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忘却葬送曲
fifth movement 10

僕の体を真っ直ぐに貫いたガラス片は、溢れ出る鮮血で真っ赤に染まる。

目を見開いて僕を見る永井さんと、悲鳴を上げる透夜と、血まみれになった僕と自分の手を呆然と眺める静香さんが、僕の目に映った。

痛みと息苦しさに耐え兼ねた僕は、その場で膝を着く。

「真琴、真琴!」

僕に走り寄ろうとする透夜を、僕は安心させるために微笑んだ。

「透夜、ちょっと待っててね・・・。静香さん、大丈夫ですか・・・?」

僕を見つめる彼女の目からは、徐々に狂気が失われていき、一筋の涙がそっと流れ落ちた。

「あ・・・ああ・・・私、私・・・」

僕の前で、彼女は崩れ落ちるように座り込む。その震える肩に、僕は手を伸ばした。
遠ざかりそうになる意識の中、僕は残された力を振り絞り、言葉を紡ぐ。

「・・・静香さん、このままではきっと、あなたは歩き出せないから。
忘れましょう・・・この場所であった悲しいこと、あなたが失ってしまった者を。
きっとそれが・・・あなたが笑うことが、あの子の最後の願いです。・・・瞼を、閉じてください」

僕に抱きしめられた彼女は、涙で濡れた目をゆっくり閉じた。

悲しみが詰まった記憶を葬るために、僕は歌い始める。
優しくて・・・とても悲しい、忘却のレクイエムを。


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あきゅろす。
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