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忘却葬送曲
finale後編 8

傍観者の記録B


旋律の奏者である彼は、通常の人とはかなり異なった構成で、この世界に生み出した。

実験途中で死亡する事がないよう、周囲の人物に蓄積された記憶で自動修復されるプログラムを組み、彼自身が自己崩壊を選ばない限り、存在し続けるように作ったのだ。

最初の歴史忘却が起きてから数年、こちら側の世界のような凄惨な結果には至らなかったものの、それを行った彼自身が心に傷を負った。

そしていよいよ、彼が自身を消し去る事を選んだ時、彼が抱えている膨大な記憶の中から、数人の存在を抜き取り、僕の手元に保存した。

生徒会の仲間達の記憶、
隣の家に住んでいた幼馴染と、その父親の記憶、
そして、実の弟の記憶。

それらを失った彼は、一時的に無気力状態に陥ったものの、ゆっくりと立ち直る。
傍観者である僕と共に、彼は自身が変えたその世界を、静かに眺め続けた。

実験を開始してから、こちらの側にとっては一年、レプリカ世界では数十年が経ち、結果が見え始めた頃、僕はある事を思いつき、実行に移した。

忘却された人間達の再登場。二度目の生を、彼らに与えるということ。

倫理も摂理を無視した行為だと思いつつも、・・・彼らが別の未来を歩む姿を見たい一心に、僕は彼から抜き出した記憶を使い、ひとりずつ、世界に生み出していった。

永井孝一、中原正志、永井智洋、新島宗太、水野亮、近江透夜。

全く異なる、それでいてどこか似ている人生を進んで行く彼らは、まるで見えない何かで繋がれているように引かれ合い、再会を果たしていく。

一度彼の中に取り込まれた記憶が、本能的にそこへ戻ろうとする為か。
或いは、彼ら自身がそう願っているせいかもしれない。

偶然とは言い難い彼らとの出会いが、近江真琴に何をもたらすのか。
僕は、僕自身の救いを求めるような気持ちで、見つめ続けた。

・・・もし、この世界から抜け出せたら・・・もし、別の未来が待っていたら。

決して届くことはない、彼らと共に生きる世界を、僕は夢見ていた。


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