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short story
ワンダー学園*4*
 
時はすでに夜10時を回っていた。






そんな中、小中高共に同じ敷地内にあり、広大な領地を誇る私立ワンダー学園に、一つの明かりが灯っていた。













【うたた寝】〜るべきは永劫なるきを〜









夏の空はすでに黒一色になっている。

にも拘らず、ここ、中等部生徒会室は未だに明かりが灯されていた。


カタカタ・・・パラパラ・・・


キーボードを叩く音と、紙を捲る音だけがその部屋から唯一聞こえて来る音だった。


「あぁ、すみませんが、副会長、そちらの資料を見せてもらえませんか?」


生徒会長ことシトがやっと口を開いたかと思うと、執務の事。

しかも手の動きすら止まってはいない。


「・・・・・・・」


いつもなら、言えばすぐにでも返事をして動いていた副会長ことアリスに何の反応もなかった。

シトは一旦切りのいい所まで行くと、用意されていたコーヒーを一口飲み、斜め前へと視線をやった。

見れば、アリスはうつらうつらと半分寝かけていた。

シトは腕時計を見ると、外を見る。


「もう、こんなに時間が経っていたんですか・・・。昼からこの調子でしたし、アリスには少し無理をさせてしまいましたね。」


にしても、彼女の仕事振りは本当に助かる。

お陰でいつもの3倍近くは早く片付いている様に感じる。


「アリス、そんな所で寝てしまわれては風邪を引いてしまいますよ。」


シトは立ち上がってアリスのいる副会長専用の、自分よりも少し小さめのデスクに近寄る。

良く見ると、手にはしっかりとペンを持っていた。

本当に、見事なまでの仕事振りである。


「すみません。今まで私だけでしたので、気付いてあげられませんでしたね・・・・」


シトはそっとアリスが握っているペンを自分よりも遥かに小さな手から抜き取ると、己の燕尾型になった制服の上着をかけた。

アリスはシトよりも小さいので座っている状態では直のこと、それは地面に付いた。


「しかし、まだ私は執務がありますし・・・・音とか、煩いかも知れませんね。それに・・・・」


シトは言葉を切ると、ちらり、とアリスを見た。

未だにこくこくと首を上下させているアリスは目を覚ます気配はないが、その度に揺れる金色の髪や、目を瞑っている事でより強調された長い睫毛を見るとシトの心中は穏やかではない。







“誰にも見せたくない”







