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忘却葬送曲
fifth movement 8

缶飲料を飲み干し、再び歩き始めた僕らは、もう少しで海岸へとたどり着こうとしていた。
そこに軍の船が停泊しているらしい。

「・・・永井さん、僕はもう少し進んだら元の所に戻ります。やっぱり彼を一人にしておけませんから。透夜を、よろしくお願いします」

僕がそう言うと、彼は驚いて足を止めた。

「一体どうするんだ・・・彼は研究所のリーダーだろう、写真を見たから知っている。間違いなく軍に引き渡せば命は無い。だが、島民ではないお前なら助けられる・・・俺が絶対にそうする。この島からはすぐ出た方がいい。大体にして、透夜君がいるだろう」

「僕もそう思っていましたが、あなたなら透夜を任せられます。僕は、彼の最後を見届けなければいけないんです、どうしても。・・・それに」

僕は先程ポケットにしまったメロンソーダを取り出した。

「彼もこれが本当に好物で・・・届けないと、ずっと後悔しそうだから」

困ったように微笑む僕を、彼はひとつため息をついてから口を開いた。

「わかった。責任持って透夜君は俺が船に乗せる。・・・ここで別れよう、お前達の無事を祈る」

「すみません、・・・透夜をお願いします」

僕は頭を深く下げた。顔を上げれば、今にも泣きそうな顔をした透夜と目が合う。

「・・・真琴、行っちゃうの・・・?」

「ごめんね、一緒に行けなくて。・・・でも、また必ず会えるから。約束する」

膝を付き、僕は彼の小さな体を抱きしめる。透夜の体が小刻みに震えているのがわかった。

本当に優しい子だと思う。自分の気持ちより人の事を考えて、そちらを優先してしまう。
彼に泣かれてしまったら、僕はきっと正志の所へは行けない。・・・そんなことまで彼はわかって、耐えているのだ。

「ごめん、透夜。・・・永井さん」

「ああ、行ってこい。透夜、俺と一緒に行こう」

「・・・うん」

僕は透夜から体を離し、背を向けて来た道を引き返そうとした・・・その時。

「・・・透夜君・・・?」

僕達三人以外から発せられた声が、・・・聞き覚えのある彼女の声が、僕の足を止めた。


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あきゅろす。
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