Alice's Watch
2
「・・・アリス様、お召物の方はいかがでしたか?」
そこには只管鏡と睨めっこしているアリスがいた。
「うん。とても動きやすかった。」
一言一言がやはり淡々としているが、今着ている服が気に入っているのは間違いないようだ。
シトは妖精がいないことを確認すると、そっとアリスに近づいた。
二人で鏡を見つめる。
「何を見ていらっしゃるのですか。」
アリスはその問いに少し頭を傾げた。
それから静かに手をのばすと、流れるように鏡に触れた。
「ここに、映っているのは誰?」
「それは、どういう意味ですか?アリス様。」
すると、アリスはさらに鏡に近づいた。
消えそうな声がシャワールームに響く。
「私は、アリス。だけど、アリスじゃない。・・・・・過去が無いから。」
シトは今にも消えてしまいそうな彼女を、ただ見ていることしか出来なかった。
手袋をしていなければ、いや、その上からでも血が滲んできそうなほど、自身の手を握り締めながら。
「アリスさ――――――――――っ!!!」
それでも表情に出さずにアリスにそっと触れようとした時だった。
一瞬にして部屋が光に満たされた。
それからすぐに何かに吸い込まれたかと思ったら、今度は見覚えのある場所。
穏やかな、緑いっぱいの場所――――――――
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