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Alice's Watch
4飲まれるな
 
4飲まれるな






ここは、似ている

暗い、暗い、まるで海の底のように

心を追い詰められる

信じる事を、責められているような



絶望の檻の中―――――――――――










「・・・・・・そろそろ、5時間位経つか。」

普通じゃもう闇に飲み込まれてるところだが、テメーはそんなタマじゃねぇだろうよ。
博士は一人、まだ手の付けられていない料理を見ながら、アスからの説明を思い出していた。

「8年間、ねぇ。よくもまぁ、生きてたもんだ。」

真っ暗闇の中じゃ、時間の感覚すらない。
最初はさまよって、現実逃避し始める。
それを幽閉っていったら、まだ聞こえがいい方だ。
そんなわけがない、明らかに“消す”ことが目的のそれを、本人が解からないわけがねぇんだ。
仕舞いには自分が見えなくなってくる。
何もかもが無くなって行く感覚、存在すらも消えていくその感覚は、一番あってはならない“殺し方”だ。

「それを、テメーはどこで光を見つけたんだか・・・」

そんな状態じゃ、誰だって死にたくなるのは目に見えてる。
なのに、

「そういや、言ってたよな、昔・・・」

《師匠、僕は、誰かを護るために、誰かに必要とされるように、存在していたいです――――》

ちょうど8年前だ。
思えば、あれがお前からの、お別れのメッセージってやつだったに違いない。
わかっていたさ、その“誰か”ってのが、特定の特別な誰かってことは。


だからこそ、お前は強くなることを臨んだ。


「ま、報復は受けるだろうよ。なんせ俺様のお弟子さんよ?」

“嬉しいなら嬉しいで、せめて感情を表情に出してよ”

「・・・あぁ、嬉しいねぇ。嬉しすぎて、信じられねぇほど、」

博士はいつの間にか手にしていたワインボトルを強く握り締めていた。
もう片方の手にはワイングラスを持っている。
そこにはすでに、なみなみにつがれていた。
博士はそれを、愁いの帯びた瞳で見つめると、そっと持ち上げ、そのまま口に、



グワァシャアァァァン



するかと思いきや、そのままグラスを握りつぶしてしまった。
その手には赤い液体が只管流れている。

「・・・意欲が、創作意欲が沸いてくるぜぇ!!ついでに破壊欲もだぁ!!!!わははははははっ!」

その顔は実に愉快そうに歪んでいる。

「おっと、俺のこの手が真っ赤に燃え( ピー )ってかぁ!わっはははははははは!最高ー!俺様、最高ー!!」

すっかりぶち壊されたその雰囲気は、普段感情を表情に出さない男の、愉快なだらしない笑みと笑い声で風変わりしていた。
この男がこれからラボへ行き、また新たな“何か”を作ってしまうまでに、苦労の耐えないお弟子さんは、無事生還したその身体で、難を逃れる事が出来るだろうか。


ドゥリー・ドンキリー博士、彼は歳こそ三十路近いが、世界を振るわせられるほどの頭脳と才を持つ、天才カリスマ科学者である。

が、


酒に弱い。




・・・・何度も言うが、腕は確かである。
酒は飲んでも飲まれるな、この言葉はこの男のためにあるようなものである。



 

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あきゅろす。
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