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short story
Un baiser et un vampire
長い長い夢を見ている気分だ。
いつしか誰かが呟いて、そっと囁いてくるかのように。
けれど言葉の先はいつも途切れてばかりで。

言葉ばかりが完結している世界に、私はいる。




Un baiser et un vampire




“目を覚まして、起きたらぎゅっと抱きしめて。”

「あぁ、お願い、甘い口付けを・・・キスして、レオン」

「・・・何をしているのですか。」

夜の朝食を真っ白なテーブルクロスに飾り付つける。
そして最後に、真っ赤な紅茶を用意している時だった。
一人掛けのソファーにだるそうに腰掛けている我が主は、どこぞのラブロマンス映画のような台詞を口にした。

「何って、一人芝居?」

言いながらその視線はずっとこちらを見ているのだ。

「悪ふざけはおやめください。お食事の時間です。―――ツェル様」

「はぁ、つまらん。ちゃんとベジタブルにしただろうな?」

「勿論です。野菜を基調に作ってあります。じゃないと、後がうるさいですから」

隠すことなく悪態口をついたが、今更気にされることでもない。
悪態口は自分の悪癖だと、とうに知っている。
それでもついて出るのだから、やはり悪癖なのだろうが、この人には一度も気にされたことはない。
むしろ初対面で笑い飛ばされた記憶がある。

「きちょう〜?何を甘甘しい言葉を・・・いや、堅苦しいか。せめてメインと言え。そもそもこれはテーゼのようなものであってだな、」

「戯言は聞き飽きました。早くこちらへいらしてください。」

「ふん。それよりも、甘い言葉というのはこういうタイミングで使うものではない。」

「・・・ツェル様。私は先ほどから椅子を引いてお待ちしているのですよ。料理も冷めてしまいます。」

「よくわかった。」

何が、と問いかける暇もなく、両の腕を気だるげに持ち上げて、

「お前には、洒落た戯けた言の葉なんぞ、その小奇麗な形貌とは相反しているが、実に好一対。」

それはこちらも言えることなのだが。
まぁいい。この人に、求められるのなら。

椅子から手を離して主の下へと、優雅を意識しながら足早に。

「言葉はいらん。行動で示せ。レオン」

黒い袖から伸びた雪色の肌を、誘われるままに触れる。
上げられていた両の手を取り、片方の甲に敬愛を。

「くく、頭が高いぞ?レオン」

言われて跪き、間を空けることなく、主の靴を脱がす。
そのまま爪先に崇拝を。

「ほぅ。敬愛に崇拝。いいベーゼだな。」

まるで物足りないかのように、投げやりに言う言葉。
この人は、本当に欲が深い。
それは自分も同じことだが。

―――まどろっこしくて、口で右手の手袋を剥ぐ。

待ち上げたままの足に、剥き出しになった手を這わせる。
少しずつ、奥へ奥へ。
捲くり上がってくるドレスの中から見えた白く柔らかな腿に、かぶりつく。

「・・・っくく、く・・・っ」

一瞬詰まった声と笑い声を聞きながら、しばらくそこを堪能して、舌で舐め上げ、次に大きく開いている襟元を更に広げて胸元にかぶりつく。
首筋、喉、手首、耳。

「・・っはぁっ、おかしい。私は吸われるばかりで得るものはないはずなのに、っ・・・邪オーラが流れてくるぞ。」

意味を、わかっているくせに心底楽しそうに見下ろしてくる主人を、目の端で見ていたが、生憎とこちらは余裕がない。
理性が持っていかれる。

「私よりも早い食事とは・・・・このキス魔め。」

本能が引き出される。
強引に、荒々しく。

「本能のままに求めるその様は、ヴァンパイアよりも“らしい”。」

白い腕が伸びてきて、顎を掬い上げられる。
合わさった眼は、今は常闇のように感情など読めはしないが、今はそれだけでひどく煽られる。

「・・・言葉ばかりが完結している世界に、私はいる。天長地久、物事が変わらない世界、時間。ただ一つ、命を救ったからと、こうも捻くれるものなのか。」

「マスター・・・」

「あぁ、餌の時間だったな。存分に味わえよ。肉食め。」

まさに“待て”が解かれたかのように、あとは貪るだけ。
どんどん露になる白い肌に、抗うすべなどとうにない。
満たすために、満たされるために。

そっと、黒い艶やかな長い髪に、口付ける。
それは、何の意味だったか。












一つだけ、訂正をしておきたい。
私は肉食ではなく、ベジタリアンだ。
肉などほとんど口にすることはないし、実際これが3ヶ月ぶりの食事。
それもそのはず。現在進行形で聖職者なのだから。

さぁ、夜の朝食を温め直すついでに、貧血で寝込んでいるマスターのために、肉料理を追加しておくとしよう。

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あきゅろす。
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