Alice's Watch
第6話 異変【みみ】
「・・・・・アリス様、眠れませんか?」
あれから、お茶会と言う名の情報収集を一端閉幕して、それぞれの部屋で休息を取ることにした。
アスが言うに、「この中では誰かが言わないと“休息の夜”が来ないからね。」なのだそうだ。
つまり、今がその“夜”ということだ。
因みにアスは自分の部屋に行ったのだが、シトはアリスの部屋にいる。
窓の前に立って、月明かりで読書をしているのだ。
ページを捲る音が何とも心地よく響いていた。
「・・・ここ、いつも夜なの?」
気付かないはずがなかった。
アリスたちが来てからも、窓から見える景色はずっと同じだったから。
それにアリスは本当に眠れないのである。
いくらベッドに入っていても、何時まで経っても眠気が来ないのだから。
「アリス様は相変わらず、好奇心が旺盛のようですね。」
それだけ言うと、シトは本を閉じ、外に目をやった。
「そう、ここは何もかもが闇に染まった場所。故に誰かが寝ようと言わなければ、“夜”が来ない。まぁ、起きても夜は夜ですが・・・。」
アリスはシトの横に来て、一緒に窓の外を見た。
ここから見える景色は辺り一面の森と、この黒の世界には明るすぎる月だけだった。
「・・・・覚めても、覚めなくても夜・・・・」
ぽつりとアリスは言っていた。
無意識なのかもしれない。
「だから、ここの入り口は“ヤミ鏡”と言われています。しかしそれは、闇を恐れた人々が付けた名だと、聞いていますが、この“ヤミ”には病むという意味も込められているそうですよ。」
「・・・・・・私も、夜は怖い。皆消えてしまうから・・・」
シトはそのアリスの言葉に、軽く目を伏せた。
再び目を開いても、ただじっと、森の中の闇を見据えていた。
そして自嘲気味にこう言った。
「・・・私は、ずっと前から大嫌いですよ。闇など・・・」
アリスはシトを横目で見ていた。
闇が嫌いだと言う言葉は、まるで自分自身に言っているように聞こえたから。
「・・・・私、たぶん、前の私に会った。」
そこでやっと、シャワールームであった事を話そうとした。
シトもその話に、耳を傾けていた。
「まだ小さくて、顔は見えなかったけど、あれはたぶん、私。それで、小さな私は言ったの。私には今も過去も無いんだって・・・。それと、時計を見せてくれた。」
シトははっとしてズボンのポケットに手を突っ込んだ。
中のものをそっと引っ張り出し、アリスの目の前に持っていく。
「・・・・これ、ですか?」
アリスはそれを手にとって、月明かりに照らした。
シトは金色のアンティークが、一瞬輝いたかのように見えた。
「そう、この時計。針も、数字もない・・・・・あれ、数字が・・・」
「私も、気付くのが遅かったのですが、12だけが刻まれていたんです。」
そこでアリスの頭に、あの女の子の言葉が浮かんだ。
つまりは私の言葉。
「数字が過去で、過去は土台で、土台は足跡・・・探して、時計を回して・・・・」
シトはアリスの邪魔にならないように、黙って聞いていた。
アリスは考えが纏まったのか、嬉しそうに時計を抱いていた。
「この時計、私の記憶なんだ。12はきっと、あの時見た記憶。」
「アリス様、いつ記憶を取り戻されたのですか?」
シトと初めて逢った場所。
大きな鏡。
穏やかな、緑いっぱいの場所。
そこで私の名前を教えてくれた、男の子。
「私の記憶は、君が出てきた鏡に刻まれてた。それに、小さい私も言ってたの。“鏡は割れたくらいじゃ、その役目は消えない。”一見例えのように聞こえるけど、あれはヒントだったんだ。私の記憶は、鏡の中に隠されてる。」
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