいね…?」


眼鏡は震えるルークの肩を掴む。

「…いや…いやだぁ…」
「母上!」
「ルークッ!」

アッシュとガイが助けようとするも、ティアとダアトの少女、兵士達に阻まれる。薄いワンピースが頼りなく裂ける。

「やだ…!いやあああああぁ!」


ずがん!


ルークの悲鳴が響き渡るのと銃声は同時だった。

「ぐぅっ!」

肩に銃弾を食らいマルクト軍人が呻いて倒れる。
イオンの手には、紫煙の立ち上るIMIデザートイーグル。


「あ…あなた何をしたかわかっているの?!軍人に対して…!」
「−どこですか…?」
「はぁ?」

ダアトの少女が睨み付ける。

「どこに、軍人がいるんですか?」

にこり、と微笑むイオン。

「いない…です。」


少女の声と共に現れたのは、狼と虎を合わせたような生き物。
桃色の髪の少女が獣に一言、放った。

「…やっちゃって…」
「ぐるるるるッ!」


獣の群れがキムラスカの兵達に襲い掛かる。

「なにこれェッ?!」

ダダダンッ!

逃げようとするダアトの少女の足元の土を光の銃弾が穿つ。


「…ダアトの法王を敵に回したのが運の尽きだったな…アニス・タトリン…」

トルキッシュブルーの瞳が冷たくアニスと呼ばれた少女を見下ろす。
凍りつくアニスの視線の先には金髪をアップにした妙齢の女性がいた。

「…?!「魔弾のリグレット」…!!」


アニスが眼を見開く。

「知らない…あたし知らないもんっ!ダアトの法王なんて…!」
「そうだろうな…法王は放浪癖があるから…そこの「旅人さん」…実は法王イオンなんだ。」

健康的な小麦色の肌に金の髪と紺碧の瞳を持つ男(三十七歳独身)がそう言い放つ。


「ピオニー!」

ルークが男(三十七歳独身)に向かって叫ぶ。

「待たせたな!ルーク!」
「う…そ…」

信じられないという顔で自分とマルクトの王を見るアニスにイオンは口端を吊り上げて笑う。

「アリエッタ!…やっちゃってください…」

イオンが名前を呼ぶと桃色の髪の少女は獣をアニスに差し向ける。

「−!」

アニスは声もあげることができずに絶命した。

「がっかりです…いや…こんな言葉では足りないですね…ジェイド・カーティス…」

褐色の肌に白銀の髪を持つマルクトの軍人がスラリと童子斬り安綱を抜刀する。


「アスラン!」
「すみませんルークさん…辛い思いをさせてしまって…でも…」

すぐ終わりますから、とアスラン。
次の瞬間、眼鏡の軍人の頭がごろりと落ちた。

「キャアアアアアァ!」

ティアが悲鳴を上げて逃げようとする。


「逃がしませんよ?」
「させるものか!」


白色の髪の眼鏡の学者と灰色の髪と大鎌を持つ大男が立ち塞がる。

−そして

「楽に死ねると思わないでください。」


P90を構えたイオンが背筋の凍るような瞳で笑った。



−こうして「軍人の国」は一瞬にして消えた。











「ルーク…俺の名代がとんでもないことを…」

すまなかった、と謝るピオニー。

「いいえ、来てくれてありがとう、ピオニー、アスラン。」


アスランが優しく微笑む。

「これから、マルクトはキムラスカ・ランバルディアに協力を惜しみません。…ですよね陛下?」
「おう!あったりまえだ!…それにいつでも俺の嫁に−」

ゴッ。

気絶させられたピオニーはアスランに引き摺られて帰っていった。


「…旅人さん、ダアトの法王だったんですね…そうとは知らず失礼なことを…」


イオンは破顔する。


「とんでもない…傷を治していただきました。」
「俺は、これからキムラスカを立て直そうと思います。」

民はついてきてくれるかわからないけど、と不安げに微笑むルーク。

「そんなことない。おまえならこの国を支えられるさ。」

ガイがくしゃくしゃとルークの頭を撫でる。

「僕は放浪癖があっていつも玉座をあけるから、弟のフローリアンが法親王として国をおさめているんです…僕も…あなたを見習わなくてはいけませんね。」

