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忘却葬送曲
finale後編 10

事態に気付いた周囲の人々が、悲鳴を上げて逃げていった。
僕と透夜を庇うようにして立った孝一さんは、銃を向ける男に呼び掛ける。

「そんな物騒な物を、子供に向けないでくれ」

「・・・俺の、年の離れた妹は、ここに通っていた。高校二年生、十七歳だった」

独り言のようにそう呟くと、男は無残に崩壊した校舎を見つめる。

「当日準備があるからって、あの日、いつもより早い時間に、玄関から出て行くのを見たのが最後だった。・・・なあ、学園祭さえ無ければ、あの子は死なずに済んだんじゃないか、会長?」

暗い眼差しを向ける男に、隣に居る透夜が僕を守るようにしがみつく。
孝一さんは鋭い声で、相手に反論した。

「責める相手を間違えるな。・・・この結果をもたらしたのは、俺達大人に非がある」

「俺が妹を殺したって? はは、そんな訳ないだろう・・・俺はあの子を誰よりも愛していた。俺の全てだったんだ・・・どうして彼女が、死ななければならなかったんだ?」

絶望に沈む男の問い掛けに、僕は何も答えることが出来なかった。

彼は、僕と同じだ。
自分が在るべき世界を、彼は永遠に失ってしまったんだ。

彼女との繋がりを求め、藁にも縋る思いで、男はこの場所へやって来た。
・・・でも、ここには何も残っていなかった。
いくら探しても、呼び掛けても、泣き叫んでも、彼らは二度と帰って来ない。

「誰でもいいから、俺にあの子を返してくれよ・・・なあ、会長さん。あの子はお前に惚れていたんだよ、知っていたか?・・・知らないよな、妹は片思いだからって、諦めたんだ・・・ははは」

男は渇いた笑いをこぼし、狂気じみた視線で僕を射抜いた。

「ずっと俺は、お前を殺したかった。・・・天国に行って、妹に会ってくれよ」

男は、引き金に指を掛けた。


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