「・・・・・・風邪を引かれてしまっては、色々と困りますからね」


最後には正当な理由を付けて、シトはアリスに上着をかけたまま抱き上げると、そのまま会長専用の寝室へと運んで行った。













そして時刻は深夜0時を過ぎる5分前。




アリスはゆっくりと目を覚ました。


「ん・・・ここは・・・・?」


アリスは低血圧というわけでもないが、起きたばかりで頭がぼーとしていた。

それもすぐに覚醒する。


「まさか・・・会長の、寝室?」


シトが倒れた時に、一度だけ入ってはいるが、改めて見ると、やはり立派な作りである。

アリスはそそくさとシーツの乱れを正すと、急いで部屋を出た。

元々、会長専用の部屋は生徒会室と繋がっているため、扉二枚で移動は終わりだ。

アリスは二枚目の扉をゆっくりと開けた。

部屋いっぱいに広がる光に目を細める。


「会長、あの、すみませんでした。寝てしまったみたいで・・・・・」


アリスはさらにゆっくりと扉を閉めると、シトの方へ向き直る。


「会長?」


だが、何の反応もない。

アリスはノートパソコンで隠れてしまっているシトの顔を覗いた。


「シト・・・・寝てるの?」


そう、シトは目を閉じて寝ていた。

手には会長印(会長専用印鑑)を持って、身一つ動かす事なく寝ている。

それは一見、寝ているのかさえ疑わしく思ってしまうくらいに。


「・・・お疲れさま、シト。あと、この上着、シトのだよね?有難う」


アリスは起きた時に布団と一緒に掛かっていた上着をシトにかける。

そしてじっとシトを見つめ、小さく呟く。


「・・・・・・ずっと、一人で頑張ってる君は、何に護られているの?」


アリスはそっとシトの髪を撫でた。


「私はね。ソレを、間違った愛で君を苦しめるソレを、潰しに来たんだよ。君を、孤独にする、“ガ−ディアン”を」


ゴーンゴーン


ふいに部屋にある大時計が0時をさして鳴った。

アリスは触れていたシトの髪から手を離すと、何事もなかったかの様に自分の席へと戻った。


「・・・・・アリス?」


シトは目を覚ました。


「はい。今さっき起きました。すみません・・・」


「・・・・・いえ、まだ、寝ていても構いませんよ・・・・・」


因に言うと、シトは大の低血圧である。

なのに対応できるのは、相手がアリスだからだ。

普通だと、泣きたくなる程無視をかまされるか、全身から汗が吹き出る程睨みを利かされるか、ぼそりと何かを囁かれて終わりである。

あぁ、これは実体験をした人からの報告である。

その人曰く、その時のシトは魔王にも匹敵するとか・・・。


まぁ、そんな無謀な事をする人は一人しかいない。

そして一番最後のが最悪に恐ろしいとの事である。


「いえ、少し寝たので大分楽になりましたし、会長の方こそ寝て下さい。」


アリスは言うと、再び手を動かし始めた。


「・・・そういえば、アリスは寮ですよね?」


ここで始めて、シトがアリスの事を聞いた。

もう、数日と一緒にいるが、こういう質問は一度もしていなかった。

さらに、今のシトは寝ぼけている様だ。

基よりここは全寮制である。

だが、アリスは突っ込みもせず、優しく微笑んで素直に答えた。


「うん。シトもそうだよね?あんまり使ってないって聞いたけど」


アリスは言いながら席から立ち上がり、カラになったシトのカップにコーヒーを注いだ。

コトリ、とシトの前に置けば、シトは白い湯気を見つめた。


「えぇ、その通り、あちらの部屋は使ってはいません。生徒会長専用の部屋は、ここにもありますからね。」


アリスは聞きながら自分のカップにも注ぎ入れると、そのカップとデスクチェアを軽く引きずりながら、シトの横に持っていった。

シトは湯気から目を離して、アリスの行動を目で追っていた。

横で落ち着いたアリスは、シトの視線に気が付くとカップを両手で持ってにこりと微笑んだ。


「・・・どうしたんですか・・・」


さっきまで多少寝ぼけていたのが、さっぱりと覚めたシトである。


「この部屋、二人には広すぎるよね。」


その言葉を頬笑みながら言うアリスに、シトは苦笑する。


「えぇ、まったくですよ・・・」


苦笑しながらシトは、どこか、嬉しそうであった。




暫く二人は、コーヒーを啜りながら、本当に静かな部屋で横に並んだまま体を休めた。

その沈黙を最初に破ったのはシト。


「そういえば、もう日付けが変わってるという事は・・・・・夏期休暇ですか。」


「あ、すっかり忘れてた。でもまだ大分仕事が残ってるもんね。頑張りましょうね、会長」


今やアリスには、1ヶ月ちょっとの休みなどなくなるほど働かなくてはならない事を覚悟していた。

だがシトは、その言葉を聞いた途端に自分の顎に手を持っていき何やら考えていた。


「・・・・その事ですが、もしかしたら休みがあるかも知れません。」


「え?」


「昨年は一人で作業したので、休みなど足りないくらいでしたが、今年は、有能な副会長がいますからね。」


シトは笑顔で言った。


「・・・本当・・・?」


アリスは信じられない、と言った様にシトを見た。

それ程、生徒会の仕事が大量にあると言う事である。


「えぇ、このまま行けば確実ですよ。そうなれば、ゆっくりと体を休めて下さい。」


「シトは、この学園の外に行った事ある?」


シトが言い終われば、唐突に質問するアリス。

多少驚きながらシトは答えた。


「外、ですか?そうですね。夏の行事にハメを外し過ぎる未成年が居ますから、それに世間が干渉する前に、こちらが取り締まるための出張で赴きましたが・・・・・」


あ、これは今年もありますよ。と続けるシトに、アリスは再び問う。

その言葉はシトには当然、予期せぬ言葉。










「じゃあ、何処か、行かない・・・?」







「・・・・・・」








はっ!




シトは覚醒する。


「え、えぇ、いいですね。アリスは何処か行きたい所があるんですか?」


多少動揺したシト。


「そうだなぁ・・・やっぱり、その時になってから二人で決めようよ。」


「はい。」


シトが相槌すれば、アリスは、そうと決まれば、と何処か張り切りながら持って来た椅子とカップを持って、席に戻っていく。

また軽く引きずりながら進んでいたアリスは、途中でぴたりと止まると、シトの方を見た。

見ればシトも執務を始める準備をしていた。


「ねぇ、シト」


アリスの呼び掛けにシトは手元から視線をあげる。

それを確認して、アリスは続けた。












「たのしみだねっ」












それだけを言うと、再びアリスは歩き始めてしまった。

元々距離もそんなにないため、その歩みもすぐ終わる。

アリスはそのまま執務に手を動かしていた。






そんな中シトは、自分の顔を手で押さえていた。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


その様子はまるで何かを押さえ込む様であった。


「・・・・はぁ。では、私も執務に取り掛かりましょうか。」


シトはアリスに聞こえない様に小さく溜め息を付くと、そのまま目の前の書類に目を通していった。























この暗い空をも掻き消すような貴女の笑顔は、夏の太陽のよう。




その輝きを、この先ずっと










ずっと見られる、幸福を―――――――――――













護るべきは永劫なる輝きを
(私も、楽しみですよ)(何か言いました?会長)(いえ、何でもありませんよ)
end

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