忘却葬送曲
finale後編 4
傍観者の記録A
”忘却旋律”は、レプリカ世界の記憶を操作するために、用意したプログラムだ。
その力を彼に与え、使うか否かは、全て彼自身の判断に任せる。
僕は傍観者として見るだけで、一切それに関与はしないし、してはいけない。
あくまでも、この世界に生きている人間が決めるべき事だろう。
何故なら、この世界が僕の作った人工物だとしても、動かしているのがこちら側にあるマシンだとしても、れっきとした一つの世界だからだ。
“人為的に生み出した平行世界”とでも言えば、分かり易いだろうか。
物理法則や自然の摂理といったものが存在し、生物が普通に生き死にする。
こちらの世界と違う所を挙げるとすれば、そういうものがプログラム一つで制御出来る事だ。
世界の歴史など、外側の人間が下手に触れていい物ではない。
最も、そんな大事を彼一人の判断に任せるのも、おかしな話かもしれないが。
戦争が凄惨さを極める一年前、こちら側で言う十年前の時点から、この世界をスタートさせた。
順調に同じ道を辿っていけば、彼はやがてあの悲劇を迎えるだろう。
おそらくそこで、初めての忘却旋律が世界に響き、分岐が始まるはずだ。
誰よりも僕自身が、その事を知っている。
・・・忘れてしまうべきだと思った、あんな悲しい出来事は全て。
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