Alice's Watch
2
「!!なっ、気配なんてしなかったぞ!いつの間にっ・・」
アスは叫ぶと、声のする方を見る。
それはリビングの唯一のドア。
だんだんと足音が響いて大きくなる。
シトはその間にも本から下りて、そして呟く。
「・・・・・・・チェシャ猫・・・・・・」
足音は近づいてくる。
近づいて・・・・・・通り過ぎた。
「・・・・あら?何処行った。」
アスはそう言いながらも、緊張の糸をまだ張っている。
瞬間、シトがドアに向かって地を蹴った。
シトが居た場所に本が舞う。
「まさか・・・・・・・アリス!!!」
アスはそれを止めようとした。
何故ならシトはアリスの事となると、周りが見えなくなる。
それは非常に危険なのだ。
「シト!!待つんだ!!!」
その声はシトに届かない。
(クスクス・・・変わってないねぇ。せっかく僕が檻から出してあげたのにさ。)
シトはドアの前で勢いよく停止した。
ドアノブがゆっくりと回される。
シトは今度は逆に地を蹴ってその場から離れた。
次の瞬間、風と共にドアが勢い良く開かれた。
部屋中の本が舞い上がる。
(ふふ、久しぶりだね。ウサギに、神父。僕は、カトライナ・メイデン―――チェシャ猫。)
風は声を乗せて部屋に入ってくる。
そして部屋中の本を巻き上げて山を作ると、その頂上で少女が楽しそうに見下ろしていた。
「・・・メイデン?あの名の知れた財閥のか。どうしてお前がそんな名前を名乗ってるんだ。」
少女はアスの方を向くと、笑顔を向けた。
ぞっとするような笑み。
「それはね。この姿がそう名乗ってたからだよ。僕はカトライナ・メイデンと言う名の少女と、賭けをしたんだ。そして、僕が勝った。ただ、それだけの事だよ。」
「・・・・・・賭け?その娘の体を乗っ取ったのか。」
「さぁ、どうだろうね。それよりウサギ。気分はどう?もう少しで消滅しそうだった君を助けたんだ。感謝してもらいたいね。」
アスの質問を軽くあしらって、今度はシトに微笑みかける。
だが、その言葉はまたもアスに疑問を抱かせた。
「消滅って・・・・・何だよ、それ。シト、どう言う事だ。」
アスはシトを見たが、表情が見えない。
「ははっ!面白いなぁ。そうだぁ。良い事教えてあげるよ。」
シトは未だ喋ることは無い。
「もう少ししたら、君の体に異変があると思うんだけど。その原因について、二つ言っといてあげる。一つは、大切な者の拒み。もう一つは・・・・・高貴なる者の呪い。」
「・・・何故、貴方はここへ来たんですか。どうしてチェシャが私を助けたんです。」
心からの疑問を、少女の姿をしている猫に聞く。
相手が応えるはずもないと、わかってる。
でも聞かずにはいられない。
自分は幽閉されていた。
どうすることもできなかった。
ただ、闇に飲まれるのを待つだけだった。
実際、あと少しで、自分は闇になるところだったんだ。
アリスが、呼んでくれるまでは――――。
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