忘却葬送曲
finale後編 6
3−Aの喫茶店から出た僕達は、教室を見て回った後、人気が少ない中庭で休憩した。
透夜は、永井さんが以前プレゼントしてくれた腕時計を見て言う。
「真琴さん、永井さん、俺はそろそろ実行委員の方に戻りますね」
「ううん、お仕事頑張ってね」
「閉会式までずっと居るからな。・・・一緒に、家に帰るぞ」
一瞬、僕に視線を向けた永井さんは、少し間を置いてそう付け加える。
透夜はそれに違和感を覚えたのか、僕達を注意深く見てから言った。
「こんな時に聞くべきじゃないと思うけど・・・この前墓地で会った時、真琴さんと永井さんは、誰に会いに来ていたんですか?」
「・・・ああ、それは、」
突然投げられた質問に、僕は咄嗟に答える事が出来ず、口篭る。
永井さんは僕の肩を軽く叩くと、代わりに透夜に答えた。
「こいつにとって家族みたいに大事な奴が、あそこに眠っているんだ。
今度お前も、一緒に参りに行くぞ。・・・近江の家族なら、お前にとっても家族だ」
「俺の、家族・・・」
永井さんの言葉を、透夜は確かめるように復唱する。
何かを覚悟したように僕を見た彼は、静かな声で尋ねた。
「真琴さん、俺はずっと、あなたと一緒に居られますか?」
「透夜・・・」
永井さんと同じ、切望するような声と眼差しを、透夜は僕に向けていた。
「あなたと出会ってから、俺は本当に幸せでした・・・怖いくらいに。
いつか突然、この日々が終わってしまうんじゃないかって、不安に思っていたんだ・・・」
苦しげに気持ちを吐露した彼を見て、また、あの酷く懐かしい感覚に襲われた。
胸が締め付けられるほどの愛しさを、感じるのは何故だろうか?
(ずっと、君を守ってあげたかった)
真っ直ぐな目で僕を射抜く彼は、どこか幼い口調で詰め寄る。
「聞かせて、真琴。俺達を置いて何処へも行ったりしない? ずっと側に居てくれる?」
「僕は・・・」
透夜に答えようとして僕が口を開いた、その時。
キーン、コーン、カーン、コーン・・・!!
校内チャイムのような音が、とてつもない大音量で響き渡り、僕は両耳を抑えた。
世界そのものが楽器となり、振動しているような感覚。
これは、まるで・・・
「そう、君が奏でる旋律と、良く似た仕組みだよ」
残響に混じって聞こえたその声に、僕は目を見開いて顔を上げる。
そこに立っている人物は、僕が一番知っているようで、一番知らない人間だ。
僕よりもやや年をとり、白衣を羽織っている男は、薄く笑みを浮かべる。
眼帯が付けられていない右目を細めた彼は、僕と“同じ声”で言った。
「こんにちは・・・いや、初めましてかな。この世界の“僕”」
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