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short story
ワンダー学園*1*
 





「・・・・っ、好きです!」




またですか。




「・・・はぁ」


おっと、つい溜め息が出てしまいましたね。

それにしても、なんて、つまらない世界なのだろう。

いっその事、壊してしまいたい。




「あぁ、それで、用件は何ですか?」






あぁ、壊れてしまえ―――――――――






Title:好きと言う言葉がればこそ






――コンコン




「はい。」


「やぁ、シトくん。調子はどう?」


そういって、訪問者は何の遠慮もなく部屋の中央にある真っ白なソファに座った。


「・・・何の用ですか。お暇な高等部生徒会長」


シトは言いながら手元の書類へと目を移した。

お暇な高等部生徒会長の相手など、してはいられない。


「何か、疎外感感じるから、いつも通りアスって呼んでくれない?」


「貴方がこの間、“年上は敬え”と言ったんですよ。それよりも、さっさと用件を言って下さい。私は貴方と違って、やる事が多いんですから。」


やはりシトは手元の書類ばかりを見ている。

ついにはノートパソコンを開いて、カタカタと目の前の事に集中していた。


「・・・相変わらず、忙しそうで何よりだよ。だから僕は、他の役員も入れればいいと言ったのに・・・」


そこでシトは手を止めてアスのいるソファの向い側に座った。

足を組み、手で顔を覆うと、一息付く。


「・・・ですから、私は優秀な人材がいればそうします、と言ったでしょう。」


「たくさんの立候補者がいたと聞いたけど?」


シトは顔を覆っていた手を離すと、いつの間にか用意されていた紅茶を飲んだ。


「どれも、駄目でしたよ。それどころか、貴重な時間を潰してしまった。」


シトは口からカップを離すと、手に持ったまま揺れる茶の水面を見ていた。


「だけど、いくら君でもこのままでは過労死してしまうよ。それに、君はまさか、一人で何でも出来るなんて思ってはいないよね?シトくん、いや、中等部生徒会長」


かちゃ、とシトはカップを置いた。


「何も、そこまで思ってはいませんよ。ただ、今は逸材がいないだけです。そんな事よりも、早く用件を言って下さい。」


本当に、貴方と話すのは疲れる。

シトは本人の目の前で盛大な溜め息をした。

勿論、そんな事を気にするアスではない。


「おっと、忘れる所だったよ。明日、君のクラスに転校生が来るよ。」


「・・・・はい?」


「いや、だから、君のクラスに転校生が」


「何度も言わなくとも聞こえていますよ。私が驚いているのは、今まで私に報告がなかった事です。どう言う事です?」


シトは立ち上がると再びデスクへと戻った。

何やら書類を漁っている。


「いやいや、君の書類処理ミスじゃないから。正直僕も驚いてるんだよ。何せ、さっき僕の所に連絡が来たんだからね。」


それを聞くと、シトは手を止めて、デスクチェア−に座り込む。

黒光りするそれは、深く腰掛けても軋む事はない。


「また、気紛れな理事長ですか。いい加減、辞任してくれませんかね。」


「ははは・・・。まぁ、そういう事だから、その子の面倒宜しくね。」


アスは言い終わると、ソファから立ち上がってドアの方へ向かう。


「えぇ、わかっていますよ。」


その声にアスが後ろを向けば、すでにシトは執務に取りかかっていた。

そんな姿を見ながら、アスはゆっくりとドアを開けた。


「・・・そう、僕は暇なんだから、頼ってもいいんだよ・・・」


近くにいても聞き取れはしない声で呟くと、アスは部屋を後にした。














「では、朝のホームルームを始めますね。最初に、転校生の紹介をしたいと思います。」


「リーゼ先生、転校生は女の子ですか?男の子ですか?」


一人の生徒が担任である女教師のリ−ゼに質問する。

リ−ゼはふふ、と微笑んだ。


「女の子ですよ。では教室に入ってきてもらうので、皆さんお静かに。」


教室が静まり返る。

クラス中の視線が転校生が入ってくるであろうドアに釘付けになる。

ただ一つの視線を除いて。


「はい。入って来て下さい。」


あぁ、体が重い。

シトは一人、窓の外を見ていた。

外は夏を思わすような、綺麗な緑でいっぱいだった。

そして青い空も。


がらり、と静かに戸が開く音がした。


静にしろと言われたのにも関わらず、一気に教室は沸き上がる。

その雑音の間に、規則正しい足音がした。




「・・・・・・はじめまして」



それはあまりに儚く、凛とした声だった。

その声に釣られて、シトはゆっくりと顔を前に向ける。


「今日からこのワンダー学園に通う事になりました。」


シトは思わず喉を鳴らした。

自分でも分からない、何かが反応している様に感じた。




「アリス・ミラージュといいます。よろしく」




そう言って、彼女はその輝かしい程の金色を揺らしながら、照れた様に笑った。

あぁ、なんと言う事だ。

自分はこんなにも独占欲が強いなんて。

見るな、見るなと、思わずクラス中のやつらの目を潰してしまいそうなくらい、どうしようもない感情が駆ける。



その笑顔を









自分のものだけにしたい









あぁ、知るはずもないと思っていたこの感情は、きっと















好きと言う言葉があればこそ
(それはきっと、世界をも変える)
end

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あきゅろす。
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