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忘却葬送曲
finale 前編 4

透夜の学校の学園祭の日、秋晴れの清々しい空の下は、祭りを楽しむ大勢の人で溢れていた。
華やかなアーチで飾られた校門をくぐり、僕と永井さんは校舎へと続く一本道を歩く。

「あー何か懐かしいな、この空気。母校に帰って来たような気分だ」

「そうですね・・・わあ、美味しそう」

道を沿うように並ぶ模擬店から流れて来る匂いに、僕は思わず足を止めた。
永井さんも同じ方を向き、目を細めて笑う。

「何か買っていくか。近江、どれがいい?」

「へっ、君が買うの? いいよ、自分で出すから」

「俺がそうしたいんだよ。じゃあ、たこ焼きと焼きそばでいいな」

僕の返事は待たず、永井さんはさっさと目的の屋台に向かう。
それらを一個ずつ購入した彼は、すぐこちらへと戻って来た。

プラスチックケースを受け取ると、食べ物の温かい熱が手に伝わってくる。

「ありがとうございます。どこで食べましょうか」

「ベンチはもう埋まっているな、・・・そこの階段でいいだろ」

グラウンドへと降りていくコンクリートの段差を、永井さんが指差す。
砂埃でざらついた階段を足で軽く払って、僕らは腰掛ける。
座ってみると、高い空を一望出来る、とても気持ちのいい場所だった。

「・・・うん、結構美味いな。たこ焼きの方はどうだ?」

青のりがたっぷりかけられた焼きそばを、一口食べた永井さんが尋ねる。

「・・・タコが行方不明だよ、入れ損ねたみたい」

残念ながら空洞だったたこ焼きを、僕は舌を火傷しないよう、慎重に口に運ぶ。
半分食べ終わったところで、僕達はお互いの食べ物を交換し合った。

看板を持って宣伝して回る生徒の元気な声、次に行く場所を相談し合う楽しげな声、
手作りのアトラクションのゲームに成功した人の歓声、失敗した人の笑い声。

様々な音が混ざり合い、明るいさざめきとなって、僕の耳に届く。

「・・・平和だなぁ」

「平和ですね」

ぽつりと彼が呟いた言葉に、僕もぽつりと言葉を返す。
意味があるような、無いようなやり取り。

僕達はしばらく、穏やかな沈黙の中に身を任せていた。

「・・・お前、今日消えるつもりなのか?」

ようやく口を開いたのは永井さんの方で、その目はグラウンドを見つめている。
苦しげに眉を寄せる横顔に、僕は目を伏せ、謝罪を口にした。

「すみません、・・・やっぱり言わない方が良かったですね、悲しませるだけなのに」

「・・・いい。勝手に消えられる方が、よっぽど悔しい。・・・透夜には、伝えたのか?」

「いいえ。どう説明すればいいか分かりませんし・・・彼に止められたら、決心が鈍りそうですから」

「・・・俺じゃ、お前を引き止めるには、不十分か?」

乞い願うような彼の声に、痛みによく似た感情が胸を締め付ける。
突き抜けるような青空を見上げ、僕は静かに答えた。

「・・・多分僕は、自分の死を・・・普通の人間のように、誰かに悲しんで欲しかったから、あなたに話してしまったんです。・・・智洋なら、きっと何でも受け止めてくれるから」

視線を永井さんに戻すと、彼は目を見開いて僕を見つめていた。

「・・・今、俺の名前呼んだか?」

「あれ、そう言えば・・・ぼんやりしていたせいですかね?」

僕が首を傾げて原因を考えていると、彼は頭をボリボリと掻いて立ち上がった。

「あーもう、湿っぽいのは終わりだ! 今はとにかく学園祭だ、早く校舎に入るぞ」

赤面している顔を隠すように背を向けて歩き始めた彼に、僕は笑って付いて行く。
どこか懐かしい背中を追い掛けて、僕は歩き続けた。


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あきゅろす。
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