鐘撞き堂
鹿を指して馬となす イオ♀ルク。パロ※
「はぁ…」
満月の夜、深緑の髪を持つ少年は机に突っ伏して深く深く溜め息をついた。桐の箱に大事そうに収められ、誇らしげに輝く御名御璽を恨みがましく睨んだ。
−御璽とは、王の印だ。
この少年は、明日、戴冠の儀を迎える。王である父が死んだ為に。…真に、まことに不本意ながら。
王様なんて、毎日玉座に座り、辛気臭い臣下の顔を毎日見て、机に座っては資料に目を通すという痔の危険性と隣り合わせの職業だ。
そんなことを毎日、一生、死ぬまでフォーエバー。
幼い頃から外の世界に憧れ、旅人を夢見てきた少年には死刑宣告も同じだった。
「………」
少年は窓の外に視線をやる。せめてこんな明るい夜でなければ逃げ出すこともできたかもしれないのに。…今日はもう三回も脱走を試みては捕まっていた。空には太陽のように明るい満月を隠す雲さえ、ひとかけらもない。
…外に出られない?
一生?
此の侭?
…ずっと…?
少年の心を絶望が覆い尽くしたとき、月明かりを受けて何かがきらり、と光った。
「………?」
少年はゆるゆると視線をそちらに向ける。それは−
−…ナイフ。
メイドが林檎を剥いた後置き忘れた、小さな果物ナイフだった。
どくん、と心臓が跳ねる。
−そうだ。
生きていても、死んでいるより辛いなら、
−いっそ。
少年はよく研がれたそれを自分の首に押し当てる。丁度、頸動脈の真上。
どくん。
どくん。
「く…!」
最後にひとしずくの涙が零れ、ナイフを握る手に力を込めた。
−次の瞬間。
ぱしんっ!
乾いた音と共にナイフが床に落ち、からからと滑る。
「………?」
「っく…!ひっく…!」
すすり泣く声の方を見ると、子供が立っていた。自分より一回りくらい小柄で、こんなときに雲が月光を遮って見えなかったが、ゆったりとした広い袖の白い着物と赤い袴からしてメイドじゃない。…そもそも、この国の格好じゃない。
「誰…ですか…?」
雲が通り過ぎ、月の光が子供を照らす。少年は思わず息を呑んだ。
朱から金に色移りする、踝まで届く絹糸のような髪が鮮烈に現れたかと思うと、そろりとこちらを見たのは涙に濡れたエメラルドのように美しい瞳。透き通るような白い肌。
「なんで…なんで死のうとする…?」
ふっくらとした桜色の唇から鈴を揺らすような声が涙混じりに零れる。
「…明日から王にならなければいけないからです。…外に出られない、死ぬまで、仕事、仕事、仕事…そんなの僕にとって生き地獄以外の何物でもない。」
少年は達観したように言った。なんでこんなに美しいものがこんな薄汚い城にいるのか、自分みたいなものに話しかけているのかわからない。
…でも、もういい。
…どうでもいい。
「生き…地獄…」
綺麗な子供は悲しそうに僕の言葉を繰り返したあと、涙に濡れた瞳で真っ直ぐ僕を見た。
「じゃあ、逃げろ。」
僕は苦笑する。
「無理ですよ…もう三回もチャレンジしたんです。…こんな明るい夜じゃ…」
「手伝ってやる。」
「…気持ちはありがたいのですが…あなたのような小さな子供では…」
「…おれは、人間じゃない。」
「…え…?」
子供の言葉に目を丸くしていると、子供は僕の手を取って、自分の額に触れさせた。
先の尖った硬いものが掌に触れる。
「これは…?」
僕はもう片方の手も伸ばして包むように朱色の前髪に隠れていたそれに触れた。
「ん…っ」
子供は顔を赤くして眼を瞑る。
−それは、角だった。
確かに子供の額を突き破って“生えて”いる。
僕は眼を丸くして子供に問うた。
「あなたは…鬼?」
