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Alice's Watch



(アリス!)


また、私は呼ばれてる。


(今日はいい物見せに来たんだよ。)


今日は?じゃあ、いつもは何をしているの?


(えぇとね、ほら、時計だよ。)


・・・・時計。


(いつもしてる事はね、刻まれるんだよ。)


時計に?


(そう、だけど、そうじゃない。)


・・・・意味が分からない。


(時計はただの足跡、道標なの。)


矛盾してる。


(矛盾じゃない、歩けば足跡が出来る、それは土台となって道標ともなるから。)


・・・・・土台。


(ねぇ、アリス、今が不安で仕方がないでしょ?)


・・・・・・・・・・・。


(今の君には、未来もなければ過去も無い。)


時計の、針と数字が・・・・・・消えていく・・・・?


(ねぇ、いくら今の君でも泣きたくなっちゃうでしょ。)


・・・・・・っ・・・!!


(自分が消える瞬間は、鏡が割れる瞬間と一緒。)


ぁ・・・・・・な、みだ?


(大丈夫、君が恐れていたのは、こんな事ではないから。)


恐れる?


(君は君を犠牲にしても、こうなる事を分かってた。でも壊されたくなかったの。)


(だから私は私を犠牲にすることで、何も無くなった私にその先を委ねた。)


(今の君は力がある。護るだけの力が。)


護る力・・・・


(足跡は、探せば必ず見つかる。鏡は割れたくらいじゃ、その役目は消えない。)


(早く、足跡を。私の記憶を。時計を回して、じゃないと―――)





じゃないと、シトが―――――――――








「―――ス様!アリス様!!」


「・・・・・・ん・・・」


目を開ければ、そこはベッドの上。


「は、よかった・・・。大丈夫ですか?気分でも優れないのでは・・・」


目を覚まして早々、上から安堵の声がする。

それも真上から。

そこへタイミング良いのか悪いのか、アスが部屋に入って来た。

持っている飲み物が小刻みに揺れている。


「し、シトくん?!いくら相手が無防備だからって、していい事と、悪い事がっ!うおっ!!?」


「おやおや、いけませんね。余程“グリフ”は貴方がお好きのようです。」


「あ、あははははは・・・あ、あと数センチの命だったよ・・・・」


笑い合っているこの二人の温度差は、見て取れるほど激しく違っている。

まぁ、いつもと違っているのは、その温度差が逆転している事だが。

それもそのはず、アスの脇の下を黒く艶のある鋭利なものが服と一緒に壁に刺さっている。

さすがのアスも、あと数センチの命となれば青ざめない訳が無いのである。


「あ、あのさ、お腹空いてるんじゃないかと思って、夕飯作ったんだけど・・・。はい、あと紅茶。」


そう言うと、シトに出来る限り近づいてカップを渡そうとした。

服がビリビリと不吉な音をたてているが・・・。


「んぎぎ・・・・は、早く受け取ってよっ。シトくん!」


「おやおや、とどきませんねー。」

笑顔にそぐわぬ棒読みだ。

言わずとも分かるその光景は、まさにシトの目の前で茶色い液体が揺らいでいるのだった。







 

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あきゅろす。
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