忘却葬送曲
Sixth Movement 5
「・・・あれ、近江さんじゃないか?」
そう言った新島先輩に、俺も彼と同じ方向を見下ろす。
「・・・真琴さんと、永井さんだ」
ここよりも下にある墓地の、脇に作られている階段に並んで座り、二人は話し込んでいるようだった。
彼らも、誰か知り合いの墓に参りに来たのだろうか?
ゆっくりと立ち上がった真琴さんに、永井さんが何かを大きな声で言う。
責めるような態度の彼に、真琴さんは少しだけ困ったような顔をして、微笑んでいた。
そのまま彼らを眺めていると、永井さんが俺の存在に気付いたのか、驚いたように目を見張った。
彼に続いて、こちらに視線を上げた真琴さんは、一瞬びっくりしたように体を震わせる。
そして・・・嬉しそうでも、悲しそうでもある顔を、俺に真っ直ぐ向けた。
以前新島先輩が言っていた、宗教画に描かれた人物のような、優しい微笑み。
人々の罪を背負って、ひとり、別の世界へと向かった者のような。
胸が締め付けられるような寂しさが、押し寄せて来る。
俺は食い入るように、彼の姿をじっと見つめていた。
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