忘却葬送曲
fifth movement 6
無残に破壊し尽くされた悪路を、僕達はゆっくりと進んだ。
樹々は一つ残らず燃えて炭となり、建物はどれも粉々に崩れ落ちている。
時々視界に入る焼け焦げた死体が、昨日の夜の光景を呼び起こした。
透夜は悲鳴を飲みこみ、僕にしがみつきたくなる衝動を抑え、僕の隣を黙って歩き続けている。
今日もまた快晴である夏の空からは、刺すように強烈な日差しが照りつけた。
怪我人の彼にはこたえるのだろう、眉を寄せ、顔を汗だくにしている。
「大丈夫ですか、あそこの影でちょっと休憩していきましょう」
「ああ・・・すまない。そうさせてくれ」
焼け残った建物の壁が作る影に入った僕達は、崩れたコンクリート塀の上に座る。
ゆっくりと息を吐き、ふと頭上の空見上げれば、目に痛いほどの青が広がっていた。
地上がこんなに変わってしまったというのに、この青い空は相変わらずだ。
空を覆っていた煙は、たちまち流れて消えてしまった。
「そう言えば、まだお名前聞いていませんでしたね。
僕は近江真琴といいます。こっちは透夜君です。透き通る夜と書いて、とうやと呼びます」
「俺は永井孝一だ。・・・綺麗な名前だな。君は今いくつなんだい?」
永井さんに優しげな瞳で話しかけられた透夜は、もじもじしつつ答えた。
「・・・十二歳、六年生だよ」
「そうか。俺のひとり息子は今、高校生なんだ。野球ばっかりしている体力バカだよ」
そっけないような、・・・それでいてどこか自慢げな彼の言い方に、僕は微笑む。
「息子さん、心配しているでしょうね。こういう危ない場所でお仕事しているんですから」
「・・・心配していないかもな。最近はすっかり嫌われてしまって・・・人殺し、そう言われてしまった。
確かにその通りだから、何も言えなかったよ」
険しい表情に変わった彼は、瓦礫の山となった景色を眺めた。
「俺は隊から離れ、単独でこの島を回っていた。
もしかしたら、民間人の生存者がいるかもしれないと思ってな。・・・だが、こんなに酷いとは。
今回の作戦はあまりにも無差別に人を殺し過ぎている。おそらく軍の上層部は、新型兵器の実験がしたかっただけなんだろう。それだけのためにこんなことをして・・・馬鹿共め」
「人を助けようとして、そんな怪我をしてしまったあなたを、息子さんが嫌っているとは思えません。
ちゃんと話をすれば、・・・あなたがどんな景色を見て、どう思ったのか伝えれば、きっとわかってくれます。
どうしてあなたが軍人をしているのか」
目を細めて僕に微笑んだ彼は、視線を真っ青な空へと移した。
「・・・この世界には、想像も付かないような残酷な現実が、常にどこかで起こっている。
俺はその中心に飛び込まずにはいられないんだ。目を逸らすことも、気が付かない振りをすることも出来ない。
・・・そういう、恐ろしく不器用な人間なんだ、俺は」
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