Alice's Watch
2
「では聞きますが、アリス様がその血を纏った時、傍に誰かいませんでしたか?」
思いもしない質問にアリスは目を開く。
あの時誰かがいたか?
分かるはずもない。
一瞬だった。
屋敷も、人々も、そして自分も、赤く染まったのは・・・。
「・・・分からない。ただ、気づいたらあの屋敷にいて、気づいたらあの部屋にいた。」
あの部屋とは、さっきまでいた縫いぐるみだらけの部屋。
そうだ。
気づいたら“ドール”と呼ばれてた。
「だとしたら、アリス様は嵌められたようですね。」
・・・嵌められた?
アリスは俯いた。
私が嵌められる?
誰に、一体何のために・・・・。
「もう一度聞きますが、周りには誰もいませんでしたか?」
二回目の問いに、はっとする。
いた。
それはそれは天使のように笑う女の子が。
ぞっとするほど、血を愛しそうに眺める天使が。
「・・・・・・ふむ。なるほど。その少女が、おそらく猫。」
アリスの話を聞くと、何やら納得したように呟いた。
だから最後の方はアリスに聞こえなかった。
アリスもアリスで、うとうとしていて、とても眠そうである。
そんな中、シトはアリスを見ると、今までとは考えられないほどの低い声で呟いた。
「ただでさえ、汚らわしいものをアリスに付けたんだ。その上記憶まで奪って、これ以上何をしようとしてる。」
分かっていた。
あの部屋で、あのタイミングでアリスに逢えたのは、あいつの計算の内であることくらい。
本当なら、有り得ない話ですからね。
今、私の目の前に、彼女がいるなんて・・・。
まぁ、何も覚えてはいないみたいですけどね。
「アリス様。お疲れですか?でしたら、お眠り下さい。私がお傍におりますから。」
さらさらの金色の髪を撫でれば、アリスは深い眠りに目を閉じる。
本当は、もっと説明するつもりだったのだが、それはまた次でいい。
アリスは今、私の腕の中にいる。
やっと逢えたんだ。
もう、離さない。
「次、アリスに手を出せば、殺す。―――――――チェシャ猫」
シトは再びアリスを抱え、教会を後にした。
end
第2話 〜誓いは神の名の下に〜
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