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short story
ワンダー学園*3*
 








それはほんの、前触れに過ぎなかったんだ。











きっとね。












【夕立ち】〜その真意を僕はる〜









ザアアァァァァァ







「あぁ、降って来てしまったね。雨・・・」


アスは中等部生徒会室の窓に手を付いた。

そこから見える景色は青々と茂る森。


「皇帝さん、紅茶はいりますか?」


「・・・・・・・」


アスが黙っていても紅茶は注がれた。

いや、いらないんではないよ?

寧ろ、美味しすぎるからね?


「皇帝さんはシト会長にご用でしょうか?でもご免なさい。生憎シトは、病み上がりの為、奥の寝室で眠ってます。」


「う、うん。取り敢えず、その呼び方は誰に聞いたのか教えてくれる?」


「あ、はい。シト会長からです。」


・・・・・やっぱり。


「高等部生徒会長は、とても上下関係にお厳しいと聞きました。下克上があったものなら、誰彼構わず地獄に落とすと。」


それ、信じちゃったの?

そんな真顔で言わなくたって・・・・。


「あと、へらへら笑うやつはお嫌いだとも。」


真顔の謎が解けちゃったよ。


「・・・新副会長。僕は上下関係なんてそんなに気にしないし、笑顔だって寧ろ大好きだよ。」


だから笑って。

そう言おうとして、言葉に詰まった。

彼女はすぐ横にいた。

僕と一緒に窓に手を付いて・・・。




そして








笑顔だった。







「皇帝さんは、“夕立ち”のことをどう認識していますか?」


僕が彼女の横顔に見とれていた時に、ふいに質問された。

僕は少し落ち着かなくて、窓から離れてソファに座ってから答える。


「ゆ、夕立ちは夏の風物詩だと、良く聞くね。」


アスはそれだけ言うと、用意された紅茶を飲む。

やはり、美味しい。


「夕立ちって、その名前だけだと、何処か優しい感じがしますよね。」


アスはカップを手に持ったまま、窓の外を見て今だ微笑んでいる横顔を見た。


「そうだね。夕立ちはにわか雨とも言うし、どこか軽いイメージがする。」


「でも、夕立ちは、時に強風や雷も起こせば、竜巻きも起こす事があるんです。不思議ですよね」


彼女はしみじみと言った。


「じゃあ、さ。君は、どう認識しているんだい?」


「私は――――」


彼女は一旦言葉を切ってから、ゆっくりとアスの方へと向く。

その時、外の光が彼女が振り向くのと同時に明るさを増した。







空が晴れていく―――――――――







「私は、空が輝きを増す、前触れなんだと思います。」


眩しい・・・。

彼女の後ろから射す空の光は、目を細めなければならない程、眩しかった。




いや、きっとそれだけではないんだ。




「あ、ほら、見て下さい」


彼女が指差す先には、七色の掛け橋がこの学園にアーチを作っていた。

それは今までに見た事のない大きさだった。

本当は渡れるんではないかと思ってしまうくらい、色鮮やかな橋。


「綺麗です。やっぱり、空は一層輝きを増しましたね。」


そう言う彼女はまた優しく笑った。

僕もつられて笑ってしまう。


「うん。本当に、綺麗だね。でも僕は思ったんだけど――――――」


言おうとした途端、彼女の笑顔が消えた。

いや、隠されたと言うべきか。




「おや、アス会長。入らしていたのでしたら、一言声を掛けて下さってもよかったのに。残念です。もうお帰りですか・・・・・」




あぁ、うん。

そんな睨まないでよ。


「え、シ、シト??」


「はい。私が寝ている間、ご苦労様です。アリス」


そう言いながらも、シトはアリスの顔を覆っている手を退けない。

それでもアリスに向ける表情は穏やかだった。


「はは、シトくん、この間倒れたそうじゃないか。君が聞き込みに行った部員たちが、その日に潰されたそうだよ。」


瞬間、シトはアリスの顔から手を離し、代わりに耳を塞いだ。

アリスは突然の事に疑問符が浮かんでいる。


「何故そんな事を私に?無関係にも程がある。」


シトは軽く舌打ちをした。

それにアスは苦笑する。


「でも、そうだね。アレが勝手にやってる事だしね。それに僕は君を責めるつもりで言ったわけじゃないよ。ただ、これはあまり宜しくないからね。分かっているとは思うけど、シトくん・・・・」


そこでアスは言葉を切ったが、シトには十分すぎる程伝わっていた。

シトはアスの考えに賛同するように頷く。


「えぇ、分かっていますよ。今まで放っておいたのは、忙しかっただけの事。すぐにでも暴いてみせますよ。」


「それは、頼もしい限りだよ。」


だけど、とアスは続ける。


「アレの事だ。君の身近なものにまで手を伸ばすよ。その時君は、護りきれるかな?」


アスは未だに疑問符だらけのアリスを見る。


「愚問ですね。私はそう言った分かり切った事を問われるのが、一番嫌いです。貴方はご自分の心配をしたらどうですか?」


アスは再び視線をシトへと戻せば、予想していた答えを聞いて少しだけ、笑みがこぼれた。


「僕のアレはうちの副会長がよく躾けてくれているからね。暴走する恐れはないよ。でもまぁ、幸運を祈っているよ。君が、何一つ無くさない事を」


アスはそのまま後ろを向くと手を振って部屋を出た。





――パタン。





「・・・・ふぅ。これも、きっと、前触れなんだ。」


夕立ちは空が輝きを増す、前触れ。

でも僕は思ったんだよ・・・・アリス。








人もまた、輝きを増す、前触れなんじゃないかって――――――








そう、君の様にね。

その黄金の光は七つの色が揃ったって、勝てはしない。








だからどうか、この前触れにもより一層の輝きを











「君は分かっていて引き込んだんだ。護り抜いてもらわないと、直接僕が手を下す事になる。・・・・シト」





アスは廊下の窓から空を見上げると、まっすぐ自室へと戻って行った。




この時既に、七色は消えていた。








その真意を僕は知る
(君の色が褪せぬ様、切に願うよ)
end

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あきゅろす。
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