「鬼…じゃない…麒麟…だ…」
「キリン?麒麟って…御伽噺とかに出てくる…あの麒麟?」
子供は首肯する。
−この国には昔から伝えられていることがある。生草を踏まず生物を食わず、聖人が出て王道を成すときに現れるという。その姿は−
「……形は鹿に似て大きく、尾は牛に、蹄は馬に似ている。頭の上に一本の角があり、背の毛は虹の色に輝き身体は金の毛並み…と…聞いているのですが…」
子供は面白くなさそうに目を伏せる。
「角があって、尻尾があるから…勝手に獣にされたんじゃないのか?…前の麒麟が現れたのは二千年も前だ。…情報が腐るには十分な時間だろ?」
人間はやたらと誇張したがるしな、と言って麒麟は嘆息した。
「…麒麟は…聖人が出て王道を成すときに現れるのでは…?」
「ああ、それは当たってる。」
「…僕がそれだと?」
嘲うようにそう言うと、麒麟は悲しそうに朱色の睫を震わす。
「そう…思った。よき王になるに足る器だと…」
でも、と言って麒麟は言葉を切る。
「嫌がっているのなら…仕方がない。おれは、おまえのために生まれた麒麟だ。…おまえが幸せになるようにする。」
「僕のために…生まれた?」
「ああ。」
「僕を逃がしたら…あなたはどうなるんですか?」
「消えるよ。…存在として、抹消される。跡形もなく消える。」
なんでもないことのように、当たり前だと言うように、麒麟は言った。
「じゃあ…じゃあ、僕がもし…王になったとしたら?」
「なんでも言うことを聞く。死ぬまで傍に居る。…おまえの麒麟だから。」
どくん、
どくん。
刃を首に当てた時と全く違う感覚で心臓が跳ねる。
なんでも言うことを聞く?
死ぬまで傍に居る?
こんな美しい、美しいものが?
−僕のものに…なる?
ごくり、と生唾を呑む音が静かな部屋で妙に大きく聞こえる。
「さあ、逃げるんだろう?はやく−…」
「…気が変わりました。」
「…え…?」
「あなたが傍に居てくれるというのなら…王も悪くないかもしれない。」
麒麟は信じられないというように驚きながらも、嬉しそうに笑った。
「ほんと…?ほんとか…?」
「ええ…」
麒麟に近づき、顎を捉えると親指で柔らかな唇をなぞる。
「ほんとうに…僕のものになってくれるんですか?」
「それは、もちろ−」
答えを全部聞き終わらないうちに、僕は美しい獣の唇を奪った。
「んぅ…!ふ…」
可愛らしい桜色の唇を割って、歯列をなぞる。苦しそうに息継ぎしようと開かれた口の奥に舌を滑り込ませ、舌といわず頬の内側といわず貪るように舐めて、味わい尽くした。
初めは驚きに見開かれていたエメラルドの瞳も、しだいにとろりと熱を帯びる。
「っは…!」
口付けから解放してやると、麒麟は上下する胸を押さえて深呼吸した。
「な…にすんだ…!びっくりしたじゃねーか…!」
「気持ちよかったくせに。」
からかうつもりでそう言うと、麒麟はびくりと肩を揺らし、真っ赤になって俯いた。
「あれ…?図星ですか?」
「う…うるせーな!」
「僕は…イオンです。…あなたは?」
「…ルーク…」
「そう…あなたにぴったりの…いい名前ですね…」
ルークの耳元でそう囁くと、少々乱暴に床に押し倒した。白い着物の胸元を撫でるとふわふわと柔らかな感触が掌に返ってくる。
「あ、雌の麒麟?」
ルークが瞠目した。
「な…おまっ…!雄か雌かもわからないであんなことを…?!」
「ええ。…これだけ美しければ僕にとって雌雄などどうでもよかったんです。」
イオンがにっこりと微笑んでそう言うのでルークは言い返すことができなかった。