イオンがそっと手を取る。

「でも…もし…弟とキムラスカが許すなら僕はあなたと共に…」
「おれは…」

ルークは顔を赤らめる。

「…いいじゃないか、ルーク…ナタリア陛下だって、身まかられる前、「わたくしに縛られず生きて欲しい」と、仰っていた。…おまえは、幸せになっていいんだルーク。」

アッシュがガイの脛を蹴飛ばす。

「いて…なにすんだアッシュ…」

アッシュは恨めしそうにイオンを見る。


「母上…」

お前も親離れしろよ、と頭を撫でるガイの手をアッシュが払いのける。

「母上を…泣かせたら許さない…」
「肝に銘じます。」


イオンはアッシュに向かって微笑んだ。そしてそのままの顔でルークを見る。

「あの…」
「なんだ?」
「彼はあなたのことを「母上」と呼んでいますが…」
「ああ、アッシュはおれの子だよ。」
「…実の?」
「ああ。」
「因みにルークとアッシュはお幾つなんですか…?」
「アッシュは六歳。おれは十七だ。」

イオンは顔を背けてなにやらぶつぶつ言ったあと、こちらに向き直った。気にしないことにしたようだ。

「あのさ…イオン…様?」
「様はいりませんよ。」
「おれ、アッシュが成人するまではこの国にいたいんだ…」
ルークは申し訳なさそうに言うが、イオンはルークを抱き締めた。



「待ちます。」
「…そのころには、お婆ちゃんだよ?」

「それはないですよ。」

イオンが小さく噴き出す。

「…待ちますよ…いつまででも。…愛しています…ルーク。」

ルークは花が綻ぶような笑顔を向けた。










「ちょっと、ねぇ、僕のこと忘れてない…?」

城壁の外のシンクが文句を言った。












end...?




あとがき
母曰わく、「ジェイドは扱い悪いわ殺されるは、散々やね」
…その通りだと思いました。…別に嫌いじゃない…筈。













−10years after...




「ねぇ、キノ。」
「なんだいエルメス?」

寂寥たる白い砂丘を一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が走っていた。モトラドを運転するのは、短い黒髪を持つ、精悍な顔立ちをした若者だ。年の頃は十代の半ばだろうか。茶色のロングコートを着ていて、余った端を腿に括り付けて止めていた。

「今回のキノはちょっと迂闊だったと思うな。…死んでいたかもしれないよ?」


キノと呼ばれた若者は暫く沈黙したあと、小さくため息をついた。

「…それは僕が一番わかってるよ、エルメス。」
「…ラッキーだったね」

皮肉めいたエルメスの言葉に、ああ、と肯定するキノ。

「まさか、次の国にたどり着くまでに液体火薬を使い切るなんて思っても見なかった。…肉食の獣があんなにいるなんて…」
「そこも予測しておくのが旅人というものだよキノ。」
「うん…でも、助かった。まさか通りすがりの旅人が火薬を分けてくれるなんてね。感謝しなくちゃ。」
「あの旅人、硝煙の匂いがぷんぷんしたよ。」

疑うようでもなく、楽しそうにエルメスが言った。

「うん。きっとすごい量の銃火器をつんでいるんだ。…でも、あんな巨大な戦艦で旅だなんて…変わった夫婦だ。」

商人かな?とキノ。


「きっとキノと大差ないアッパーシューターだね。同族のよしみってやつさ」
「…僕は乱射魔じゃないよエルメス。…森が見えてきた。」

「次の国はどんな国なんだっけ?」
「あの夫婦の話では、確か…」

国の様子を語った夫婦を思い出し、キノは笑みを零す。



「…「不束な王だけど、仲良くしてやってくださいね」…だ。」












end.

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あきゅろす。
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