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Alice's Watch
3繋がる心
 
・・・・・あれから、どれくらいたっただろうか

こんな暗闇じゃ、時間の感覚なんて無いに等しい

(・・・・誰もいない)

発する声さえも、今では闇に溶け込んでいくかのようだ

(・・・だいじょうぶ、私には、元々、何もない)

何もないから、消えていったって平気、大丈夫

(だいじょうぶ、だいじょうぶ、だい・・じょうぶ・・・)

平気だもん、大丈夫

そう思っているのに、感じる心はいつも冷たい

何も、怖くないと思っていたのに

(・・・・・っ)

君を忘れられない

(・・・・シ、ト・・っシト)

あんな別れ方をしてしまった

きっとシトは呆れているに違いない

・・・探してもいないかもしれない

せめてサヨナラって、言っていれば

(後悔、しなかったかも、しれない・・・・・)

あぁ、あぁ・・・

真っ暗闇

自分の存在もわからない

こんなに

こんなに、痛いのに

どうして君を忘れられないの

何も言わないまま、「サヨナラ」も言わないまま



ひとりきりにしないで



「闇に心を許してはいけませんよ」



(・・・・え?)

優しい声が、闇から浮き出ているかのように囁いた。

「知っているかな。闇は光から生まれるんですよ」

すごく柔らかい男の人の声。
どこか、すごく懐かしい。

「だから闇は光を愛し、同時に憎んでしまう」

(・・・どうして、)

アリスにはわからない。

「羨ましいのではないかな。光は、美しいから」

(どうして、好きなんでしょう?なら、何故、憎んでしまうの・・・・・解からない)

ただ純粋に好き、だけではいけないの。
何故そうなってしまうのか、わからなかった。

「ただ、純粋に、愛する方の傍にいられたら・・・・・そうしたら、こんな形で、苦しまずには済んだかもしれませんね」

(苦しいの?)

「・・・いいえ、貴女のことを言っているんですよ、アリスさん」

どうして、また聞きそうになったのに、それを身体が拒んだ。
ううん、心が、拒んだんだ。

わかった、私は今、苦しいの。

「貴女は何者にも負けを許さない。心の強い方でした」

(・・っ・・ちがう、それは、私じゃ、ない・・っ!)

アリスはぎゅっと、細かく震える手に力を入れた。

「貴女は今、とても恐れています。心から、その事態を避けたいと願っている。」

(う、ん・・・怖い・・怖いよ、すごく)

きっと今、自分の震える手の上に、誰かが触れてる。
真っ暗闇の中、自分の姿も見えない状態では確認も出来ないが、
すごく、暖かい。

「えぇ、貴女の心が、囁いているんですよ。その声を、貴女も聞いたのではありませんか?」

アリスは何も言わないが、頭では解かっていた。

「その声は、何と言っていましたか?誰を想って囁いていましたか?」

“早く、足跡を。私の記憶を。時計を回して、じゃないと――――”

「・・・それは、誰の声でしたか?」

そうだ、あの声も、紛れも無く私の声。
そっか、そうだよね。


《・・・私は、記憶なんて、関係ないと思ったんですよ。だって貴女は、そんなもの無くとも変わらない。変わらずにこうして私の前に、存在している。ならば、今の貴女を、護ろう、と》


今なら、あの言葉が、素直に嬉しく思える。

「これが、また一つの記憶となります。貴女は今、過去の自分と、今の自分を結び付けられました。その心は、自然とこの先を導くでしょう」

(記憶を、一つ取り戻したという事?)

「はい。否定する事は苦しくて辛い事です。ですが、もう、苦しくはないでしょう?」

うん、苦しくない。
アリスは返事の変わりに首を上下したが、相手に見えていないのだと思い出すと慌てて言葉に返そうとした。

「大丈夫ですよ。私には見えています。アリスさん、貴女にも、見えるはずです」

そう言われたが、ここは目が慣れるということも無く、暗闇のまま。
でも、未だに誰かが手に触れていてくれている。

「貴女の手に、今触れているのは私です。目を閉じて、感じてください。私と同じように、貴女の心にも温もりを感じるはずです。それはとても頑丈な糸のように、決して契れる様なこの無い・・・」

言われてアリスは目を閉じた。

(・・・・感じる。すごく、あたたかい、なんだか、)

