Alice's Watch
8ただ、祝おう
「おかえりおかえりおかえりおかえりぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「騒々しいですよ、アス」
「つか元気だよな。今帰ってきたばっかだろうに」
あぁ、さすが反応が冷めてる!さすが師弟だよね!!と、口にはせずに心の中で呟いたアスは、そんな二人に挟まれる形で佇んでいる少女へと視線を向ける。
「おかえり、アリス」
「・・・・・」
アスが微笑みながら発せられた言葉に、アリスはただ俯き、肩を少し跳ねさせるだけで、黙っていた。
「アーリス、どうしたのかな〜?」
そんな様子を未だに微笑みながら見ていたアスは、一歩、少女に近づく。
また少女は肩を跳ねさせながら、アスとは対照的に一歩、下がった。
「・・・・何で逃げるのかな?アリス?」
「・・・・・」
またしても何も応えないアリスに、アスはまた近づく。
そしてアリスはまた下がる。
その繰り返しが続いたが、それがいつまでも続くわけもなく・・・
「はい。行き止まり、だよ。アリス」
アリスの背には壁がぴったりとくっついていて、それ以上下がる事が出来ない。
そんな状態でも、アリスは黙ったまま俯いているだけ。
「・・・・・アリス」
その様子を上から見下ろしていたアスは、少し、困ったように笑って、そっと言葉を口にした。
「ねぇ、アリス。僕を・・・ハーディと見間違えたんだね?」
「っ・・・・・ハー、ディ?」
アリスはアスの言葉に一瞬息を詰まらせる。
質問した声が、少し震えてしまっているのが分かる。
「そう。僕の姿で君に近づいた男は、ハーディといって・・・・・僕の、弟、なんだ。」
「きょう、だい、なの・・・?」
「うん。だから、アリスが気に病むことじゃないよ。子供の頃から、よく見間違えられる事は少なくなかったからね。」
アリスの耳に、普段どおりのアスの笑い声が聞こえる。
アスは、見間違えられた事に、怒っていないし、そんなことで怒る人でもない――――そんなこと、アリスはよく知っていた。
けれど、だからこそ、
「・・・・・っ・・・」
アリスは首を横に振る。
「アリス?」
「見間違えるほど、似ているのは、仕方ないけど、けど っ!」
「・・・・・」
アリスは声を荒げながら、勢い良く顔を上げ、アスを見上げる。
「傷つけてしまった事に対しては、仕方なかったんだなんて、思えない・・・・っ!!!」
泣きそうで、でもそれを必死で抑えようとしている、そんな顔をして、アリスはアスを見上げる。
(あぁ、ハーディが、何か言ったのか)
「わ、私、今度は絶対間違えない、よ。」
泣きそうだった顔が、何かを決心した時の様に真剣な表情へと変わる。
そんなアリスを、アスは少し驚きながら見下ろして、そして、
「・・・・・・・っ・・ぷっ、くく」
「え、アス?」
「あっははははははははははははは・・・・っ!!!」
「ア、アス?!」
何がそんなにおかしいのか、顔を手で覆いながら、大声を上げて笑う、アスがいた。
アリスは当然困惑したが、暫く続くその笑い声に、ふと思う。
彼がこんなに笑ったところを、見たことがあっただろうか―――――?
アスの笑い声が段々と収まっていくと、二人は再び視線を合わす。
笑いすぎた所為か、少しだけアスの瞳が潤っているように見えた。
「はは、笑いすぎた。今の君は、少しずつ“昔”を取り戻しつつあるようだね。そしてそれを、どうやら君は受け止められたらしい。」
アリスは小さく頷く。
その様子を見て、アスは今まで以上に微笑んだ。
「―――おかえり。アリス」
「ただいま。アス!」
言い終わるより早く、アリスはアスに抱きついた。
自分の中に飛び込んできたアリスを、よろける事無くアスは抱きとめる。
が、それも長く続くわけもなく。
「離れてください」
ストレートな言葉と感情が、それを阻止する。
「・・・予想通りのお邪魔虫が・・・」
アスは小さく毒付きながら、シトも何処か変わってきていることを鋭く感じ取っていた。
自然と、また笑みが深くなって、嬉しさのあまり腕に力を入れると、自然とシトの目つきが鋭くなった。
そこへ、今まで食べることに集中していた博士が口をさす。
「そのままいくと、予想通りの死が待ってるぞ。ここは大人しく放しとけ。」
「博士はシトくん側か・・・敵は多いな。」
言いながらしぶしぶとアリスを解放する。
「そんじゃ、再会を祝して。飯だ飯ぃ〜!酒持って来い、シト!!」
「・・・・・ほどほどにして下さいよ。お酒弱いんですから」
「馬鹿か!酒なくして人間真の休息はありえない!今日はお前も飲め!!」
そんな師弟の様子にアスはどこか懐かしそうな眼を向ける。
そんなアスの腕を、アリスは引っ張った。
「アス、行こうよ。お料理、いっぱいあるんだよ。」
「そういえば、あの料理、誰が?」
いつも料理担当の自分は今さっき帰ってきたばかりである。
アスは、教会のものよりも狭いだろうそのテーブルに目いっぱい置かれている料理を見て、呆然としていた。
そんなアスに、既にアリスが座るであろう椅子を引きながら待機しているシトが振り返る。
「貴方の作るものとは比べ物にはならないでしょうが、食べる事は可能ですよ。」
「シトくん、料理出来たの・・・?」
「失礼にもほどがあるとは思いませんか」
シトはアスに微笑みかけた。
アスは寒気を感じる。
そんな無言の攻防を知ってかしらずか、また博士は口をさした。
「ここでの食事は昔、シトが作ってたからなぁ。あれが今でも身に付いてるんじゃねぇのかぁ。」
博士がぼそりと説明を付け加えると、アスは妙に納得した表情になり、ぼそりと呟く。
「あぁ、ここは驚くところじゃなくて、同情するところだったんだね。」
「おやおや、ここは黙っているところではなく、攻撃するところだったんですね。」
瞬時にグリフを構え、シトは獲物を狙う。
アスの生命の危機が迫っていく中、またしても博士が口を挟む。
「シト!あんまり力を使うなってさっきいったばっかだろーが!気持ちは分かるが、控えろ。」
「・・・・助かった〜と素直に喜べないのはなんでだろうか」
「真の元凶に何を言っても無駄ですよ。ここは大人しく食事をしましょう。」
「さんせい〜」
そうして四人は、テーブルいっぱいに並べられた料理を食べる事にした。
食事の後は、話し合いというお茶会が開かれる。
でも、今は―――――。
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