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忘却葬送曲
finale後編 5

下駄箱から靴を取り出していたところへ、後からやって来た彼が声を掛けた。

「近江、これから帰るところ?」

「新島君。うん、そのつもりだよ」

「良かった、途中まで一緒に行こう」

靴を履き替えた僕達は、校舎から出て校門へと向かう。
グラウンドには屋台用のテントが設置してあり、校舎には大きな垂れ幕が下がっている。
学園祭は、いよいよ明日に迫っていた。

「楽しみだな、学園祭」

「うん、開会式の挨拶の事を考えると、ちょっと気が重いけれど・・・」

「ははは、大丈夫だよ。俺達が舞台脇で見守っているから、安心して」

華やかなアーチが取り付けられた校門をくぐり、僕らは並木道を歩き始める。
青々としていた枝葉には、所々赤や黄色が混じり、季節の変わり目を告げていた。

「・・・新島君は、水野君と付き合っているんだよね?」

「ああ。・・・もしかして、中原に告白された?」

「うん・・・」

「そっか。可笑しな話だよな、男子校でもないのに、揃いも揃って・・・」

困ったように眉根を寄せて笑った彼は、言葉を続ける。

「仕方ないか、理屈じゃ説明出来ないんだから。・・・気付いたら、視線がいつも向いていて、あいつが笑う瞬間を待っている自分がいたんだ」

新島君は、嬉しそうでも、悲しそうでもある表情をしていた。

彼もきっと、それがずっと叶う訳ではないと知っているから。
想いを伝え合っても、一緒に笑っていても、どこか寂しさを感じてしまうんだ。

(・・・この日々は、いつまで続くんだろうか)

この不透明な世界では、未来の事を考えるのが恐ろしくて仕方ない。
だから僕は、今という時間にしがみついて生きていた。

不意に足を止めた新島君に、僕は俯いていた顔を上げる。
彼の目は、真っ直ぐ前を見据えていた。
夕日の色を反射して、息を呑むほど美しい光彩を放っていた。

「沢山想い出を作ろう、近江。どんな事が待っていたとしても、自分は幸せだって、いつでも胸を張って言えるように。悲しい事があっても、笑えるように」

「想い出・・・」

あの温もりを確かめるように、僕は右手を握りしめていた。


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あきゅろす。
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