「それより…さっきから気になっていたんですが…もしかしてここって性感帯なんですか?」
イオンはすりすりとルークの額の角を擦る。
「あっ…やめ…そこ…だめだから…っ!」
ルークは先ほどのように顔を赤くして眼を瞑った。
「ん〜…折角性感帯が分かったところですけど…ルークが嫌がっているようなのでここは触らないであげましょう。」
ルークはほっと胸を撫で下ろす。
「…陛下は優しいな。」
「…そのかわり、他のところは死ぬほど触りますけど。」
「…え…?」
そう言うやいなや、イオンはルークの着物を荒っぽく剥ぐ。ふるん、と小ぶりな胸が露わになる。
「…や…!」
「おいしそうですね。いただきます。」
そう言ってぱくり、と鴇色の先端を口に含んだ。
「あっ…ふぁ…ん…へーか…そこも…やだっ…あ!」
「角を見逃してあげたでしょう?それと、僕はイオンです。…名前で呼んでください。」
ぐりぐりともう片方の先端を指でこね回したり、摘んで引っ張ったりしながら話す。勿論、片方はくわえたまま。
そんな状態でしゃべられてはルークはたまったものではない。
「で…も…へー…か…」
「…イオンです。」
「きゃううっ!」
いつの間にか袴に潜り込んだ手がお仕置きだと云わんばかりに肉芽を弾く。ルークの暴れる尾がさらさらと手に触れた。
「ここ…ヌルヌルしてます…麒麟も人間と同じなんですね?」
「そ…んなこと…どこで覚えてきた…不良…!」
「本を読むくらいしか趣味がなかったもので…たまには禁書の棚の官能小説に手を出したり…」
そうやって話しているうちにもイオンはてきぱきと袴を脱がす。
「…どの本で見たものより可愛らしいですね…ルークのココは…」
ぐい、と膝裏を持ち上げてルークの秘所を月明かりに晒す。しっとりと蜜を零す桜色のそこに鼻先を寄せた。
「や…だ…!やだやだ!そんなとこまじまじと見るなっ!」
つつ、と指を這わせれば、ルークの身体は面白いくらいびくびくと跳ねる。
「その上…とってもいやらしい…もう受け入れる準備をして…ひくひくと蠢いていますよ。」
ルークはきょとんとする。
「うけ…いれる?…何を…?」
くす、と笑みを零すイオン。
「ルークはまだ知らないんですね…受け入れると言えば…コレしかないでしょう。」
イオンはそう言って片手で法衣を脱ぎ捨てる。ルークはイオンの頭からまじまじと眺める。引き締まった、自分とは違うつくりの胸。丸みのない腹部、その下の−…
「なに…それ…?」
「何って…ルークのココと同じです。」
イオンはルークのしっとりと濡れた花弁を指差す。
「うそだ…ぜんぜん…ちがう…」
「それは…雄と雌ですから…ね。…触ってみますか?」
イオンはルークから手を離す。ルークは身体を起こすと、恐る恐る手を伸ばした。
「熱…い…硬くて…おっきい…」
「っは…あ…んまり…弄くらないでくださいね…?恥ずかしい…ですから」
ルークは可愛らしく首を傾げた。
「恥ずかしい…のか?」
「はい。もちろんです。」
そこでルークは仕返しでもしてやろうと思ったのか、悪戯っぽく笑うと指先でイオンの肉棒の先端のくるくると撫でたり、指で先端の穴をつついたりする。
「そんなことをして…困るのはルークだと思いますよ?」
「え…?」
ルークはそう言われてイオンの顔を見上げたあと、肉棒に視線を戻す。
…なんか、さっきより大きくなっている気が…
「ご…ごめん!今のナ−」
「だめです。」
イオンは再びルークの膝裏を捉えると、猛った性器をルークに突き入れた。
「あああッ…!やああ!痛い…っ!」
