Alice's Watch
第3話 教会【よる】
「うわ。久しぶりだね。ウサギちゃん。」
ある山の、深い深い森の中。
一本の太い木の、土から出た根を踏むとそこは開かれる。
「いい加減、あの長ったらしい階段どうにかしてくれませんか。あと、その呼び方も。」
そこは一度開けば、1111段の地獄を見ると言われている。
しかもその階段。
ある条件を満たすと、段数が何倍にも跳ね上がる、のだそうだ。
そしてその先にある扉に辿り着けば、今度は832枚の自分を見ることになる。
つまりは扉を開けば、たくさんの鏡が出迎えるというわけである。
「いやぁ。あれも一応、防犯だからね。本当に、よく来たよ。シト。」
鏡はそれぞれが扉の役割を担っている。
ここもその一つ。
でも他の鏡と少し違う。
それは見つけにくいこと。
しかし見つければ、その鏡は一際輝く。
見つけにくくて分かりやすい鏡。
あとはその中に入るだけ。
ここは鏡の中。
832枚ある内の一つ。
入ればまた深い森。
出迎えるのは階段でも鏡でもない。
闇に潜めるお城、黒い教会――――――。
「あれ、シト?無言で溜め息は、ないんじゃないかな。」
「あぁ、失礼。あまりに貴方がお変わりないので、つい。本当に、あんまり来たくはなかったんですけどね。アッシュ・D・ケルン神父。」
「いやだな。アスって呼んでよ。あはははははは」
シトの言葉にも動じぬこの男は、この黒い教会の唯一の神父である。
アッシュ・D・ケルン、愛称アス、灰色の長髪に眼、そして神父にしてはまだ若い男であった。
「そんなことより、貴方はいつになったら気づくんですか。」
いまだ笑っているアスにシトは一睨みすると、腕の中のものを見せた。
アスもその様子に笑いを止め、まじまじとそれを見つめた。
「いやいや、僕はてっきり聞いてはいけない事なのかと思って、精一杯気づかないフリをしていたんだけど・・・・・。シトくん、ここは黒くても神聖な教会ですよ。」
視線をシトの方に戻すと、哀れみの目を向けた。
シトは笑顔である。
「その目、潰して差し上げましょうか。・・・・・・まぁ、無理もないですか。私ですら、予想外の出来事ですし。」
シトは再び確認するかのように、腕の中のものをそっと抱きしめる。
その様子はいかにも大切なものを扱うかのようであった。
とても切なく感じるほどに・・・。
「・・・・・・・・・・・」
アスは体中が震えたつのを感じた。
視線を戻す。
透き通るような、金髪の―――――――
「・・・・・本当に、見つけた・・・・のか?本当に・・・」
アスは声を震わせながら、手を伸ばす。
「えぇ、本当ですよ。この方は、アリス様です。ですから――――」
シトは後ろに飛びながらアスの手から離れた。
そして着地と共に笑顔を作る。
「触らないで戴きたいですね。」
「・・・・・はは、本当、ガード硬いなぁ。まぁ、見つかっただけでも、神に感謝しておくべきか。ふぅ、それにしても、綺麗になったなぁ・・・・アリス。」
少し遠くにいるアリスを、とても愛しそうに呼ぶアスに、シトは明らか嫌そうな顔をした。
それは0,01秒の出来事である。
「本性出てますよ。いくら腐っていても、貴方は神父。ここは神聖な教会なんですから。アリス様の前では慎んでください。」
「あれ、結局はアリスが中心なのね。それじゃ、話を聞こうか。シトくん。」
そう、ここに来たのは他でもない。
今の状況をアスに話すため。
逆に聞くためでもある。
アスはシトに座るように言った。
だがシトは構わず教会の奥へと進んでいく。
「あれれれれ?シトくん〜、何処行くの〜。」
それを慌てて追いかけるアス。
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