忘却葬送曲
prelude 6
「まあ、このバッグの中身は、後でこっそり教えてあげるよ。・・・少し席を外すね」
重厚な扉を開けて、鳴り始めたケータイを持った男が出て行く。
重い扉が締まる音が威圧的に響き、その後にドアの鍵をかける小さな音が聞こえた。
部屋に一人取り残された俺は、呆然と立ったままだ。
いつか、こんな日が来るかもしれない、そう危惧した俺は、高い社会的地位を得ようと、これまで必死に勉強を重ねていた。・・・まさか、こんなに早くその時が訪れるとは夢にも思わなかったが。
俺をここへ連れてこさせる元凶となった、ボストンバッグを睨みつけた。あれさえ、受け取っていなければ。
・・・確か中身は、兵器だと言っていなかったか、あの男は。
急に興味が湧き始めた俺は、止まりそうになっていた思考を働かせる。
あのバッグに入るものだとすれば、銃のような小型の強力な武器か?爆弾やガスならこんな場所に放置せず、すぐに科学班の所に持っていくはずだ。
警察署内でも迂闊に持ち運びができず、人目がつかない時にこっそりと運ぶため、あそこに一見無造作に、本当は隠すために置いている。・・・そういうことだろうか。
俺を捕まえた警察官も一般の部署ではなく、特殊な高い地位に居そうな雰囲気があった。尋問してきた男も、どうやら政府との関係が密接な人物らしい。・・・ならば、相当あれはやばいモノに違いない。政府が警察にも極秘で作った兵器、ということか。
「優秀な君になら効果的に使用できそうな兵器」・・・そんな物が容疑者と同じ部屋にまさか放置されているなんて、極僅かな人間しか知らないだろう。
天井には監視カメラがあるが、俺があのボストンバッグを触っても、自分の荷物を探っているのだろうと思うくらいで、あまり警戒しないに違いない。まさか兵器だとは思いもしないだろう。
あの中身を開いたら、俺は二度と後戻りができない。・・・だが、この憎らしい世界の牢獄に閉じ込められ、ただ過ぎ去る日々を呪いながら生きるなんて、死んでも御免だ。
幸い、腕には手錠もかけられず、相手側は完全に俺を舐めきっている。
もう俺の選択肢は一つしか残されていなかった。・・・いいさ、行けるところまで行ってやる。
こんな世界に、潰されてたまるか。俺は、絶対に負けない・・・!
俺はゆっくりと立ち上がり、自然な足取りでバッグへと近づいた。
鍵もついていない、無防備なチャックで締められたそれを、素早く開く。
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