忘却葬送曲 finale 前編 1 忘却葬送曲〜最終楽章・前編〜 「・・・大変だ、近江!」 切羽詰った声が頭上から聞こえた僕は、読みかけの小説を閉じる。 顔を上げると、自身の親友である少年が息を切らし、そこに立っていた。 「学園祭を・・・今年は取り止めるって、校長が言ってきやがった・・・!」 「ああ、・・・まあこの情勢じゃ、そう言うのも仕方ないよ、中原副会長」 苦々しく言った彼に、僕は冷静な調子で応じる。 そんな僕の態度に苛立ったのか、彼は声を荒らげた。 「俺達がずっと準備して来た事を、そんな簡単に放り出していいのかよ! 生徒達だって楽しみにしているんだぞ、それに・・・」 言葉を詰まらせた正志の肩に、僕はぽんと手を置く。 少し驚いている彼を真っ直ぐ見て、安心させるために笑顔を見せる。 「諦めるなんて、僕は一言も言っていないよ。・・・こんな時だからこそ、僕達には楽しめる事が必要だ。 学園祭を開催出来るよう、一緒に頑張ってみよう、正志」 「真琴・・・いや、近江会長。ありがとう、よろしく頼むな」 腕を伸ばし、互いの拳をぶつけた僕と正志は、目を合わせて笑い合う。 その時、軋む音を立て、図書室の古いドアがゆっくりと開いた。 入って来た青年は僕達を見つけて、ほっとため息をつく。 「おお、やっぱり二人共ここにいたか。悪いがすぐに生徒会室に来てくれ。 俺や新島じゃどうにもならない仕事があってなあ」 「ごめんね、水野君。ついこの本に熱中しちゃって・・・さてと、仕事に戻りますか」 椅子から立ち上がった僕に、正志はため息混じりに言った。 「はぁ・・・まさか真琴、まだ蔵書全読破にこだわっているのか。絶対無理だろー」 「いいじゃない。叶わなくたって、続ける事に意味があるのなら」 「ほら、喋ってないで早く戻るぞ、お二人さん」 一刻も争うと言わんばかりに、水野君は僕達の背中を押して、図書室から出るように促した。 机に残された本が、開けっ放しの窓から流れ込む風に吹かれ、パラパラとページを進める。 開かれた場所には、過去を繰り返す街に囚われた男の、嘆きが記されていた。 ―・・・もし、この世界から抜け出せたら・・・もし、別の未来が待っていたら・・・― [次へ#] [戻る] |