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忘却葬送曲
fifth movement 9

「静香さん、無事だったんですね・・・」

おぼつかない足取りで近づいてくる彼女の目は、どこか虚ろだった。
すすで汚れた顔には、いつものような優しい微笑みはなく、まるで表情がない。

「静香さん・・・祥太君は?」

「透夜君、どうして・・・」

透夜に噛み合わない返答をした彼女は、立ち止まり、ガラス玉のような目を僕達に向ける。

「・・・どうして、生きているの?」

「え・・・?」

「だって、あの子は死んでしまったのに。どうして生きているの?・・・ずるいわ、あの子だってまだ12歳だったのよ、昨日まで元気に生きていたのよ。おかしいじゃない、理不尽よ・・・祥太が何故、殺されなければならないの!?」

突然声を荒らげた彼女のその瞳に、憎悪の火が宿った。

「どうして軍の人間を助けるの・・・こんな事をした奴らなのよ!?許さない・・・許さない!」

髪を振り乱して泣き叫ぶ彼女に、僕は呼びかける。

「静香さん、落ち着いてください。透夜と一緒に船に乗って、島から出ましょう」

「・・・絶対行かないわ、私はもう死にたいの。こんな世界、大きっらい。
・・・祥太、祥太、可哀想に、あんなに血まみれになって・・・。どうして透夜君は助かって、あの子は死んでしまったの。
ねえ、祥太と一緒に死んであげて・・・死んでよ!」

地面に落ちていた鋭いガラスの破片を手にした彼女の手から、鮮血がこぼれ落ちる。
それを透夜に真っ直ぐ向け、彼女は向かって来た。

「おい、やめろ!」

瞬時に動いた永井さんが、静香さんを取り押さえようとした。
彼女が無闇に振り回す凶器が彼を血まみれにしていく。

「ぐっ・・・!」

彼の傷ついた片足が突然悲鳴を上げ、永井さんはバランスを崩した。
彼女は永井さんを振り払い、勢いよく地面に投げ出された彼は痛みに呻く。

拘束を解かれた彼女は、再び透夜に刃物を向けた。恐怖に体をこわばらせる透夜は動けないでいる。

「死んでよ・・・死んで・・・死ね!」

そして僕は、走り込んで来る彼女と透夜の間に立った。


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