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Alice's Watch



カチャ、カチャ


「・・・・・いやぁ、まさかここまで食べるとは、思いもしなかったよ。」


アスは一人食事の後片付けをしながら、そう呟いていた。


「ごめんなさい。今日も少し、力を使ったから。お腹空いてた・・・。」


急に後ろから声がしたかと思うと、すぐ後ろにアリスが立っていた。

アスは自分の心臓が跳ねたのを感じた。

それは驚きのではない、別の・・・


「い、いや、怒ってるわけじゃないんだ。それにしても、本当にチェシャの影を倒したのはアリスなのか?」


アリスはその問いに頷いた。


「私を人形と呼んでいた女の子が、自分はカトライナ・メイデンでチェシャ猫だって言ってたから、間違いないと思う。ただ、私を連れて行こうとしていたから・・・・」


一端言葉を切ると、アリスは後ろを見る。

その目に映っているのは、慣れた手つきで食後の紅茶を用意しているシトだった。

シトはその視線に気付くと、優しく微笑んだ。


「お茶にしましょうか。アリス様。」


それを合図に、三人は席に着いた。





「では、情報収集といきましょうか。アス、今この世界はどうなっているのですか?」


席について早々、シトは単刀直入に聞いた。

アリスはお茶とお菓子を摘みつつ、しっかりと聞いてる。


「世界、というよりは、財閥が変わってきているんだ。チェシャ猫が名乗ったメイデンも、その一つ。彼らは人を人としない、人形“ドール”を創ってしまった。」


その言葉に、わずかながらアリスは反応した。

それを二人は見逃さない。


「・・・で、その“ドール”とは、財閥のご子息ご令嬢を護るための、言い換えれば自分の言うことを何でも聞いて自分を護ってくれるお人形。そんなわけで、財閥はそれの教育に費用を費やし、ある教育機関を設けた。それが“アプラドール”。要するに、教育って言葉をもじってるんだよ。」


アスは溜め息混じりに言い終えると、お茶を啜った。

すると、何かを思い出したのか、また言葉を続ける。


「そうだ。さっき新聞が届いたんだけど、昨日一晩で真っ赤に染まった屋敷って見出しがあったんだよ。」


アリスはもう何も手につけず、只管アスを見ていた。


「それが、その、メイデン家なんだ・・・・」


同時に、勢いよく二つの椅子が倒れた。

アスは座ったまま、ただ引きつった顔で笑っている。


「ほぉ、それは初耳ですね。どうしたらそんな重要な事を忘れられるのか、貴方の頭の中を覗いたいくらいですよ。」


敢えてつっこまないアスだが、実はテーブルから破壊音がしているのを気にせずにはいられなかった。

発生源は、シトの手の中。


「・・・ですが、これではっきりしました。この件はチェシャ猫の、カトライナ・メイデンという少女を手に入れるためだけのもの。アリス様は奴に操られていたにすぎない。」


シトの言葉にはだんだんと力が篭っていた。

それだけ猫がアリスにした事を許せないのである。


「でも、そうなると、やっぱりアリスも人を殺めたことになるよね。操られていたからって、人を殺めていないことにはならないんだから。」


ここへ来て初めての神父の言葉。

それはとても重い、神父からの、教会での言葉。

自然とアスとアリスは見つめ合っていた。

双方、表情には出さず、じっくりと互いを観察しあっている。

先に口を開いたのは、何やら頬を染めているアスだった。


「うわぁ〜、マジで可愛い!!も、本当にそんな見つめないで!てか、ぶっちゃけ君意外はどうでもいいんだけどね。無事で何よりだよ、アリスも、それにシトも。」


やはり神父あるまじき言動である・・・。






 

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あきゅろす。
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