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Alice's Watch
5約束 side:A


「はぁっはぁ・・・はぁっ」

光の道を走って君を探す。
不思議だ、息が上がってるのに、そんなの少しも苦しくない。


――ス様、アリス様!!


聞こえる、呼んでる。
少し前までの私なら、この状態でも冷静だったかもしれない。
君が、私を護るって言った時は、本当にそんなのいらないのに、って思った。
必要ないって、それ以外何も思わなかった。

だけど

今君が、必死に私を探して、普段、声を荒げる事の無い君が、大きな声で私を呼ぶから、
きっと、今の私の顔は緩んでる。
自分でもコントロール出来ないくらいに。
それくらい

「ねぇっ 私は、ここ・・・っ・・・ここにいるよ、シトォー!!」

気づいたら私は走る事を止めていた。
はっはっ、乱れる息を、高まる心臓の音を、抑えるかのようにその胸に手を当てて、俯いてた顔から、雫がぽたりと落ちた。
実感した。

―コツ、コツ

「・・・・・ねぇ、本当は、こうしたかった」

―コツ、コツ

「本当は、叫びたくて・・・どうしようもなくて」

近づく足音に、俯いていた頭を上げる。

―コツ。

「不安だったの。記憶が無くて、何も思い出せなくて。それでも貴方が、護るって言ってくれた・・・・・混乱した。」

あぁ、ここはなんて暗いんだろう。
貴方が霞んで見えない。

「記憶が無い私は、偽者で、だから、記憶を取り戻してしまったら、消えてしまうと、思ったから・・・怖かったの、すごく」

胸に当てた手が震えて、同時に顔を冷たいものが伝った。
溢れるものが止まらない。

「でも、きっと貴方は私を護ってくれる。今の私じゃなくなっても、私のカタチをしていたら、きっと護ってくれるって・・・だから、あの時、無意識に拒絶してしまったんだよ」

声が震えてる、相手にちゃんと伝えられているだろうか、そう思ったが、伸ばされた手に、頬を伝う冷たいものを優しく拭われたらそんな心配はすぐに何処かに行ってしまったし、声の震えは収まっていた。
その心地よさに自然と目を伏せながら、アリスは続ける。

「苦しいの・・・・・・ねぇ、もう一度、私を抱きしめてくれますか」

瞬間に力強く抱きしめられた。
背中に回るその大きな手に、ひどく安心すると、自分よりも広いその胸に顔をすり寄せた。

頬を伝う冷たいものが、ぴたりと止む。

「・・・けどね、本当はもう苦しくないんだよ?」

アリスは微笑みながらそう言った。
その言葉に、シトはやっと口を開く。

「・・・本当ですか?」

その問いがおかしくて、アリスは小さく笑う。

「本当の本当に」

アリスはテンポ良くそう言うと、おもむろにシトから離れようとした。
しかし、シトは力を抜こうとはしない。

「ね、少しだけ離れて」

「何故ですか」

その声が何処か不貞腐れていて、アリスは少し驚いたが、ん〜と考えるように唸ったかと思うと、じゃあ言葉を代えるね、と言い、シトに自分の方を向くように言うと、


「私も、シトを抱きしめたいの」


微笑んだ。

本当はすぐにそうしたかったけど、自分の手はシトと自分の間にあってそれが出来なかったから、と説明も付けていたが、恐らくシトには聞こえていないだろう。
その呆けている様子に気づきもしないアリスは、シトの腕の力が抜けたと思うと、自由になった自分の腕をゆっくりと、未だに呆けているその背に回した。
そのままシトの胸に顔を埋める。

「・・・・・・・ずっと、一緒にいて」

顔を埋めているせいで、くぐもっているその声は、どこか切なげだった。
アリスの背に、再び腕が回される。

「はい」

上から響く、優しい声。
アリスはシトの胸に顔を埋めたまま、口を開く。

「・・・本当に?」

不貞腐れたようにそう言うと、くすりと笑う声が聞こえた。
笑われた事にう〜と唸れば、背に回る腕の片方が腰を強く掴んできて軽く抱き寄せられ、もう片方は頭に添えられた。
それからシトが少し屈んだのがわかる。

「・・・っ・・・・・!!!」

そのまま耳に小さく囁かれた声は、言葉は、なんて甘いんだろう。
シトが屈んだ事で自然とシトの肩口に顔を出している私は、きっと真っ赤だ。

「・・・・約束、だからね」

あったかいな、この気持ちは何だろうね。
貴方の腕の中で安心して、光を感じる。

二人の足元から光が広がる。
繋がりが、強くなる。


あぁ、ここから開放される。
この暗闇の空間が光で満たされていく中、私達は離れはしなかった。


ただ、もっと、




隙間なんて無いこの距離を、もっと感じていたかった。






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