身体を裂かれるような痛みに悲鳴を上げるルーク。処女膜を突き破る感覚と、血の匂い。
「はっ…あ…るー…く…!」
「あ…っ?んぅ…?ふぁっ…ああん!」
「もう…気持ちよくなってきたんですか…?ふふ…淫乱な麒麟ですね…」
「ふあっ…やあ…!ああっ…いお…ん…っ!」
鈴を揺らすような声であられもなく嬌声を上げるルーク。可愛らしい声で、喘ぎまじりに自分の名を呼ぶ。…昂ぶらないはずがなかった。
「もっと…呼んで…名前…」
「ああんっ!いおん!いおん…っ!」
「……ッ!」
イオンはメチャクチャに腰を打ち付けて最奥まで貫いたあと、美しい獣の胎内に白く濁った欲望を吐き出した。
−翌朝、沢山の臣下たちが見守る中、イオンはその頭に豪奢な冠を戴く。先代の王を真似て玉座に腰を下ろしてみれば、臣下たちから感嘆の声が上がる。
「殿下…いえ、陛下。無事に戴冠されたこと、こころよりおめでとう申し上げます。
灰茶の髪と髭を持った男が恭しく膝をつく。
「ああ。そんなことより、紹介したいものがいます。」
「は?それはどういう−」
髭の男が意味を図りかねていると、玉座の裏からしずしずとルークが現れる。臣下たちは目を見開く。撫でつけた朱色の前髪からは角が覗き、腰から膝裏までをふさふさした馬のような尾が揺れている。臣下たちは顔を輝かせた。
−麒麟が現れた王が治める時代は国が栄えると伝承にあるからだ。
「陛下…!おめでとうございます!まさか麒麟が−」
「…麒麟じゃありません。」
「…は…?」
臣下たちが驚く。ルークも眼を点にしてイオンを見た。
「…麒麟じゃありません。ちょっと風変わりなただの少女です。…僕の妻にします。」
イオンが嘘をついたのには理由があった。
伝承では麒麟はあくまで王の僕なのだ。
…故に、妻に娶ることはできない。
「で…ですがその娘には角と尾が…!」
イオンは不機嫌そうに髭の男を睨む。
「…聞こえなかったのですか?この娘は、少し異形なだけの少女です。…昨日僕が自殺を図ったところを止めてくれました。…だから僕の妻にします。」
臣下たちの頭の中を様々な葛藤が巡った。
アレは確かに麒麟だ。だが陛下は麒麟ではないという。…きっと妻にしたいがためだ。
だが、妻にしたとしても麒麟が陛下を王道成す聖人として認めたことは事実。そして妻となれば必然的に傍にいることになる。そして陛下の言葉。…あれは暗に、「この娘を妻と認めないなら自殺する」と脅している。
臣下たちは一つの結論にたどり着いた。
「い…いやあおめでとうございます!美しい奥方様でなにより!戴冠の幸せと陛下のご成婚を一度に迎えられるとは…!」
「え…?」
ルークは予想していなかった事態に戸惑う。助けを求めるようにイオンを見ると、イオンは微笑んでいた。
「よかったですね。…これから、ルークは僕の奥さんとしてずーっと一緒にいるんですよ。…そういう約束でしたよね?」
嫁になるとは言っていない、と言い返そうとしたが、イオンがあまりにも幸せそうに微笑むので、「まあいいか」の一言でルークは片付けた。
−その年に、麒麟がその胎内に宿した王のたねは、命となってこの世に生まれ、その王国は九十年の長きに渡って栄え続けた。老いた王の骸の隣には、九十年を生きて尚、若い娘の姿であり続けた王妃の姿があり、その王妃も、王の後を追うように亡くなり、王廟に寄り添うように名を刻まれたという…
end.
王子イオン×聖獸ルークパロディ。
十●国記のパクリじゃない。…多分。
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