[携帯モード] [URL送信]

Alice's Watch



「・・・アリス様、お召物の方はいかがでしたか?」


そこには只管鏡と睨めっこしているアリスがいた。


「うん。とても動きやすかった。」


一言一言がやはり淡々としているが、今着ている服が気に入っているのは間違いないようだ。

シトは妖精がいないことを確認すると、そっとアリスに近づいた。

二人で鏡を見つめる。


「何を見ていらっしゃるのですか。」


アリスはその問いに少し頭を傾げた。

それから静かに手をのばすと、流れるように鏡に触れた。


「ここに、映っているのは誰?」


「それは、どういう意味ですか?アリス様。」


すると、アリスはさらに鏡に近づいた。

消えそうな声がシャワールームに響く。


「私は、アリス。だけど、アリスじゃない。・・・・・過去が無いから。」


シトは今にも消えてしまいそうな彼女を、ただ見ていることしか出来なかった。

手袋をしていなければ、いや、その上からでも血が滲んできそうなほど、自身の手を握り締めながら。


「アリスさ――――――――――っ!!!」


それでも表情に出さずにアリスにそっと触れようとした時だった。

一瞬にして部屋が光に満たされた。

それからすぐに何かに吸い込まれたかと思ったら、今度は見覚えのある場所。




穏やかな、緑いっぱいの場所――――――――





 

[BACK][NEXT]

12/63ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!