「それが、繋がりです。さぁ、目を開けて」

閉じた瞼をゆっくりと開ける。
最初に見えたのは手に手を重ねる優しい手。
そしてその先には、

「・・・そう、貴方が手をずっと握って下さっていたの。お名前を、お聞きしてもいいですか?」

「その様子だと、思い出すのも時間の問題みたいですね。それもまた必然だとすると、私はまだ名乗るわけにはいかないみたいです。」

「何故?」

「きっと、あの方の計画に、差し支えてしまうから、でしょうか。私もよくわからないのですよ。でも、」

「貴方の心がそう言っている?」

首を傾げてアリスは聞いた。
相手はそれに釣られたかのように小さく、微笑んだ。
それを見て、この人も、笑う事に慣れていないのだなと、アリスは思った。

「ですが、私にはもう一つ、噂から出来たような名があります。そちらでしたら、」

表情には出てはいないが、恐らく気に入ってはいないのだろう。
その声音からアリスは察した。

「“blast”、そう、呼ばれていました」

「・・・私、貴方との繋がりを感じたとき、思ったことがあるんです。あの時のあの温もりが、なんだか」

なんだか、月の光の線を再現するような、すごく、心地よい風のように

「だから、その名はすごく似合うと、私は思います。」

片目が前髪で隠れてしまっているが、それでも笑みがさらに増した事がわかる。

「・・・驚いたな、それを言われたのは二度目、なんですよ。あの方も、私にそう言って、だから、私はこの名を心から嫌いにはなれなかった」

「“あの方”って、誰のことですか?」

きっと大切な人。

「私の主です。これも、いずれわかることなので、詳しくは言えませんが、月が良く似合う人。」

月が・・・
聞いた瞬間に頭に過ぎる人物いた。
思わず声に出そうとしたアリスだが、それは口元に指を添えられた形で止められる。

「そろそろ、時間ですね。お別れの前にもう少し。私と出会う事で、一つ記憶を戻されたアリスさんのその記憶とは、人と人との繋がりにあります。」

ゆっくりと唇から指が離される。

「繋がりが光になるんです。強い繋がりは、どんな闇にも、負けることはしません。それが貴女の強さです」

あぁ、だからこの人はこの暗闇でもたっていられたんだ。

「で、先程から貴女を呼んでいる人物がいるのですが、わかりますか?」

アリスは言われて目を閉じた。
暗闇では見るのではなく感じるという事を、この人に教えてもらった。
感じて初めて光を見つける。



―――ス様!!アリス様、何処ですか!!!



「あ・・・シ、ト?」

「初めて見つけた記憶は、彼との繋がりだったんだよ。強く、本当に強く、結びついているよ。真っ直ぐ迷うことなく此方に近づいている。」

もう少しでまた、逢える。

「最後に・・・我が“灰色の君”は、元気でいるかな?」

灰色の君、誰なのかは聞かない。

「うん、とっても。会われないのですか?」

聞くと、どこか悲しそうに笑う。

「まだ、ね。きっと、あの方は怒っているよ。約束を破ってしまったから」

きっと、誓いにも似た約束。

「アリスさん、あの方は、けして一人でいることが好きではありません。しかし、そうなる選択肢しかなかった。」

一人にならざるをえなかった。
それはどのくらい辛いのだろうか。
今、繋がりを感じる事が出来るアリスには、考えられない。

「あの方は、忘れかけています。繋がりの強さを。光の形を」

「大丈夫。月は夜を照らす光だもの。・・・それに、私達がいる」

ふいに、頭の上に手を置かれた。
そのまま優しく撫でられる。
すごく、気持ちいい。
この感覚、覚えてる。

「よかった。なら、あの方は大丈夫ですね。・・・では、もう、さよならです」

「また、会えますか」

「えぇ、もちろんです。今は早く彼に貴女を返してあげなければ。アリスさん、行ってあげて下さい」

「・・・はい」

アリスは自身のクリスタルに触れると、足元から光の線を描いた。
これが繋がり。

「アリスさん、もう一つ。・・・その、申し上げにくいのですが、彼に、差し上げた眼鏡、のことで。」

「はい?」

「あれを、主へ、我が主へ渡してもらえ無いでしょうか。」

何故、そんなことを知っているのか、まるでアリスには解からなかったが、黙って小さく頷いた。

「彼には、本当に申し訳ないのですが、あれは、主への、一種のお守りなので、ある方に、渡してくださるようお願いしたのですが・・・」

思わぬ手違いでした、そう言いながら笑った。
それも一瞬で元に戻る。

「引き止めましたね。さぁ、行って下さい。転ばぬよう」

肩をゆるりと押されてアリスは一歩前に出た。
踏み出した次の瞬間には、走り出していた。

暗闇の中で消える事の無い一筋の線。

わかる、感じる。

走れ、待ってる。

キミがいる。




キミに会いたい―――――――――――


 

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あきゅろす。
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