Alice's Watch
第5話 鏡【きおく】
バタバタ・・・
「記憶が、無い?」
「えぇ、見つけた時はご自分のことすら忘れているみたいでした。」
バタバタバタバタ・・・
「それは、チェシャの仕業か。」
「分かりませんが、今のこの状況からしてその可能性が高い。」
バタバタバタバタバタバタ・・・
「・・・・あのさ、一ついいかな、僕たち何処に行こうとしてるの?」
「アリス様のところですが、何か?」
走りながらの会話の中、アスは何やら気味悪く笑うと、少し前にいるシトに言う。
その時のアスの表情は、それはそれはウザさ全開である。
「うふふふふ、そうかそうか。やっとシトも、ウサギちゃんから正式な狼に進化を遂げたんだね。僕はとても嬉しいよ。」
それがアッシュ・D・ケルンの遺言だった。
シトは今までになかった表情をしている。
それはとても哀しい、とても哀れな男の死であった。
「ぃ、いや〜・・・・ホント、久しぶりだよぉ。シトの、すっげぇ嬉しそうにしてる顔。あと、“哀”を二回も言われると、さ・・すがに、ヘ・・・・・コム。」
「貴方がご自分で転んだんでしょう。まったく、誰が嬉しそうにしてるんですか。ありえませんよ。貴方のその状況(生きているのこと)を悲しまないなんて・・・」
よく見なくとも、シトの表情は明らかに残念そうである。
・・・・心なしかシトのつま先が立っているように見えるが。
しかしアスの脳内では都合よく変換されていた。
都合がいいのかは、分からないが。
まぁ、どちらにせよ、寂しい結果になるのに変わりは無いのでそっとしておこう。
シトは構わず歩き出す。
アリスのいるシャワールームはすぐそこだった。
――――ドアが開いている。
「!!アリス様?!」
そのシトの声に、完全に復活したアスが猛スピードで駆けつけてきた。
中を見る。
真っ白なその空間、湯気が肌を撫でて、反響している水音が耳を刺激する。
無意識ながらシトは戸を閉めた。
ドアの向こうでは、獣の、いや、ケダモノの声が聞こえたりするが・・・。
[BACK][NEXT]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!