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忘却葬送曲
finale 前編 5

学校からの帰り道をゆっくりと歩いていると、急に肩から重さが消えた。
鞄を奪い取った彼は、素知らぬ顔で、僕の一歩先を歩いている。

「智洋、もう部活終わったの?」

僕が問いかけると、智洋は僅かにこちらを振り返り、また前を向く。
一瞬だけ見えた彼の顔は、暗く沈んでいた。

「ああ、・・・野球部もとうとう、無期限活動停止になるらしい。今日ミーティングで顧問に言われた」

「・・・そっか」

黙り込んだ彼の背中をじっと見つめながら、僕は付いて行く。

入部してすぐ、新品のユニフォームを誇らしげに僕に見せた時の、彼の笑顔が懐かしい。

小学生の頃から、智洋は生粋の野球少年で、一方の僕は本の虫だった。
全く正反対な僕らが幼馴染で在り続けられたのは、きっと家が隣同士である事も理由の一つだけど、ぶっきらぼうなようで世話好きな、彼の性格に因る所が大きい。

生徒会の資料や本が詰め込まれた鞄を、軽々と持つ後ろ姿に、酷く安心する。
これから先、世界がどう変わったとしても、彼はずっと僕の側に居てくれる気がした。

僕が立ち止まった気配に気付き、智洋も歩みを止め、振り返る。
夕日に赤く染まった僕らは、互いをじっと見つめ合った。

「智洋、・・・学園祭、僕は絶対成功させるから」

「・・・ああ、楽しみにしている」

智洋は仏頂面な顔に、珍しく優しげな微笑を浮かべ、また背を向けて歩き始める。

小さい頃からずっと、僕の弱音や悩みを受け止めてきた背中は、どこか嬉しそうに見えた。



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あきゅろす。
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