忘却葬送曲
prelude 8
「なんだ、これ・・・?」
ボストンバッグには小さな箱が一つだけ入っており、あとは衝撃防止用の包装材しかなかった。その箱の中を開くと、・・・携帯電話のような小さな機械が出てきた。最近流行っているタッチパネル式の最新機種、俺が持っているものにそっくりだ。
だが持ってみると、その見た目とは異なる重量感に違和感を覚えた。どうやらこれは、相当改造を加えたものらしい。その画面を開けば、見たことないアプリばかりが並んでいた。
「シールド、分解・・・何だ、これは・・・?」
俺は試しに「分解」というアプリを開き、画面に出てくる説明に従った。
―分解する範囲、及び物質を選択してください―
テーブルに置かれた、先ほどの男が残していったマグカップに目を付け、俺は入力した。
―半径3m以内、陶器・・・認証しました―
耳が痛くなるような、高い音が部屋に鳴り響き、・・・それと同じ瞬間、あったはずのマグカップが塵に変わり、その中に入っていたはずのコーヒーがテーブルを汚した。
「まさか、これは・・・」
俺は最大効果範囲と適応できる物質を調べた。・・・半径、2km・・・無機物、全て・・・!
この政府は、こんな危険なものを作ったのか。一体何のために・・・いや、愚問か。
「これさえあれば、敵国の基地なんて、あっという間に塵にできるな・・・」
双方の人的被害を最小限に、完全な武装解除を行い、自分の国が持つ最強の兵器で効率的に他国を支配する。
恨みを買わず、敵をむやみにつくらず、平和維持という名目で自国の更なる繁栄を得ることができる、これさえあれば。
ああ、間違っていないとも、その考え方は。・・・だが、遅すぎたんだ。何十年かけたって消しされない程、沢山の憎しみを、もうすでにこの国は買ってしまっているのだから。
俺も、お前のことが壊したいほど憎いよ。
・・・ならば、始めようか。
「俺の、俺だけによる、俺のためだけの、復讐劇を・・・!」
分厚いドアを突き破るための入力を、機械に素早く打ち込んだ。
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