[携帯モード] [URL送信]

忘却葬送曲
fifth movement 7

「そろそろ行きましょうか、・・・あっ」

それを見つけて、僕は驚きの声を上げた。瓦礫に足を取られそうになりながら近づく。

「自動販売機、燃えずに残ったのか・・・すごいな」

「僕もてっきりそうなったかと思っていましたが・・・でもお金がないか。財布、持ってくれば良かったな・・・」

「・・・ちょっとどいていろ。・・・おりゃ!」

気合の入った声と共に、自動販売機に強烈なパンチが繰り出される。
その衝撃で壊れてしまったらしい機械からは、次々と缶飲料が取り出し口に落ちてきた。

「わあ、魔法のようだ・・・ちょっと悪い気もしますが、ありがたくいただきます」

「不良だった頃の特技がここで生きるとは・・・おい、これ息子には内緒だぞ」

「ふふ、息子さんが知ったらびっくりするでしょうね、透夜、何がいい?」

「林檎ジュース!」

缶で一杯になった取り出し口から、僕は目的のものを探し出す。

「うん・・・あったあった。永井さんは何にします?」

「俺は炭酸系がいいな・・・メロンソーダがあるのか、それにする」

「本当、メロンソーダって人気があるんですね。わからないな・・・」

「なんか美味いんだよな。・・・そりゃあ、本物のメロンの果汁なぞ、一ミリも入っていないんだろうが」

僕はから缶を受け取った彼は、美味しそうにそれを飲み始める。
自分の分を選ぼうと再び取り出し口を覗けば、やたらと多いメロンソーダが目に付く。

なんとなく気が向いた僕は、それを手にとり口にした。
少しぬるめの甘い炭酸が、喉を潤していく。

「・・・やっぱり、僕は好きじゃないな」

だって、味も色も人工的で・・・子供の頃を思い出させて、どうしようもなく切なくなってしまうから。

ずっとずっと遠い昔の、僕の記憶を。


[*前へ][次へ#]

7/13ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!