short story
ワンダー学園*2*
あぁ、こんなにも早く、願いと言うものは叶うものなのだろうか。
「え、シトくんが、他の役員を引き入れた?」
暫くアスは驚愕の余り、声が出なかった。
Title:理由なき想いに心からの頬笑みを
それは転校生が来て、三日後の事だった。
「(やはり、体が重い・・・。少し、働き過ぎましたかね。)」
シトは一人、中等部生徒会長専用の部屋で項垂れていた。
「はぁ・・・しかし、休んでいる暇はありませんね。」
そう言うと、休んでいた手を動かし、再びパソコンの画面と睨み合う。
だが、それだけで頭に激痛が、目は開けていられないくらい光の刺激に耐えられなくなっていた。
またシトは溜め息を付く。
「(困りましたね。まだ今学期の予算を出していませんし、なにより、中等部部活動の合宿等の聞き込みもしていない。)」
夏期休暇まで、残り5日。
予算は後で出来るとして、まずは部活動の聞き込みを最優先にしましょう。
大体、これは各部活動部長が休暇までに提出しなければならないもの。
「・・・ふぅ。聞き込みと言う形で、提出を怠った部長方たちに、二度とこのような事がないよう、“注意”をして来ましょうか。」
シトはゆっくりとデスクチェア−から降りると、不適な笑顔を浮かべつつ部屋を後にした。
今の季節は何度も言わなくとも夏。
「・・・ほぅ、つまり、貴方は提出物事態の存在を忘れていたと。」
そういう事ですか?と、笑顔で聞けば、思いっきり引きつった顔をする一応部長である人間。
(うわっ!うちの部活に、何で冷血漢生徒会長様がいるんだよ!!)
(馬鹿っ、聞こえたらどうすんだ!)
あぁ、ばっちり聞こえていますよ。
何分、耳はいい方なので。
「まぁ、今回はまだ許してあげますよ。その下手な態度に免じて、です。ですが、部員の教育はしっかりとして頂かないと困りますね。」
シトは手元に用意していた提出用の紙を部長に手渡す。
「(それにしても、暑いな。)」
そう、季節は夏。
いくら金がかかった施設でも、やはり外の温度までは操作できない。
シトは一瞬、目の前がぐらついたのが分かった。
「・・・っ・・では、こちらに日程を書き入れてから、生徒会室まで、提出を・・・・っ」
(おい!いくら生徒会長様でも、その言葉は聞き捨てならないな!!)
あぁ、こんな事なら、態々聞き込みなど、しなければ良かった。
提出されていない分は、そのまま処理してしまえば良かったんだ。
何故、私がこんな事をしなければならない。
(おい!!止めとけよ!)
一人の部員が自分に近寄って来るのが分かった。
(うるせぇっ!許せるかよ。ここまで言われて!!!)
いけませんね。
そんな力任せな振りかざし方は・・・。
そんなもの、避けられて終わりですよ。
そして利き手を取られて、地に膝を付くんです。
と、シトは売られた喧嘩を買おうとしたが、全く体が動かなかった。
「(気分が・・・・悪、い)」
遠くで、部員達の言い合いが聞こえたが薄れ行く意識の中、シトは重たい瞼を閉じる。
そしてそのまま、地面へと倒れ込んだ。
「・・・ん」
目を覚ませば、ひんやりとしたものを感じた。
額に濡れタオルが置いてある。
「ここは、私の部屋・・・・?」
あぁ、因に私の部屋というのは生徒会長室のことである。
特別なこの部屋には、奥に寝室が付いている。
「・・・あ」
ふいに何処からともなく声がした。
その高い声に、思わずシトは驚きを隠せない。
「・・・何故、貴女がここに、いるんですか・・・」
そう、シトの寝室のドアから顔を出しているのは紛れもなく、転校生だった。
「あの、確か、クラス同じで、生徒会長さんって聞いて、それで、倒れてるの見たから、保健室に運ぼうとしたんだけど・・・・」
保健室・・・あの、魔の空間にか。
「でも、生徒会長さん、すごい形相で保健室は嫌だっていったから、ここに・・・」
え、全く記憶にない。
というか、ここまで一人で運んだのだろうか。
因にここは4階である。
「えと、大丈夫ですか?」
今まで黙っていたシトは、その声に我にかえる。
「あ、えぇ。大分、楽になりました。有難うございます。」
シトは額からタオルを取ると、そのまま布団から出た。
ゆっくり立ち上がったつもりだったが、少し立ち眩みを感じた。
それに慌てて彼女が支えようとする。
「あぁ、平気ですから。それに、やらなければならない事がありますし、貴女ももう、戻って下さい。」
出来る限り優しく言った。
そのままシトは寝室を出てデスクに向かった。
椅子を引いて座る。
途端、ある事に気付いた。
「な、未処理の書類が、ない」
シトは綺麗に片付いた机を凝視した。
そこへ後から寝室を出た転校生が一言。
「そちらにあった書類は、片付けておきました。」
シトは転校生に目をやる。
片付けたと言う事は、掃除をしてくれたと言う事だろうか。
「そうでしたか。では、その書類はどちらに?」
「書類にあった提出先に、提出しておきました。」
シトはその言葉に耳を疑う。
まさか、未処理のまま提出したのだろうか。
だとしたら、また無駄に動かなければならない。
大体、あの量の書類を処理出来るわけもないだろう。
「あの」
また彼女は口を開く。
普通なら軽くあしらうシトだが、何故か、出来なかった。
「私、生徒会長さんはいつも一人でお仕事してるって聞いて、その、勝手に処理してしまったんです。」
その処理というのは、まさか“捨てた”という意味ではありませんよね?
「ちゃんと、提出した際に、確認もしてもらいましたから・・・」
その言い様・・・・・まさか。
「まさか・・・・あの量の書類を、貴女一人で片付けたんですか」
そう問えば、きょとんとした顔で「はい」と言う転校生。
そして笑顔で言う。
「私でよかったら、これからもお手伝いさせて下さい。」
思わず、目を見開いてしまう。
それに、仕事はまだまだあるんですよ。
暑い中、聞き込みだってしなければならないんですよ。
これからある夏期休暇だって、無いに等しいんですよ。
シトは念を押す様に言った。
でも彼女はそれでも構わないと言った。
「だから、私の事は、アリスと呼んで。生徒会長さん」
そんな、笑顔で言わないで下さい。
「・・・・シト、です。」
私がそう言えば、やはり貴女は笑顔のまま「よろしく」と言う。
転校して来た時見た笑顔とはまた違う、嬉々とした、輝かしい笑顔。
知っていますか?
私は意外に独占欲強いんです。
でも今は、今だけは
「よろしく、お願いします。・・・アリス」
その笑顔は、私だけのもの―――――――――
理由なき想いに心からの頬笑みを
(というわけで、その日からアリスは副会長です)
(ながっっ!!)←中等部生徒会室に遊びに来たアス
end
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