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忘却葬送曲
Sixth Movement 6

俺は墓地からの帰り道を、藤堂先輩と二人で歩いていた。
新島先輩とは途中の分かれ道で別々になり、真琴さんはまだ永井さんと話があるらしく、先に帰っていて欲しいと言われたからだ。

酷く、胸がざわついている。
真琴さんと永井さんはどんな話を、あの場所でしていたのだろうか。

俺のその不安を感じ取ったのか、藤堂先輩もあまり話しかけず、静かに俺を見守っているようだった。
次第に薄暗くなり始め、街灯が光り始めた住宅街を、黙々と俺達は進み続ける。

赤になった信号機に立ち止まった所で、久しぶりに藤堂先輩が口を開いた。

「俺はさ、水野が本当に羨ましい。・・・こんな事、言っちゃいけないかもしれないが」

道路を走っていく車を眺めながら、彼はぽつりと呟く。
その顔は、届かない何かを焦がれるように、苦しげに歪んでいた。

「水野は、これからもずっと・・・きっと一生、新島の中で生き続けられるんだ。時間が経てば経つほど、更に光り輝いて・・・あいつにとって、かみさまのような存在になるんだろうな」

「かみさま・・・」

その言葉で俺が連想したのは、先程見た、夕日に照らされる真琴さんの姿だった。

「新島は本当に苦しんだよ、水野の死で。・・・何度も思ったさ、あいつの肩を捕まえて、こう言えたら・・・もう水野のことなんか忘れろ、苦しい記憶なんて捨てて、俺のことを見てくれ・・・まあ結局、そこまで図々しくない俺は、見守ることしか出来なかったんだけどな」

苦笑を浮かべた藤堂先輩は、青に変わった信号を、ぼんやりと眺めた。

「新島は強い。決して目を逸らさずに、自力で、水野の全てを受け止めてみせた。・・・だからこそ、俺はあいつに惹かれるのかもしれないが、・・・寂しいもんだな、全く頼られないと」

「・・・新島先輩は、藤堂先輩が側にいたからこそ、乗り越えられたんだと俺は思います。・・・誰かが自分を見守っていると思えば、人は強くなれるから・・・きっと水野先輩も、あなたのことを頼りにしていますよ」

俺はそう言って、信号よりさらに上の、星がちらつき始めた空を指差す。
その方向を見上げた彼は、普段と同じ明るい声で言った。

「・・・まあ俺は、生きているという利を活かし、せいぜい天国にいるあいつを焦らすとしよう。新島の隣をしつこいくらい陣取り続けるさ、副会長職だって根性で勝ち取ったんだ」

「・・・そう言えば、すごいカミングアウトですよね。先輩、同性愛者だったんだ・・・」

「うるせぇ、新島が男にしちゃ綺麗過ぎるんだよ・・・まあ、お前も可愛い顔しているけどな」

「うわっ、こっち見ないでくださいよ。ほら、信号が変わりますから渡りましょう」

信号が点滅し始めた横断歩道を急いで渡った俺達は、いつも通りにくだらない話で盛り上がり、いつもの場所で手を振って別れた。

大通りから外れ、暗い道を一人歩く俺は、ふと頭上の星を見上げた。
決して思い出したわけではない、でも確かに、俺の心がしっかり覚えている。

俺はこんなふうに夜の空を見上げて、全てに絶望した事がある。
どうしようもなく孤独で、誰にも理解されない苦しみに、うずくまっていた。

―・・・それじゃあ帰ろうか、透夜。俺達の家に・・・―

―・・・あなたの家に、僕も住んでいたんですか?・・・―

―・・・うん、そうだよ。君が帰るべき場所が、ちゃんとそこにある・・・ー

もう俺は、ひとりじゃない。倒れそうな時は、きっと誰かが俺を助けてくれる。
そう確信出来るからこそ、俺はあの言葉を藤堂先輩に言えたのだ。

以前の俺にとって、あなたがどんな存在だったのかは、わからないけれど。

それでも俺は、あなたとこうして過ごせる日々を、どうしようもなく大切に感じるんです、真琴さん。


(・・・どうかこの幸せな夢が、覚めてしまいませんように・・・)


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